時代小説人物評伝
弐の参 群雄篇
天下に届かなかった戦国大名達。江戸初期に大名として生き残っていた人物もこちらへ移動しました。
北条早雲 (ほうじょうそううん:1432〜1519)
正しくは伊勢新九郎。号は早雲庵宗瑞。実名は諸説有るが現在は盛時が定説。北条姓を名乗るのは二代目からなので本人が”北条早雲”と名乗ったことは無い。単なる素浪人ではなく、足利幕府の重臣伊勢氏の一族という説が有力。
山風版 「室町少年倶楽部」
一族の長である伊勢伊勢守の命で今参局を殺害しそのまま関東へ逐電する。
隆慶版 「吉原御免状」
乞食の出で「無縁の徒」「公界往来人」であった。その縁で傀儡の一族であった庄司又左衛門(甚右衛門の父)も北条家に仕えた。
斎藤道三 (さいとうどうさん:?〜1556)
美濃の大名。かつては油売りから一代で成り上がったとされたが、これは親子二代の事跡であることが知られる。
宮本昌孝 「剣豪将軍義輝」
回国修行中の将軍義輝の才気を評価。娘婿の信長と引き合わせた恩人。
武田信虎 (たけだのぶとら:1494〜1574)
甲斐の大名。息子信玄に領主の座を追われる。結局、息子よりも長生きする事になる。
山風版 「室町お伽草紙」
無国無人斎と名乗って堺の軍師となり、上洛中の信玄、謙信、信長らと知恵比べに及ぶ。愛妾玉藻を失った後は毒気が抜けて、南蛮船に乗って天竺へ向かった。
毛利元就 (もうりもとなり:1497〜1571)
西国一の謀将。一代でのし上がり、中国地方十カ国を支配する。
山風版 「盲僧秘帖」
忍びを使って陶晴賢を厳島へおびき寄せ奇襲によって滅ぼす。
…忍法帖以前の普通の歴史小説なので、史実そのままですね。らしいと言えば伝来間もない切支丹が絡む当たりですか。
柴錬版 「忍者からす」
尼子に留めを刺した偽手紙は元就の計略ではなく、尼子を滅ぼしてその遺臣山中鹿之介に栄光を与えようとする鴉の仕掛けであった。
武田信玄 (たけだしんげん:1521〜73)
甲斐の大名。上杉謙信との川中島の合戦は有名。
山風版 「室町お伽草紙」 「忍法死のうは一定」「信玄忍法帖」
大の毛虫嫌い(「室町お伽草紙」)。というのはどうやら史実らしい。父を呼び戻す為に堺へ向かう。南蛮鉄砲を巡る争いに際して無人斎が提示した条件に対してどのような感想を持ったかは不明。
信長の難敵として果心居士の女陰往生に掛かって果てる(「忍法死のうは一定」)。その影武者を巡って徳川の伊賀忍者と真田の信濃忍者が死闘を演じる(「信玄忍法帖」)。
半村版 「産霊山秘録」
彼の上洛が天下騒乱の元であるとしてヒの一族に呪殺される。信玄に対して辛いのは、やっぱり家康の最大の難敵だった所為でしょうか。
菊地秀行 「しびとの剣」
信長(と蘭剣)に冴月紫靡帝の抹殺を依頼される。しかしそれが果たせずに、契約であった死からの再生を受けられず死病が悪化。蘭剣の企画で信長と模擬戦を演じ勝利するが、その後に信長に討たれる。信長を危険視した蘭剣によって再生。
柴錬版 「忍者からす」「柴錬立川文庫」
古今比類なき奸佞邪智の悪党。信長以上の残虐性を備えていたと評される。
雅姫の要求により彼女との間の男子を世継ぎにすると熊野の誓詞を与え、熊野へ黄金五百枚を献じる。が、その真の意味を知らなかったと思われる。
信長の意を受けた百々地三太夫によって毒殺される。この時期「鴉」も武田家中にいたのだけど、鴉の目的はおそらく誓詞の条件であった勝頼を守ること。むしろ信玄が死んだことで契約は完了した。
朝松健 「真田昌幸 家康狩り」
真田幸隆の三男源五郎に目を掛けて表裏比興の奥義を伝授する。
宮本昌孝 「剣豪将軍義輝」
回国修行中の将軍義輝を歓迎。しかしお家騒動を知られて謀殺を試みる。
三好長慶 (みよしながよし:1522〜64)
細川管領家の被官。足利義輝を将軍に擁して幕府の実権を握る。
山風版 「室町お伽草紙」「伊賀忍法帖」
すっかり惚けたのか、家臣である松永久秀の跳梁を許している。
宮本昌孝 「剣豪将軍義輝」
主君の殺害に踏み切れない優柔不断な性格。寵臣松永久秀を信用しすぎて弟達を失う。
