時代小説人物評伝

壱の参 叛将篇

 天下人に挑んだ武将達。権臣篇と並んでやはり一般的には評判が良くない。

源義親 (みなもとのよしちか:?〜1108)

 源義家の嫡男(次男)で為義の父。叛乱を起こして平正盛に誅殺されたが、その後も義親を名乗るモノが出没した。英雄不死説は数あれど、何度も”復活”したのは彼くらいだろう。

 南条範夫 「義親見参」

 何度も現れる義家が偽物なのかか本物かが曖昧に描かれる。

北畠満雅 (きたばたけみつまさ:?〜1429)

 伊勢国司北畠家の第三代当主。北畠顕泰の次男。

 皇統が明徳の和約に反し、持明院統から大覚寺統に譲られないことを不服とし、幕府に条件履行を迫って伊勢で挙兵する。

 朝松健 「一休虚月行」「一休破軍行」「けふ鳥」

 応永十五年に流れ着いた悪巣を守り本尊とする。むしろ取り付かれていると言うのが正しいかも。

 伊勢裡宮の血族と結んで伏見宮彦仁王の魂魄を奪う。

赤松満祐 (あかまつみつすけ:1381〜1441)

 播磨の守護大名。将軍足利義教を殺害する。 

 山風版 「室町の大予言」

 赤松家に伝わる「太平記・円心覚え書き」が将軍選びの籤の参考とされた。

 「本能寺未来記」に倣って将軍義教を殺害。しかしその内容は実は後の本能寺の変を予見したものであった。

 朝松健 「画霊」「一休魔仏行」

 絵から飛び出した虎が人を食い殺す様を目撃。実は古賀という女性の絵で、それが逆さに掛けられていたことから”がこ”=画虎、虎に見えたという話。

 京の飢民を憂い、一休の言を入れて施しを行った。その慈悲心が後に暴君義教の殺害へ繋がった。(とされる)

 将軍義教が内裏より奪った天の瓊矛を横取りしてその野望を阻止する。

 柴錬版 「忍者からす」

 二代目鴉の謀略で将軍殺害に追い込まれる。

松永久秀 (まつながひさひで:1510〜77)

 三好家の家臣、のち主家を裏切って独立し大和の大名となる。

 山風版 「室町お伽草紙」 「伊賀忍法帖」「海鳴り忍法帖」

 無人斎の仕掛けた南蛮鉄砲の争奪戦では真っ先に脱落。

 果心居士の仕込んだ根来忍者を使って活躍。主君長慶の息子を死に至らしめ、また将軍義輝をも手に掛ける。しかしその梟雄も後から出てくる信長の引き立て役でしかない。

 奇態な忍法を駆使する根来衆を数多抱えながら、それを堺との戦いで消耗し信長に膝を屈することになる。彼がふと思いついたようにこれを「例の信長へ向けたら」歴史は変わっていたであろうに。

 司馬史観 「果心居士の幻術」

 押しかけ居候の果心居士を恐れつつも利用。しかし信長への反逆に失敗するとあっさりと見捨てられた。

 荒山徹 「石田三成」

 「伊賀忍法帖」のエピソードが取りこまれる。

 遠藤周作 「反逆」

 いずれ使い捨てられると考えて信長に対する反逆の機会をうかがい、荒木村重と密約を結ぶ。密かに匿っていた杉谷善住坊の娘を村重にたくす。

 宮本昌孝 「剣豪将軍義輝」

 将軍義輝の才気を見抜き、彼を討とう画策を続ける。主君三好長慶の兄弟を次々と除き三好家の実験を握るが、長慶が亡くなるとその地位が危うくなり遂に義輝の謀殺に打って出る。

明智光秀 (あけちみつひで:?〜1582)

 織田家の重臣。信長を討った男として歴史に名を残す。生き延びて天海僧正になったとする伝説がある。

 山風版 「室町お伽草紙」 「妖説太閤記」「忍者明智十兵衛」「忍法剣士伝」「明智太閤」

 「室町お伽草紙」では武田の軍師山本道鬼斎に手玉に取られていた。

 「妖説太閤記」では秀吉の罠に嵌まって信長を討ち、死の間際にそれを悟る。

 本来の十兵衛光秀は甲賀卍谷で人蟹を会得した忍者であったが、土岐弥平次に裏切られて系図を奪われる(「忍者明智十兵衛」)。その後、光秀は果心居士の悪戯の余波を喰らって、地獄如来の鮮血を浴び、己より強き男(すなわち信長)への叛意を植え付けられる(「忍法剣士伝」)。

