時代小説人物評伝

肆の肆 豪傑篇

百地丹波 (ももちたんば:1512〜81?)

 伊賀の土豪。別名三太夫。伊賀忍者を束ねる三人の上忍の一人。

 柴錬版 「柴錬立川文庫」

 百々地丹波の名で登場。信長の依頼で信玄謙信を暗殺。信長に五年以内に死ぬと予言し、それを実現させるために明智光秀に謀反を起こさせて、秀吉に天下を取らせる為にその光秀も始末した。

 家康の招きを拒むと、その家康によって離反させられた十五人の養子と相打ちになった。

明石掃部 (あかしかもん:生没年不詳)

 実名は全登(読みは諸説あり)、あるいは景盛。備前国人で宇喜多家の客将。キリシタンとしても知られる。

 お家騒動で重臣の多くが宇喜多家を離れると、執政として秀家を補佐する。大坂の陣では五人衆の一人に数えられる。有力武将中でも珍しく討死が確認されていない。

 柴錬版 「柴錬立川文庫」

 幸村兼続と並ぶ名軍師と評される。

 九度山に幸村を訪ね、輿入れする千姫をさらって婚姻を妨害しようと提案する。

可児才蔵 (かにさいぞう:?〜1613)

 通称・笹の才蔵。諸大名を渡り歩き、最後は福島正則に仕える。

 山風版 「叛旗兵」

 旧主筋である前田慶次を逃がして割腹。彼の死は最後には主家である福島家を滅ぼす事になった。彼は直江左兵衛の素性を知っていたらしい。

前田慶次 (まえだけいじ:1533?〜1605or12)

 実名利益。前田利家の兄利久の義理の息子。実父は重臣滝川一益の一族。

 希代の傾奇者として知られる。生没年は諸説有って定まらない。

 山風版 「くノ一紅騎兵」 「叛旗兵」

 直江山城守の四天王の一人として登場。

 隆慶版 「一夢庵風流記」

 山風版と大差なし。恐らく基にした資料が同じなのだろう。しかしこれが漫画化されたことで彼の知名度は爆発的に上がった。かく言う編者もこちらが先だった。

 彼による武将達の評価はおそらく作者自身のそれなのだろう。

後藤又兵衛 (ごとうまたべえ:1560〜1615)

 実名基次。黒田如水に仕えた猛将。如水の死後、後を継いだ長政とは反りが合わず一族を引き連れて出奔。大坂城に入って五人衆に数えられる。

 山風版 「悲恋華陣」

 三木城に篭る父将監によって敵将黒田官兵衛に託される。

 柴錬版 「柴錬立川文庫」

 真田大助と遭遇し、父の情を示して大助が父幸村に抱くわだかまりを解く。

 司馬史観 「軍師二人」

 真田幸村と並ぶ大坂城の二大軍師。しかし出戦計画で幸村と対立し、採用されたのはどちらも不満の残る折衷案であった。

 現場の判断で、幸村は彼の案に乗ってくれたが、霧の為に到着が遅れて孤軍のまま討死。

渡辺勘兵衛 (わたなべかんべえ:1562〜1640)

 実名は了。あるいは別名として吉光とも。

 関ヶ原の時には増田長盛に仕えていて、主君が高野山に蟄居した後もその居城を守り、長盛からの書状をみてようやく開城した。その後、藤堂高虎に仕えて大坂の陣で戦うが、戦い方を巡って主君と衝突し、戦後に出奔する。

 司馬史観 「侍大将の胸毛」

 名前を覚えるのが面倒と言う理由から妾をすべて市弥(かつての呼称)と呼ぶ。近江訛りがきついと言う理由から主君はすべて近江の人間ばかり。藤堂高虎の招きに応じたのも、彼が近江の出身だったからか。

上泉主水 (かみいずみもんど:?〜1600)

