時代小説人物評伝

伍の陸 妖術師篇

 実在して妖術の類を使うと認識されている人物達。

役小角 (えんのおづの:643?〜701)

 修験道の開祖。光格天皇により神変大菩薩の諡を賜る。

 滝沢馬琴 「南総里見八犬伝」

 伏姫に数珠を授ける。

 高橋克彦 「総門谷」「総門谷R」

 ソロモンによって復活した屍魔の一人。

 豊田有恒 「長屋王横死事件」

 長屋王との提携を拒絶され、藤原不比等に鞍替え。長屋王の父高市親王を暗殺する。その後も不比等の指示による暗殺を行い、その存在を危険視した不比等から捕縛の手を差し向けられる。

弓削是雄 (ゆげのこれお:生没年不詳)

 平安時代前期の陰陽師。

 高橋克彦 「髑髏鬼」「絞鬼」「白妖鬼」「長人鬼」「空中鬼」「妄執鬼」

 鬼シリーズの主要な主人公。(彼以外を主人公にした作品もあるが)

安倍晴明 (あべのせいめい:921〜1005)

 平安時代の陰陽師。安倍氏(土御門家)の祖。

 高橋克彦 「魅鬼」「視鬼」

 鬼シリーズに登場する陰陽師に共通して俗世の政治に関与しない態度を取る。

 まだ年若い道長に媚を売るような態度をとって藤原保昌に批判される。

 荒俣宏 「平安鬼道絵巻」

 大陰陽師。だが、妻を愛するあまりその腹心の行者に一杯喰わされる。

 妻の懇願で戻橋に封じた鬼の一人茨木童子は頼光四天王の一人渡辺綱の実母橋姫の変じた姿であった。

九条稙通 (くじょうたねみち:1507〜1594)

 五摂家九条家の当主。源氏物語の注釈書「孟津抄」(九条禅閤にちなんで「九禅抄」とも)を著す。

 山風版 「室町お伽草紙」

 今日に出世の糸口を探しに来た日吉丸を拾い、彼に「さきざき関白になる相」を見出し仕官先を世話する。

 将軍義藤の姉香具耶を異人の手から守るため自分の娘玉藻を犠牲にする。

 幸田露伴 「魔法修行者」

 飯綱の法を修したと紹介。上洛した信長にもそっけなく対応し、秀吉が藤原姓を名乗ることに反対する。秀吉は替わりに豊臣姓を得る。秀吉についで秀次が関白となると神罰が下ると予言、実際に秀次が処罰されると秀吉に協力した近衛龍山菊亭晴季はこれに連座した。

 弟子の長頭丸こと松永貞徳は一説に松永久秀の孫とも言う。

 宮本昌孝 「剣豪将軍義輝」

 風筝と名乗って武家の世界に踏み入って同士討ちによる疲弊を目論んでいた。将軍義輝に男ぼれし、彼の遺児の出産に力を貸す。

果心居士 (かしんこじ:不明)

 生国も知れぬ、生年も不明である。本名も何というか誰も知らない。ただ南都の住人ということで、しかしどこに住んでいるのかわからない。中略。戦国時代から安土桃山時代にかけて、人々に異様な噂を伝えられている幻術師であった。(山田風太郎「忍法おだまき」より)

 山風版 「伊賀忍法帖」「忍法剣士伝」「忍法死のうは一定」「忍法おだまき」

 作中では松永久秀に入れ込んで弟子の根来忍者を紹介したり(「伊賀忍法帖」)、信長に肩入れして、武田信玄上杉謙信を謀殺したり(「忍法死のうは一定」)している。但し信長の本能寺からの救出は結果的に失敗した。これで果心の究極の敵が秀吉であることが再確認された。後にその秀吉に一矢報いている(「忍法おだまき」)が。

 戦国のメフィストフェレスと称されながら、剣聖・上泉伊勢守には二度も敗れている。忍法帖で有りながら、内容的には忍法そのものに対する否定的な展開が多い。唐人とみられ、大陸出兵を行った秀吉にはやや反抗的である。

 芥川龍之介 「煙草と悪魔」

 ザビエルと共に来朝して煙草をもたらした悪魔がその後も活躍して果心居士に成ったという。

 司馬史観 「果心居士の幻術」

 天竺人の僧の隠し子。婆羅門の呪法を学ぶ。松永久秀の信貴山城に住まい、彼のために暗殺を行うが、彼の没落を予期して退転。伊賀に潜むが、伊賀攻めに遭って仇敵だった筒井順慶と取引して逃れる。その恩義として光秀の没落を予言し彼を日和見に導く。順慶の仲介で秀吉とも対面しその幻術を披露する。