 娘お玉は「信長一人を主君としてそれと合わずに弓引いた一本調子の男」と評しているが、厳密には彼も越前朝倉家からの鞍替えであり、一時期は足利将軍家にも仕えていた訳であるが。

 参考 忍法帖別解 二人の明智光秀

 隆慶版 「風の呪殺陣」「吉原御免状」

 叡山攻撃に際して運昇の直接の恨みを買い、その呪詛により信長に対する謀反に追い込まれる。別のエッセイでは光秀が放浪時代に道々の輩の親交を持っていたのではと書いていて、「吉原」における天海(=光秀)と二郎三郎との関係にも現れている。

 死を偽装して天海となる。関ヶ原で家康が死ぬと、秀忠に元信を家康として扱うことと承知させる。また元信の後見であった忠勝の死後、叡山を降りて元信の帷幕に参加した。

 十兵衛と名乗った流浪時代に道々の者に恩義を受けたとして、庄司甚右衛門の懇願に口添えする。

 半村版 「産霊山秘録」

 ヒの一族の長である随風(後の天海僧正)の八つ上の兄。信長による天下安寧を目指すが、信長が朝廷に兵を向けようとしたためこれを討つ。

 井沢版 「銀魔伝」

 自領丹波国内に潜むとされる銀魔を探索していたが、その罠に掛かり信長殺しの濡れ衣を着せられる。

 三男が生き延びて土佐に落ち、坂本と改姓して幕末へ至る。

 山田正紀 「闇の太守」

 元の名を御門十兵衛という。朝倉宗滴に危険視され一乗谷を追われた後、美濃の豪族明智光安に仕え姓を改める。宗滴の死後再び一乗谷に舞い戻り、朝倉家を滅亡へと追いやる。

 是界の手足となって働き天下に野望を抱くが、是界が秀吉に肩入れを始めたため信長の寵をを失って次第に追いつめられていく。秀吉を闇討ちにしようとするが失敗し、信長への謀反を吹き込まれる。

