時代小説人物評伝
玖 異人篇
扶余豊璋 (ふよほうしょう 生没年不詳)
百済最後の王である義慈王の子。倭国に渡来して成長。百済の大乱で逃れてきた王族・翹岐と同一人物とする説もある。百済滅亡後に、百済復興の為に帰国するが将軍・鬼室福信との確執からこれを殺害。唐・新羅連合軍に敗れる。
荒山徹 「魔風海峡」
豊臣秀吉の霊的祖先の一人。(「豊」の文字が共通するだけのこじつけ)彼の恨が秀吉を征明へと駆り立てた。
豊田有恒 「白村江異聞」
夫余豊と呼称。百済系の渡来人である蘇我氏に招かれる。入鹿は彼を倭国の大王に据える計画を持っていたが、本人にその気が無く断念。
(豊璋と翹岐は別人)
張保皐 (ちょうほこう:790?〜846)
新羅人。張宝高とも表記(朝鮮語では同音)。清海鎮大使に任じられ海賊を従えて海上帝国を築いた。
圓仁の入唐を支援した。
荒山徹 「魔風海峡」
死を偽装して海を渡った伊予親王の偽名。
妙清 (ミヨチヨン:?〜1135)
高麗時代の僧。時の高麗王仁宗に上京(今の開城)から西京(今の平壌)への遷都を進言。排撃を受けて反乱を起こす。
荒山徹 「魔風海峡」
五百年の生を永らえて臨海君に朝鮮独立の夢を託す。
ザビエル (1506〜52)
イエズス会創設者の一人で、キリスト教を日本に伝えた。
彼の遺骸は腐敗せず「御遺物」として崇拝されたという。
登場作品 「スピロヘータ氏来朝記」「盲僧秘帖」 関連作品 「姫君何処におらすか」
彼を日本へと導いたパウロ弥次郎は同時に梅毒(つまり題名に示された”スピロヘータ氏”)を持ち込む。
徳川時代の弾圧の果てに恐るべきカニバリズムと化した隠れ切支丹を見た宣教師はザビエルの「御遺物」を食らう事によって己の信仰を再認識する。
芥川龍之介 「煙草と悪魔」
ザビエルと共にやってきた悪魔は日本に煙草をもたらす。この悪魔はその後も日本に居着き果心居士になった、と小泉八雲が書き残しているという。
オルガンティーノ (1531?〜1609)
宣教師。
山風版 「甲賀南蛮寺領」
信長より南蛮寺領として近江甲賀郡五百貫を賜り、これを嫌った甲賀衆との死闘を繰り広げる。
ルイス・フロイス (1532〜79)
イエズス会の宣教師。その活動記録は「日本史」として纏められ戦国期研究の重要な資料となる。
山風版 「海鳴り忍法帖」
将軍義輝の御前で上泉伊勢守の弟子と根来忍者の戦いを見る。
荒俣宏 「幻想皇帝 アレクサンドロス戦記」
信長や光秀に歴山大王の事跡を語る。信長に語れず、光秀に語った歴山大王の末路が結果的に本能寺を引き寄せたと言える。
荒山徹 「柳生黙示録」
死後別人として再生し切支丹一揆を目論む。
柴錬版 「柴錬立川文庫」
フロイシと表記される。関白秀次の遺児小太郎丸を替え玉とすりかえて庇護する。秀頼を仇と狙った小太郎秀松は女であった。本物がどうなったかは不明。(あるいは未読の作品に登場しているのかも)
ヤスケ (?)