 荒山徹 「石田三成」

 柳生石舟斎とは「伊賀忍法帖」の一件で既知。石舟斎の息子宗章に協力して指南亀を探索する。

 朝松健 「五右衛門妖戦記」

 明智光秀の遺臣・石川惟長に妖術を教え、五右衛門の名を与える。秀吉に殺されて伏見城の黒巫術に利用される。

風魔小太郎 (ふうまこたろう:不明)

 北条氏お抱えの風魔忍者の首領。

 山風版 「信玄忍法帖」「風来忍法帖」

 信玄の死を探りあてるが、破談を恐れた北条の姫に口止めされる。それほど任務に忠実ではないようである。

 北条家が降伏に傾く情勢を見抜き、生き残りを図る強かさを見せる。

 隆慶版 「影武者徳川家康」

 生き残りを図る家康の影武者=世良田次郎三郎の求めに応じて秀忠と戦う。

幸徳井友景 (こうとくいともかげ:1583〜1645)

 江戸初期の陰陽頭。柳生石舟斎の甥(母が石舟斎の妹)で、幸徳井友豊の養子となる。

 荒山徹 「陰陽師・坂崎出羽守」「太閤呪殺陣」「柳生陰陽剣」「柳生薔薇剣」

 柳生家の血を引く陰陽師ということで万能の魔法剣士として友景サイクルのみに登場(逆に友景の名が出るものが友景サイクルである)。

 大魔王崇徳院の陰陽師としてその眷属である魔物と契る。故に子が出来ない。石舟斎の子久三郎純厳が朝鮮で儲けた子真純を養子として迎え友種と名乗らせる。

森宗意軒 (もりそういけん) 元ネタ? 「天草騒動」@芝蘭堂

 小西行長の遺臣で天草四郎を担いで島原の乱を起こした首謀者の一人。天草を訪れた武者修行中の由比民部之助に切支丹の法を伝授する。

 山風版 「叛心十六才」「彦左衛門忍法盥」「魔界転生」「忍者仁木弾正」

 役柄的には宗意軒は果心居士、正雪は松永久秀に相当するだろう。すると十兵衛上泉伊勢守という事になる。

 正雪との師弟関係は各々の作品ごとに微妙に設定が違うため、時系列的に並べると矛盾が生じる。その検証については別稿にて。

 なお、小西家中のキリシタンくノ一は「魔界転生」で使い切り、その後は正雪が使っていた卍谷衆を利用していると思われる。

 荒山徹 「サラン 哀しみを越えて」 「柳生黙示録」

 小西行長の家臣・三木宗右衛門の変名。養女おたあと共におそらく将来天草四郎となると思われる子を育てる。これは「魔界転生」へのオマージュであり、おたあの侍女仲間であるクララと言う切支丹女性の本名がお品となっている。

 「柳生黙示録」において、とある人物の再生した姿。主君小西行長の死後、マカオに渡って妖術を身に付ける。同地に密行していた高山右近とも日本での蜂起計画を話し合う。

 えとう乱星 「十六武蔵」「蛍丸伝奇」「ガラシア祈書」

 天草四郎の佩刀とするために神刀蛍丸を狙う。宗意軒が手に入れたのは本物ではなかったが、彼は名前だけで由とした。

 「ガラシア祈書」を見て蜂起を決意。これを一部改竄して切支丹国からの援軍を求める。九州を「神の国」するとして民衆を扇動するが、本音は徳川への復讐しか考えていない。(文面が彼の改竄どおりだったとしても、切支丹国の艦隊が彼らを助けに来たとは考えにくいが)

 由比富士太郎を弟子として使い、彼に正雪の名を与える。

 伴野朗 「傾国伝」

 小西遺臣。朝鮮陣では忍びの不知火組を率いて朝鮮から中国にかけて暗躍。

 島原・天草の暴政を見て天草四郎を神の御子として叛乱を起こす。しかし予定していた明国からの援軍が得られずに敗退した。

 南条範夫 「慶安太平記」

 島原の乱で敗れた後、阿蘇の山中に潜み正雪と遭遇する。天草四郎の擁立に用いた天竺の幻術を授け、大坂の金井半兵衛を紹介する。

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