 松枝蔵人 「瑠璃丸伝」

 忍者の扇動に乗って魔王信長を討つが、魔王の呪いによってその使徒となり天海僧正を名乗る。

 菊地秀行 「しびとの剣」 「魔剣士 黒鬼反魂篇」

 僧形で奥州に密行する信長に同行。主君と共に冴月紫靡帝に斬られ、蘭剣によって復活する。信長の暴走ぶりで目立たないが、彼も何らかの変貌を遂げているはず。

 異国より来た邪教の妖術師に操られ主君信長を本能寺に討つ。

 妖術師が逃げる途中で彼の兵に傷つけられ、正気に戻る。それは妖術師と手を結んでいた朱物にとっても恐らく計算外であった。

 森田信吾 「影風魔ハヤセ」

 罠に掛かって本能寺の首謀者にされる。仕掛け人を察知すると、細川・筒井の助力を辞退。兵力を温存して野に潜む。

 隙を見て岐阜城を乗っ取り、主君信長と劇的な再会を果たす。

 家康の入れ知恵で本当に信長を殺すことになる。秀吉と家康の密謀もあって天海僧正として歴史に再登場する。

 司馬史観 「果心居士の幻術」

 果心が筒井順慶に入れ知恵をしたために日和見を招いた。

 荒俣宏 「幻想皇帝 アレクサンドロス戦記」「帝都幻談」

 フロイスから歴山大王の功績を聞く。大王と信長の相似から天下一統後の家臣粛清を予期し反乱に至る。

 改暦による世直しを阻止するために、土御門家を介した密命を受けて信長を討つ。

 柴錬版 「柴錬立川文庫」

 百々地三太夫の策謀に乗って本能寺を襲う。彼を討ったのもおそらく三太夫であろう。

 朝松健 「真田昌幸 家康狩り」 「五右衛門妖戦記」

 内なる毒(家柄と優れた頭脳から来る余計なプライド)を信長に培養されて、狂気に陥って本能寺の変を引き起こす。

 秀吉に唆されて謀反。裏切られて天下の逆賊とされる。生き延びて天海となる。

 遠藤周作 「反逆」

 将来の反逆の同志として荒木村重との姻戚関係を結ぶが、村重の暴発によりその計画が狂う。

 光秀に滅ぼされた波多野の遺臣によって信長に対する反逆を起こした。山崎で秀吉に敗れた後、落ち延びる彼を襲ったのは彼らであった。

 宮本昌孝 「剣豪将軍義輝」

 土岐一族だが美濃の生まれではない。ただし道三に数ヶ月仕え、義輝と信長を結びつける役を務める。義輝の家臣となるが信長の下に出向して美濃攻めに助力する。しかし信長の勢力拡大は遂に義輝の天下を支えるのに間に合わなかった。

 義輝が亡き後、細川與一郎とともにその弟覚慶に仕える。

 五味康祐 「柳生武芸帳」

 丹波攻めで母を見殺しにさせられた私憤で信長を暗殺。(という月並みな解釈)

荒木村重 (あらきむらしげ:1535〜86)

 信長に帰属し摂津一国を与えられる。突如寝返って毛利や本願寺と組んで信長に抵抗するが、最後は城を捨てて逃亡。一人生き残った彼は信長の死後秀吉に臣従する。

 山風版 「妖説太閤記」

 村重の謀反は秀吉の失態(三木城主別所長治の離反)を帳消しにするための半兵衛の策であった。彼の友人であった小寺官兵衛は密かにこれと結んで信長への謀反を企図するが、東方(すなわち家康)の暴発起こらずに終わった。

 柴錬版 「赤い影法師」

 その器才に恐れを抱いた秀吉の謀略に嵌って謀反に追い込まれる。

 遠藤周作 「反逆」

 秀吉の仲介で信長に下って摂津一国を任される。だがその対面時からそりの合わなさを感じていた。松永久秀と密約を結ぶが、謙信が兵を引いたことで挙兵を見送って結果として久秀を見殺しにする。久秀より託された娘が彼を反逆へと追い込む。

石川数正 (いしかわかずまさ:?〜1592)

 徳川譜代の家臣ながら、秀吉に奔ったため不遇の生涯を終える。その出奔は家康との協議の上であったというのが風説である。

 山風版 「妖説太閤記」「近衛忍法暦」

 正信が楯なら、この人物はまさに矛である。

 敵である秀吉の懐に飛び込んでその自滅を画策したその手際をまさに忍者の芸であると賞賛。

 「妖説太閤記」では数正の苦衷を知るのが家康と酒井忠次のみだったが、「近衛忍法暦」では正信がしっかり連絡係を務めていた。両者が別個に動いていれば家康の凄みが増すのに。

 荒山徹 「魔風海峡」

 秀吉に寝返った際に家康の「胸底」を語る。それを聞いた三成は身分による差別社会を目指すその思想に危機感を抱いた。

沙也可 (さやか:1571?〜1643?)

 加藤清正の配下として朝鮮に渡り、投降して朝鮮に火縄銃の技術を教えて日本軍と戦った武将。朝鮮名金忠善。その正体には諸説ある。

 山風版 「忍法破倭兵状」

 阿蘇宮越後守説。

 李舜臣を殺そうとした日本の忍者を阻止。舜臣の弟竜将を日本へ送るために自分の首を差し出す。

 荒山徹 「太閤呪殺陣」 「高麗秘帖」 「何処か是れ他郷」 「魔風海峡」「阿蘭陀くノ一渡海」

 サイクルごとに正体が違う。これは意図的と言うよりもその後の研究の深化によると思われる。初期作品の「高麗秘帖」や「魔風海峡」では阿蘇宮越後守説で、その後は雑賀衆説を取っている。

 鈴木重秀の嫡男・孫二郎忠善。つまり朝鮮名は本名と言う設定。(「太閤呪殺陣」@友景サイクル)

 加藤清正の家臣阿蘇宮越後守冴香。(清正に滅ぼされた阿蘇氏の関係者と思われる)朝鮮陣を終わらせるために小西行長と共闘。李舜臣を狙う強襲隊を退ける。(「高麗秘帖」@鳳凰サイクル) 