北畠具教 (きたばたけとものり:1528〜76)
伊勢国司北畠家当主。 塚原卜伝・上泉伊勢守の両剣聖から剣術を学んだ剣豪大名。伊勢守に柳生宗厳や宝蔵院胤栄を紹介したのも彼であった。
信長の侵攻に対しその息子茶筅丸を婿養子として和睦。
山風版 「忍法剣士伝」
信長の伊勢侵攻に際して塚原卜伝・上泉伊勢守の両剣聖を初めとする剣士の十字軍をもって対抗するが、果心居士のいたずらにより壊滅する。
柴錬版 「柴錬立川文庫」
信長に内通した一族に毒を盛られて衰弱。信長の食客新免武蔵守一真に首を討たれる。柳生宗厳の娘須摩に産ませた遺児小次丸が長じて佐々木小次郎となる。
上杉謙信 (うえすぎけんしん:1530〜78)
越後の大名。信長最大の敵の一人。
山風版 「室町お伽草紙」 「忍法死のうは一定」
女性恐怖症(「室町お伽草紙」)。密行上洛中、将軍家の姫と三百丁の新式銃を巡って信玄・信長・久秀らと争う。最後は信玄・信長と共闘して堺を攻撃する。
果心居士の女陰往生によって絶命(「忍法死のうは一定」)するのだが、不犯の謙信が何故女陰往生に掛かったのか…。
参考 忍法帖別解 謙信、女陰往生に死す
半村版 「産霊山秘録」
信玄と同じ手口(但し精度は上がっている)で暗殺される。
明石散人 「鳥玄坊」シリーズ
元は義経に倣って飯縄明神=迦楼羅天を信仰していたが、後に義経の失敗を悟り義経流を捨てて謙信流を立てる。それに伴い毘沙門天信仰へと変わった。
柴錬版 「柴錬立川文庫」
信長の意を受けた百々地三太夫によって刺殺される。冤死させた柿崎和泉守の亡霊に命を縮められたとの風説が立つ。
朝松健 「真田昌幸 家康狩り」
信玄を持ち上げるために相対的に落とされる。服部半蔵の手に掛かり、二人の養子景虎・景勝が争うように仕向けられる。
宮本昌孝 「剣豪将軍義輝」
領国を捨てて叡山に篭るが何者かの襲撃を受け、将軍義輝に救われる。義輝を後援する大名の第二候補と期待される。
今川氏真 (いまがわうじさね:1538〜1614)
駿河の大名。義元の不肖の息子。
山風版 「姦臣今川状」
善大将という良く分からない評価をされる。ちなみに彼を追いつめた信玄・家康が悪大将と呼ばれる。武田・徳川に領国を浸食されながらも忠臣に守られて天寿を全うする。
鍋島直茂 (なべしまなおしげ:1538〜1618)
竜造寺隆信の家老。義弟(隆信の生母が彼の父と再婚した)
主君隆信が島津家との戦いで討たれるとその息子政家の後見となるが秀吉に接近して実質的に竜造寺家を差配する。
五味康祐 「柳生武芸帖」
武に溺れる主君竜造寺隆信に見切りをつけ、隆信の死後の竜造寺家を乗っ取る。
井沢元彦 「葉隠三百年の陰謀」
沖田畷の戦いで意図的に主君隆信を見殺しにし、秀吉・家康に接近して竜造寺家を乗っ取る。
荒山徹 「砕かれざるもの」
竜造寺家乗っ取りのためその血を引くものを駆り立てる。
浅井長政 (あざいながまさ:1545〜73)
江北の大名。信長の妹お市の方の夫。三人の娘と一人の息子をもうけるが、息子は信長の命を受けた秀吉によって殺される。歴史に名を留めるのは残った三人の娘のおかげかも。
山風版 「妖説太閤記」
竹中半兵衛から秀吉の将来の敵と見られ、反信長陣営に追い込まれる。秀吉にとってもお市の方を奪った恋敵であったから、滅亡は避けられなかったであろう。
柴錬版 「柴錬立川文庫」
信長への憎悪と美貌の妻の未来の夫への嫉妬心から娘達ともども焼き殺そうとする。
真田昌幸 (さなだまさゆき:1547〜1611)
真田幸隆の三男で、甲斐の名族武藤家を継いで武藤喜兵衛と名乗る。兄二人が長篠で亡くなったため復姓した。真田幸村の父。
徳川軍を都合二度も撃退し、徳川家の天敵と言われた。しかし二度とも家康の指揮ではなかったが。
山風版 「信玄忍法帖」 「幻妖桐の葉おとし」
道鬼斎の命を受け、配下の忍者を使って徳川の伊賀忍者と死闘を繰り広げる(「信玄忍法帖」)。高台院の依頼で大阪城の秘法の謎を解こうとして命を落とす(「幻妖桐の葉おとし」)。