 実名泰綱。一般的には伊勢守の嫡子秀綱の子とされる。後北条氏に仕えていた父は第二次国府台合戦で討死。後北条氏滅亡後は浪人する。

 関ヶ原で上杉家に属し、最上軍との戦いで討死する。志駄義秀の子が養子として入婿し、その子孫は上杉家に仕えた。

 山風版 「くノ一紅騎兵」 「叛旗兵」

 直江山城守の四天王の一人として登場。

 伊勢守の実子を名乗る。柳生の庄でも恩師の遺児として遇され石舟斎より剣の指南を受ける。

 但馬守などは二十年前に打ち据えたと公言する一方、ひょっとしたらこちらが危ないかも知れないとする武芸者として宮本武蔵佐々木小次郎の名を挙げる。

 隆慶版 「一夢庵風流記」

 関ヶ原に際して上杉家に助力した牢人衆の一人として名前だけ登場。

 荒山徹 「柳生黙示録」

 実名秀胤(上杉家に仕えていたとあるので彼のことであろう)。庶子教綱が切支丹に取り込まれ神聖ハポン騎士団の一人として柳生十兵衛と対決する。

岡左内 (おかさない:?〜?)

 若州太良庄城主、岡泉守盛俊の子。実名は定俊。蒲生家に仕えるが氏郷没後は出奔、上杉家に仕えて伊達政宗と戦う。上杉家の史料では岡野左内と成っている。関ヶ原の後は会津に復帰した蒲生家へ帰参し猪苗代城代となった。

 利殖に巧みな一方で、私財を投じて教会を作った敬虔な切支丹でもあった。

 山風版 「くノ一紅騎兵」「叛旗兵」

 直江山城守の四天王の一人岡野左内として登場。

 史実どおりの守銭奴が、同時に無類のギャンブル好き。日本でただ一つの麻雀牌を所有し、武蔵小次郎と卓を囲む。武蔵からは借金の形として自作の麻雀道具一式を手に入れる。

 「貧福論」(@「雨月物語」)

 倹約家である彼が黄金の精霊と対面して語り合う。

車丹波 (くるまたんば:?〜1602)

 佐竹家臣。実名は斯忠の他諸説あり。関ヶ原のおり、表立って動かなかった主家に替わり、上杉家に属して戦う。

 主家が常陸から出羽久保田へ転封になったのを見て水戸城の奪還を試みて敗れる。

 息子(あるいは弟)の善七は家康暗殺を企てて捕らえられ、許されて非人頭となる。

 山風版 「くノ一紅騎兵」 「叛旗兵」 関連作品 「乞食八万旗」

 直江山城守の四天王の一人として登場。

 史実では水戸城奪還に失敗して磔となるが、自分によく似た家臣身代わりを立てて逃れ上杉家に身を寄せる。

 自分の身代わりとなった家臣の未亡人を後妻とする。その負い目も有ってか、この妻には頭が上がらない。

 隆慶版 「一夢庵風流記」

 関ヶ原に際して上杉家に助力した牢人衆の一人として名前だけ登場。

 半村版 「黄金の血脈」

 山狩り衆。常陸国衆の結集を目指して画策。一旦は長安真田昌幸幸村親子の計略(織田家の血を引く名古屋三四郎を利用した徳川包囲網の形成)に加担するが、家康の調略に乗って宿敵風魔と和睦する。(史実では既に死んでいる)

名古屋山三郎 (なごやさんざぶろう:1572or76〜1603)

 蒲生氏郷の家臣。氏郷の死後浪人して森家に仕える。

 おくにかぶきの祖である出雲阿国の夫と言われる。

 山風版 「いだてん百里」「叛旗兵」

 美男だが剛槍の使い手。一座の経営をめぐって妻の阿国との関係は微妙。

 半村版 「黄金の血脈」

 本人は既に死亡。阿国との間に一子三四郎を残す。

 柴錬版 「柴錬立川文庫」

 秀吉の落胤でその生母は細川ガラシア。出雲阿国の弟として育ち、その実体は情夫。

 その存在を危険視する真田幸村の命を受けた猿飛佐助によって白粉に毒を入れられて二目と見られない顔にされた。

山田長政 (やまだながまさ:1590?〜1630)