宣教師が信長に献じた黒人。
菊地版 「魔剣士 黒鬼反魂篇」
使者を生者に変える術を使う邪教の妖術師。
信長の運気を奪う事に失敗し、光秀を操って討たせる。彼と組んでいた朱物の元へ逃げる途中で明智の兵に傷つけられ、この国に残る反魂の法にて甦る。
惟政 (ユジョン:1544〜1610)
朝鮮の僧侶。尊称は「松雲大師」。居所にちなみ「四溟堂」とも号する。
義僧兵の総指揮官として日本軍と戦い、また加藤清正や徳川家康と会談して講和交渉にも尽力した。
荒山徹 「徳川家康」
家康の影武者となった元信の師兄。配下の降魔衆を元信の元に派遣する。
李舜臣 (イスンシン:1545〜1598)
李氏朝鮮の海将。日本水軍を幾度も打ち破った朝鮮の英雄。
山風版 「忍法破倭兵状」
忍者の毒針に倒れるが、弟竜将の妻鸚鵡の巫術によって甦る。日本へ渡った竜将夫妻は家康に近づき、怨敵秀吉を懊悩の淵に落とす。
荒山徹 「高麗秘帖」 「魔風海峡」
小西行長のもたらした情報を無視したため王命にそむいたとして左遷される。(ここまでは史実)かつて海戦で彼に敗れた藤堂高虎はその再任を恐れて刺客を差し向け、講和に持ち込みたい行長はこれを守ろうとして護衛を送り込む。(「高麗秘帖」)
密かに王家打倒を期する野心家。しかし自ら前線で戦う臨海君と出会い、彼を王に据えようと決意する。しかし海戦で命を落としその夢は果たせず。(「魔風海峡」)
臨海君 (イムヘグン:1574〜1609)
李氏朝鮮十四代宣祖の長男。気性が荒く、継嗣から外された。
十五代国王となった同母弟の光海君に毒殺された。
荒山徹 「鳳凰の黙示録」「十兵衛両断」 「魔風海峡」
加藤清正に捕らえられ、陣中にあった疋田豊五郎に新陰流を学ぶ、所までは共通。
「魔風海峡」では、欽明帝の隠した黄金を巡って朝鮮忍者七忍を率いて真田七勇士(三名は国内残留)と戦う。毒殺を免れて(おそらくは七忍の忍法により)生き延びたと思われる。
鳳凰サイクルでは、彼が残した多くの弟子達の戦いが語られる。
朝松健 「五右衛門妖戦記」
遺児李三桐が二代目石川五右衛門となる。
ルイス・ソテロ (1574〜1624)
フランシスコ会の宣教師。伊達政宗の知遇を得て東北で布教、さらに慶長遣欧使節の正使として帰欧。
隆慶版 「影武者徳川家康」「捨て童子松平忠輝」
松平忠輝をキリシタン希望の星としてその将来を期待する。実は遣欧使節の正使には忠輝をすえる計画だったのだが諸事情により頓挫した。
光海君 (クァンヘグン:1575〜1641)
李氏朝鮮十四代宣祖の次男で十五代国王。国難(秀吉の侵攻)を受けて庶子ながら世子とされる。
暴君として廃位されたため、廟号等を持たない。
荒山徹 「魔風海峡」「柳生陰陽剣」 「鳳凰の黙示録」
友景サイクルでは父の復讐も兼ねて日本侵攻を目指す暴君。(「魔風海峡」も友景サイクルに含まれると思われる)
対して鳳凰サイクルでは廃位寸前で父を毒殺、朝鮮の独立独歩を目指し明と後金との間で均衡外交を展開するが、崇明派のクーデターで廃位された悲劇の名君。
沢野忠庵 (さわのちゅうあん:1580〜1650)
本名クリストファ・フェレイラ。ポルトガル人宣教師。
棄教して切支丹の弾圧に狂奔する。
山風版 「踏絵の軍師」「山屋敷秘図」「外道忍法帖」
伴天連キアラの前に現れて「自分が転んだのは拷問の快楽の所為だ」と言い放つ。
中浦ジュリアンが持ち帰った”法王の聖貨”の鍵となる十五童貞女の一人を発見し松平伊豆守に報告する。当人はその童貞女の術に掛かって縊死する。
彼の指はすべて彼が失ったモノ(つまり男性自身)の形状をしている。
死亡年は史実通りらしい。
陳元贇 (ちんげんぴん:1587〜1671)
明人。浙江省杭州に生まれる。元和七年、福建総兵使節に随行して日本に渡った。
尾張公徳川義直に招かれて様々な文化を伝える。
山風版 「つばくろ試合」
柳生連也と共に、松平伊豆守に召されて鄭成功よりの乞師の正体を探る。
元和五年来朝、河南省潁川の人、と書かれている。
「柳生忍法帖」内でも、芦名七本槍の使う拳法を見て「陳元贇の流れを引くものか?」と引き合いに出されている。
柴錬版 「徳川三国志」 関連作品 「眠狂四郎殺法帖」
援軍を求めて鄭芝竜とともに密入国。由井正雪に匿われて頼宣と対面。松平伊豆守によって海外に逃される。
伊豆守を徳川を守るだけの小物と看破。