昌幸の正室の出自には諸説あるが、信玄忍法帖では「菊亭晴季の娘」説をとっている。
半村版 「黄金の血脈」
松平忠輝を三代将軍に据えようと画策する大久保長安の策に賛同するが真田家の行く末も考慮して消極的。徳川の天下は固まったと見て東西融和を目指して片桐且元に策を授けていた。長男信之の赦免が実る前に他界した。
荒山徹 「魔風海峡」 「徳川家康」
武田家の部将として忍びを駆使した父と違い、独立した戦国大名として正規兵による戦いを選び忍び離れを図る。
友景サイクル(「魔風海峡」)では庶長子の幸村に辛く当たるが、幸村の手腕を評価して彼とともに豊臣方につく決意をした(と思われる)。
大戦争サイクル(「徳川家康」)では幸村とともに打倒徳川の為に内部分断を目指して暗躍するが目的を果たさずに死去。父を失った幸村は呆けてしまった。
朝松健 「真田昌幸 家康狩り」「真田幸村 家康狩り」
白比丘尼の予言した天下の趨勢を左右する武将。戸石城攻めで生涯の仇敵と遭遇。三方ヶ原で追い詰めるが、服部半蔵の乱入で取り逃がす。
信玄から表裏比興の兵法を授かり、信玄の死後は白き武者(時代の趨勢に従って生き残りを優先する)となるように遺言される。息子二人にこれを継承。兄の信之は白き武者に、弟の幸村は黒き武者を割り当てる。
信玄からの寵愛は勝頼からの憎悪を煽ることと成った。勝頼の滅亡後は北条、織田と主君を変えて生き延びる。
朝鮮出兵の最中、秀吉の命で大名家の領地を調査。更に慶長の再征時には家康の家来を幾人も謀殺する。
柴錬版 「柴錬立川文庫」
関ヶ原の際、徳川秀忠軍に包囲される中現れた猿飛佐助を真田家を滅ぼす悪魔の使いと見る。これを試す為に山田長政の生け捕りを命じる。
池波正太郎 「忍びの女」
西軍に加担し、忍びの部隊を関ヶ原へ派遣する。
武田勝頼 (たけだかつより:1546〜82)
信玄の四男。信玄の死後、家督は彼の息子信勝が継ぎ、彼はその陣代とされた。信玄の膨張政策を引き継いだが、信長に敗れて滅亡する。必ずしも凡将とは言えないが、偉大な父と強大な敵の前に挟まれたのが不幸であった。
山風版 「信玄忍法帖」
信玄の生死を探りに来た風魔小太郎に対し真実を明かした上で、武田家は自分が守ってみせると宣言する。一行の中に紛れ込んでいた氏政の娘はその男らしい態度に感激し己の輿入れを実現させるため小太郎に沈黙を守るように命じる。
菊地秀行 「しびとの剣」
自分を狙撃した男と一騎打ちをする真っ正直な人物。素性の知れぬ冴月紫靡帝を平然と父信玄の元へ案内する。
柴錬版 「忍者からす」「柴錬立川文庫」
彼の生母諏訪御前が求めた熊野の誓詞を受けて暗躍した熊野忍者の力で武田家の家督を継ぐ。信長が養女を彼に嫁がせたもの鴉の情報によるものであり、信長の元を去った後、三方ヶ原で鴉が彼の雑兵に混じっていたのも、すべてこの契約の一環だったのだろう。
武田滅亡に際して、戸沢白雲斎に託した一子信勝はその臆病から織田方の忍者地獄百鬼に討たれるが、快川紹喜に託して恵林寺にあった妻の産んだ子が長じて猿飛佐助となる。
朝松健 「真田昌幸 家康狩り」
凡将を通り越して暗愚。生母諏訪御前から真田親子に対する憎悪を吹き込まれる。特に父信玄の寵愛の深かった武藤喜兵衛に対する憎悪は彼の身を滅ぼした。
最上義光 (もがみよしあき:1546〜1614)
出羽の謀将。妹義姫は伊達輝宗に嫁いで政宗を産む。
最上家を残す為に謀略をめぐらす。次男を家康の小姓として送り込み、これを後継ぎにしようと長男義康を謀殺する。駒姫を秀次の側室として差し出すが、秀次事件で連座。彼女が秀次の元に送られたのは切腹直前でまだ手がつく前であった。
柴錬版 「柴錬立川文庫」
九戸の乱で下向してきた三好秀次を次の天下人と見て娘を差し出す。(実際には秀次の申し出を断れなかっただけ。この時点で秀次を後継者と見込んだとしたらたいした見識である)
長男の遺児義太郎は林崎甚助に救われて、家を継いだ次男家親を暗殺する。
上杉景勝 (うえすぎかげかつ:1555〜1623)