 シャム王国で日本人街の頭領となり南部で知事にまで上り詰める。

 柴錬版 「柴錬立川文庫」

 関ヶ原の際に石川玄蕃家臣として上田城攻めに参戦。猿飛佐助に生け捕りにされ、昌幸の提案で海を渡ってカンボジアからシャムへと流れる。

 呂宋助左衛門が育てた霧隠才蔵に猿飛佐助を紹介する。

 幸村は彼を頼って豊家を海外へ落とそうと考えるが、思いがけず淀の方にばれて失敗する。

 半村版 「黄金の血脈」

 ちょい役。主人公と船上で遭遇し、海外へ渡って王になると豪語する。 

薄田隼人正 (すすきだはやとのしょう:?〜1615)

 実名・兼相。

 その前半生は狒々退治で有名な岩見重太郎といわれる。始め小早川隆景に仕えその死後浪人し秀頼の家臣となる。大坂の陣で水野勝成の家臣に討ち取られる。

 荒山徹 「鳳凰の黙示録」

  朝鮮の叛将・鄭汝立の遺児壮一鴻。鄭汝立は豊臣秀吉と通じており、父の刑死後は日本に逃れて秀吉の下で育った。 

 大坂城で亡くなった疋田豊五郎の最後から二番目の弟子で、実名は師の偏諱を受けたもの。主君秀頼の兄弟子にあたる。

 鳳凰卵の鍵を探して朝鮮や国内を飛び回る。よって大坂の陣で実際に戦ったのは彼の副官。秀頼の名代として鳳凰卵を薩摩へ送り届ける。

 柴錬版 「柴錬立川文庫」

 伊予海賊の頭領の末(と名乗る)。幸村を訪ねてその旗下に加わる。

 えとう乱星 「十六武蔵」

 偽名を名乗って近づいた武蔵に腰を外されて失態を犯す。

 武蔵の戦い振りを見て彼が世に入れられない理由を理解する。

 司馬史観 「一夜官女」

 放浪中に岩見重太郎を名乗ってヒロインと契る。(つまり別人説)

丸橋忠弥 (まるばしちゅうや:?〜1651)

 宝蔵院流の槍の使い手。長宗我部盛親の落胤と言われ、丸橋は母の名を取ったという。

 由井正雪の友人として慶安の変に荷担して捕縛される。

 山風版 「くノ一忍法帖」「起きろ一心斎」「柳生十兵衛死す」

 母丸橋殿が真田のくノ一と共に活躍。この時生まれた子供が忠弥であると思われる。共に生まれた由比殿の子が正雪であったかどうかは明記されない。

 槍の達人であるが、剣聖羽賀井一心斎には手も足も出ず、柳生十兵衛の「離剣の剣」に翻弄される。(要するに引き立て役)

 異母兄長宗我部乗親が仕える後水尾天法皇と師匠正雪の後ろ盾紀伊大納言とを結びつける。

 えとう乱星 「かぶき奉行」 「用心棒・新免小次郎」

 正雪の友人。実直な性格で、友人として正雪に殉じる。両作品で共通して主人公に手傷を負わされて、あえなく捕縛される。

 前者では正雪の息子の美貌にときめくなど、やや男色の気有り。

 司馬史観 「大盗禅師」

 正雪の兵法に絡め取られ、彼の友人として槍術指南におさまる。

 南条範夫 「慶安太平記」

 長宗我部盛親の落胤で、丸橋は彼を養った家臣の姓であった。少年時代に正雪と遭遇、島原で再会しその腹心となる。武蔵とやりあうが子供扱いにされる。

 酒癖の悪さが正雪への信望に影響を与え、その計画を破綻させた。

 柴錬版 「徳川三国志」

 同志由比正雪・金井半兵衛とともに暴れる。旗本奴から奪った刀を幡随院長兵衛に買い取らせ、両者の確執を演出する。

相馬大作 (そうまだいさく:1789〜1822)

 南部藩士下斗米秀之進。津軽侯の行列を狙撃し斬首となる。今となっては地元民以外は知らないでしょう。

 山風版 「大いなる伊賀者」「お江戸英雄坂」「怪異二挺根銃」「剣鬼と遊女」

 登場機会多し。

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