十三代の裔・陳孫が狂四郎の助っ人として登場。
岡本三右衛門 (おかもとさんえもん:1602〜1685)
イタリア出身のイエズス会宣教師。本名ジュゼッペ・キアラ。
沢野忠庵の詮議を受け、拷問の末に棄教。幕命により岡本三右衛門という死刑囚の後家を娶ってその名を受け継いだ。
山風版 「山屋敷秘図」「売色使徒行伝」
牢に送り込まれた後家の色香に惑って棄教。後家の夫の名を次いで岡本三右衛門と名乗る。自分が最後に信仰に導いた若き夫婦を天国へと送る。
三十年を経て信仰に立ち返っている。
呉三桂 (ごさんけい:1612〜1678)
明末清初の軍閥。遼東の防衛に当たっていたが、北京が李自成の軍勢に落とされると、清に投降して山海関を明渡しその尖兵となる。この裏切り行為の影に陳円円という美女がいたとされる。
伴野朗 「傾国伝」
明国の滅亡を目論む陳円円の(正確にはその配下の陳清清の)術に掛かって清に降伏。その後も陳円円の懇願で馬士英(島原一揆衆への援軍を握りつぶした張本人)を殺す。
鄭成功 (ていせいこう:1624〜1662)
平戸にて鄭芝竜と日本人の母の間に生まれる。明の王族を担いで抗清活動を繰り広げる。その功で明王室の朱姓を賜り国姓爺と呼ばれる。
山風版 「忍法つばくろ試合」
徳川幕府に援軍を求め聾唖の妹・鄭春燕を使者として送る。この使者の正体を巡って松平伊豆守と由井正雪の暗闘が繰り広げられる。
えとう乱星 「用心棒・新免小次郎」
紀州頼宣が送り込んだ軍師金井半兵衛以下の牢人軍を使って抗清活動を行う。が、半兵衛に軍資金を持ち逃げされてしまう。
司馬史観 「大盗禅師」
大盗禅師の計画を信じて日本の浪人軍による反清復明を夢見るが…。
伴野朗 「傾国伝」
陳円円になる直前のさやかとすれ違う。
キャプテン・キッド (1650?〜1701)
大海賊。イギリス王からの許可を得て私掠船としてインド洋へ送り込まれたが、国籍に関係なく海賊行為を行った。
山風版 「ガリヴァー忍法島」
オランダの甲比丹一行に紛れて入国、伊勢の神剣を盗み出す。その隠し場所として書き残した暗号文を解いたのはガリヴァー、またの名をジョナサン・スウィフトであった。
シーボルト (1796〜1866)
ドイツ人医師。オランダ政府の軍医として来日。鳴滝塾を開いて西洋医学を日本に伝える。
帰国時に日本地図を持ち帰ろうとして追放処分となる。
山風版 「芍薬屋夫人」
ちょい役。
柴錬版 「眠狂四郎殺法帖」
帰国の船が難破して銭屋五兵衛に助けられ、そのまま幽閉される。
ドクトル・ヘボン (1815〜1911)
正式名 ジェームス・カーチス=ヘップバーン。米人医師。来日してキリスト教の教えを説く。
私財を投じて明治学院を創設し、またヘボン式ローマ字を考案した。
登場作品 「明治十手架」「警視庁草紙」
石川島の牢獄を視察し教誨師の必要性を川路大警視に意見する。
ニコライ2世 (にこらいにせい:1868〜1918)
最後のロシア皇帝。皇太子時代、訪日し巡査津田三蔵に襲撃される。(大津事件)
登場作品 「ラスプーチンが来た」「明治かげろう俥」
大津事件で負傷しラスプーチンの治療を受ける。
ラスプーチン (?〜1916)
グレゴリィ・エフィモヴィチ・ラスプーチン。ロシアの異教僧。「第二の視力」と女性を引きつける魅力をもっていたらしい。ロマノフ王朝の没落の遠因となる。
山風版 「ラスプーチンが来た」
樺太で出会った文豪チェーホフより託された手紙を持って来朝。皇太子に近づくためにこれを襲う暴漢を物色し「大津事件」を演出。刺されたロシア皇太子の傷を治すしその信頼を得る。
だが、彼が実際に歴史の表舞台に立つのはそれから15年後である。
黄天のそれは半ばはったりであったが、彼の治癒能力は本物であった。
山田正紀 「天動説」
まだデビュー前、シベリヤの地で日本へ戻ろうと目論む吸血鬼”さたん”に協力する。
安重根 (アンジュングン:1879〜1910)
朝鮮の民族主義者。ハルピンで伊藤博文を暗殺し刑法犯として処刑される。その行動は国によって大きく評価を分けるが、併合反対派の伊藤の死が併合を早めたのは皮肉。
荒山徹 「処刑御使」
若き日の伊藤博文を狙う処刑御使の一人。伊藤が幼い妖術師を殺さなかったので、正々堂々と本来の時代で彼を殺すと誓う。
横田順弥 「惜別の宴」
別世界からの侵略者の駒にされた伊藤博文を暗殺する為、対立勢力に操られた。