謙信の甥で養子。北条家から来たもう一人の養子景虎を敗って家督を相続する。
山風版 「くノ一紅騎兵」
直江兼続の紹介による寵童が実は真田のくノ一で、彼女が生んだ男子を質とされて家康と戦う事になる。
朝松健 「真田幸村 家康狩り」
美貌の幸村に言い寄って投げ飛ばされる。
荒山徹 「柳生大作戦」
兼続の言いなり。会津への移封には不満を持ったが、家康を倒した後に越後を加増される約束で丸め込まれる。
半村版 「黄金の血脈」
会津で算出する金銀に引かれて越後からの移転を受け入れる。(家康によって移されたような記述だけど、会津に転封したのは秀吉ですけどね)
別所長治 (べっしょながはる:1558?〜1580)
播磨の名家別所家の最後の当主。初め信長に従うが、後に叛旗を翻して毛利や本願寺と結ぶ。秀吉の包囲を受けて「三木の干し殺し」として知られる。
司馬史観 「雑賀の船鉄砲」
別所の家名の誇りを守るために離反。
伊達政宗 (だてまさむね:1567〜1636)
奥州の独眼竜。初代仙台藩主。家康の六男忠輝の舅。秀吉より幾度も謀反の嫌疑を掛けられるがそのたびに辛くも切り抜ける。
山風版 「風来忍法帖」「叛旗兵」「柳生忍法帖」
風魔小太郎の命令で秀吉の馬印を取りに向かった香具師達に利用される。
佐々木小次郎の仕官を求め、その腕前を見るために上泉主水との果たし合いを検分するが、蒲生浪人岡野左内の乱入により水入りとなる。
竹橋御門に晒された後、屋敷へ運ばれる途中の加藤明成をなぶる。但し、史実では既に死んでいるので、漫画版Y十Mではこの役目は(原作では遠くから見ているだけの)松平伊豆守が担った。
半村版 「黄金の血脈」「産霊山秘録」
芦名領内の金山を欲するが、芦名が余りに脆くて会津をそっくり手に入れる。しかし秀吉の小田原出陣により折角奪った会津を横取りされてしまう。
太閤の勘気を蒙った呂宋助左衛門の一族を密かに庇護。帰国した助左衛門を領内に匿うが、太閤の黄金が領内に運び込まれたことは知らなかったらしい。
南蛮と結んだ徳川包囲網の一環として遣欧使節を派遣する。しかし計画の核となる大久保長安が死んだため計画は頓挫。渡欧した支倉が芯の山の情報を漏らしたことが後の時代に日本の危険をもたらす事になる。
隆慶版 「捨て童子松平忠輝」
兄秀忠の憎悪を集める忠輝を海外へ逃すため、家康と図って遣欧使節団を計画するが、 忠輝は最後に渡海を固辞したので、その意図は後世に謎を残す事となる。
池宮彰一郎 「天下騒乱」
戦国の数少ない生き残りとして池田家での刃傷に始まる外様と旗本の争いに、娘婿である池田忠雄に味方して幕府へ圧力を掛ける。
五味康祐 「真田残党奔る」「柳生武芸帳」
無名の一旗本時代から柳生宗矩の器量を見抜き、親交を結んでいたと言う。
本多正純の計画を事前に知っていて離れた位置から傍観する。事件への関与を疑われるが、宗矩の配慮によって追求を免れる。
柳生武芸帳の何たるかを知る唯一の大名であった。
朝松健 「五右衛門妖戦記」
関白秀次に妖術師竹音と忍者霧隠大蔵(才蔵と言う息子がいる)を提供。
宇喜多秀家 (うきたひでいえ:1572〜1655)
備前岡山の大名。宇喜多直家の子。秀吉の養子となり準豊臣親藩大名として、五大老の一人にも数えられた。前田利家の四女豪姫(秀吉の養女)を娶り二男二女を儲ける。
関ヶ原の合戦における副将。敗北後は薩摩に逃れるが、助命嘆願によって八丈島に流されて長い余生を送る。
荒山徹 「陰陽師・坂崎出羽守」 「魔風海峡」「砕かれざるもの」
朝鮮陣で怪異に遭遇。豪姫に化けた怪異を倒そうとして従弟顕家が討たれる。これを倒した朝鮮の陰陽師鄭玄秀を顕家の名を継がせる。(「陰陽師・坂崎出羽守」@友景サイクル)
同様の一件が別時空でも発生するがこちらは朝鮮忍者の仕業とされる。(「魔風海峡」)
大坂の陣における参加要請を無駄に天下の争乱を長引かせるものとして拒否。しかし前田家を取り潰そうとする家光の謀略に怒りを覚える。島を抜けた孫を追ってこれを助け、妻との再会を果たす。事件決着後はそのまま八丈島へ連れ帰った模様。(公式には死亡とされる)