 雑賀衆太田孫二郎。雑賀が秀吉に敗れて以降、反秀吉陣営を渡り歩き、最後は加藤清正の軍にもぐりこんで渡海後に朝鮮軍に奔る。同じく降倭となった粉河新左衛門はついに朝鮮人に成り切れずに叛徒に与して討たれる。(「何処か是れ他郷」@大戦争サイクル)

 阿蘇神宮の神官職に繋がる新規採用の郷士阿蘇宮越後守冴香。実は降倭は伊賀者で、秀吉の唐入りを失敗させる為の家康の計略であった。作戦終了後も草として朝鮮に潜伏する。彼の息子、二代目沙也可が朝鮮に潜入した五代目半蔵のために情報収集に当たる。(「魔風海峡」「阿蘭陀くノ一渡海」@逆十字サイクル)

由比正雪 (ゆいしょうせつ:1605〜51)

 慶安事件の首謀者。

 山風版 「叛心十六才」「魔界転生」「忍者仁木弾正」「起きろ一心斎」「外道忍法帖」「柳生十兵衛死す」「姦の忍法帖」「筒なし呆兵衛」「つばくろ試合」 関連作品「くノ一忍法帖」

 真田のくノ一お由比から生まれた秀頼の落とし胤が後の正雪ではないかと暗示される。

 徳川に仇なす妖人森宗意軒の弟子として暗躍、彼を危険視する知恵伊豆こと松平信綱と最後の破局(いわゆる慶安事件)まで様々に鍔迫り合いを演じる。

 宗意軒との師弟関係は各々の作品ごとに微妙に設定が違うため、時系列的に並べると矛盾が生じる。実は「魔界転生」を外すと上手く行くのだが…。

参考 忍法帖別解 由比正雪と森宗意軒

 柴錬版 「忍者からす」「赤い影法師」 「徳川三国志」

 母は石田三成の娘木美。三成配下の忍者からすによって大坂城より助け出され賤機山麓の浅間神社に暮らしていたが、父の遺言で七人の忍者を父として男子を出産。それが後の正雪である。

 母は大坂から太閤遺金を運ぶ家康の行列に斬りこんで討たれ、その遺金を奪って徳川を転覆させろと言う遺言を残す。

 師の楠不伝に伴われて渋谷郊外に隠栖する真田左衛門佐と会見する。

 死を偽装した師匠よりその遺産を受け継ぐ。盟友丸橋忠弥・金井半兵衛と三位一体で天下を窺う。徳川家を守る松平伊豆守、密かに将軍職を望む紀州頼宣らと暗闘を演じる。

 えとう乱星 「ガラシア祈書」 「かぶき奉行」 「用心棒・新免小次郎」

 森宗意軒の弟子として島原の乱で戦う。 

 慶安事件を扱った「かぶき奉行」と「新免小次郎」シリーズで細かい設定が微妙に異なる。前者では憂国の志を持って乱を起こすが、一方で目的の為に息子を利用する非情さも持ち合わせている。後者では密かに酒井大老と結んで頼宣を罠に填める目的で浪人達を組織する。(後者の展開は徳川への復讐を企図した師匠の意思を汲んでいるのかもしれない)

 司馬史観 「大盗禅師」

 大盗禅師の組織した浪人結社に加わり大納言の官位を貰う。しかし、江戸で軍学者として名声を得ると禅師と袂を分かつ。最後は軍学の上での謀反と現実との区別がつかなくなる。

 南原幹雄 「寛永風雲録」「徳川忍法系図」

 駿河大納言忠長を盟主とする陰謀に加担。忠長の死後も一味の中で唯一生き残った紀州頼宣と結んで暗躍を続ける。

 高木彬光 「隠密月影帖」

 江戸城の間道を利用して四代将軍家綱を暗殺し、紀州頼宣を将軍に就ける陰謀をめぐらす。頼宣からもらった20万石のお墨付きが幕府に押さえられ、紀州家の手足を縛ることとなる。

 大久保長安の隠し金の秘密を自筆の百人一首に残す。しかし実際に見つかった小判は大金ではあるが噂ほどではなかった。

 *間道も実際には見つからず、全てが正雪の大法螺だったのかも。 

 南条範夫 「慶安太平記」

 家康の正体が願人坊主であったことを知って天下取りの野心を抱く。島原の乱を見分し、将来の仇敵となる松平伊豆守の器量を見切る。武蔵に呆気なく敗れた丸橋忠弥をまだ若いのだからと慰めた。

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