時代小説人物評伝

肆の零 親藩篇

松平直政 (まつだいらなおまさ:1601〜66)

 家康の次男結城秀康の三男。長兄忠直の庇護を受けて成長。大坂の陣の軍功で独立大名となる。忠直の改易後も順調に加増を受けて出雲一国の国持大名として幕末まで続く。

 武蔵を召し出して家臣と戦わせ、自身も立ち会った。

 荒山徹 「密書「しのぶもじずり」」

 武蔵数奇が嵩じて、彼が朝鮮で存命であることを突き止める。申叔舟の書簡を餌に松島で甥の佐々木小四郎との決闘をさせる。

徳川頼宣 (とくがわよりのぶ:1602〜71)

 紀州徳川家初代。孫の吉宗が将軍となる。

 山風版 「くノ一忍法帖」「魔界転生」「柳生十兵衛死す」「つばくろ試合」

 少年時代、美しい姪(と言っても彼より年上ですが)の千姫を庇った為に駿府を貰い損ねた。その為か長じて反幕府的な行動を繰り返す懲りない黒幕。頼宣の”頼”の字は秀頼から取ったと思われるので、有る意味で豊臣家の呪いと言えるかも。

 正雪の出てくる作品にはしばしば黒幕として名前が取りざたされる。「くノ一・・・」で最後に生まれた二人の子が正雪と忠弥だとしたら些か悪因縁と言えよう。

 隆慶版 「影武者徳川家康」

 関ヶ原の合戦で死んだ家康と入れ替わった影武者世良田二郎三郎元信の長男。二郎三郎が秀忠に対抗して作った駿府の地を受け継ぐはずであったが…。

 八代吉宗は彼の孫。と言うことは八代以降は家康ではなく元信の血統と言うことになりますね。

 えとう乱星 「かぶき奉行」 「用心棒・新免小次郎」

 前者では庇護していた忠長の遺児松平長七郎が正雪の陰謀に乗せられた為に自身も巻き込まれる。

 後者ではもう少し積極的で、金井半兵衛と河原十郎兵衛を鄭成功の元へ送り込んだり、正雪の元へ出向させたりした。但しその根底にあるのは野心と言うよりは義侠心。

 五味康祐 「真田残党奔る」「堀主水と宗矩」

 宇都宮釣天井事件以下の陰謀の黒幕(正純が想定した秀忠亡き後の三代将軍候補)だったが、毒を盛られて脱落。

 柳生但馬守堀主水に対して刺客を送り込んでいることを察知し妨害する。主水の召抱えも検討するが、神君直筆の武家諸法度を見せられて断念する。

 荒山徹 「徳川家康」

 家康の影武者である韓人元信の長男。家光が元信の胤であったから、八代将軍を巡る尾張と紀州の争いは家康系の復活か元信系の継続かを巡る重要な分岐点だったと言うことになりますね。

 南原幹雄 「寛永風雲録」「徳川忍法系図」

 義兄の加藤肥後守と結んで駿河大納言忠長を盟主とする謀略に加担。兄秀忠の死に際して不穏な動きを見せるが付け家老安藤安藤帯刀の諌止によって思いとどまる。

 寛永御前試合を利用して家光暗殺計画を立てる。が幕府軍の万全の体制の前に潰える。

 忠長の死後、その野心を引き継いだ甲賀大黒天を召抱えて野心を燻らせる。

 高木彬光 「隠密月影帖」

 由比正雪を用いて四代家綱を暗殺させて将軍職を奪う計画であった。正雪に与えたお墨付きを押さえられ、紀州家から将軍を出さないという条件で不問に附された。これが孫吉宗の将軍継承に際して障害となる。

 半村版 「黄金の血脈」

 兄武田信吉が国衆に毒殺されたので代わって水戸を領する。しかしそれでも領内が治まらず、弟頼房が継いだ。(いずれも飾り物でしかないが、家臣に出来物が揃っていて水戸が治まりつつあった)

 南条範夫 「慶安太平記」

 正雪に言質を与えず、その野心を利用。自身でもずるいと独白する。

 柴錬版 「徳川三国志」

 天下を狙って暗躍する。が実際には家臣任せで自分は一切動かない。

徳川忠長 (とくがわただなが:1605〜32)

 徳川秀忠とその正妻崇源院の次男で家光の弟。駿河大納言。

 山風版 「甲賀忍法帖」「忍びの卍」「くノ一地獄変」 関連作品「柳生忍法帖」

 頼宣が駿河から紀州へ移されたのは、彼を駿河に入れる為だったという話もあるが、作中では頼宣が駿河から出されたのは半ば自業自得である。

 徳川家の安定を企図する土井大炊頭の密命を受けた伊賀・根来の忍者の謀略に嵌まって家老鳥居土佐守を成敗する。根来忍者の懇願に応じてお墨付きを与え、それが彼の命取りとなった。

 死後、彼の城門が東慶寺へ移築される。これが旧題「尼寺五十万石」の由来である。会津四十万石に勝ったからその上の五十万石という意味もあるが…。

 荒山徹 「柳生薔薇剣」

 兄への敵愾心から朝鮮使節に肩入れして柳生の宿敵幕屋大休を召して東慶寺を攻撃させる。これが彼の命取りとなる。

 改易後、戦利品としてその城門が東慶寺へ移築される。

 五味康祐 「柳生十兵衛八番勝負」

 武川衆の血を引く女を側妾とした。彼が改易になった後、武川衆が甲斐駿河の山間で不穏な動きを見せて十兵衛の出動となる。

 南原幹雄 「寛永風雲録」「徳川忍法系図」

 兄家光に対抗して叔父紀州大納言や加藤肥後守そして由比正雪等と結んで将軍位を狙う。幕朝関係の緊張を捕らえて密勅を出させるが途中で奪われて野心を砕かれる。

 甲斐に配流とされる際に一子国松を甲賀毘沙門天の弟不動丸に託して海外へ逃す。

 南条範夫 「慶安太平記」

 軍学者由比正雪を召し出して江戸城攻略の方法を問う。この短慮に正雪をして担ぐに足りぬと見切られてしまった。

 柴錬版 「徳川三国志」

 叔父頼宣の唆されて兄家光への叛旗を翻そうとするが、松平伊豆守に諭されて断念。彼の復権を嫌った頼宣の手に掛かる。

保科正之 (ほしなまさゆき:1610〜72)

 将軍秀忠の妾腹の子。恐妻家であった父は彼を保科家に預けた。後に会津松平家の藩祖となる。同母弟である忠長を死に追いやった家光も異母弟である正之には信頼を寄せ、息子家綱の後見に指名した。

 山風版 「変化城」

 会津松平家と上杉家、そして吉良家との因縁が語られる。

 正妻お万の方が加賀へ輿入れする側室腹の姫を妬んで、誤って上杉綱勝に嫁していた実の娘を毒殺してしまう。綱勝の急逝に際し、彼の三男を上杉家の世継ぎにと言う幕府の斡旋を辞し、綱勝の妹の子であった吉良上野介の息子を推挙する。それが綱憲である。

 えとう乱星 「かぶき奉行」 「用心棒・新免小次郎」

 主人公の理解者でそれまでの果断な武断政治から温情溢れる文治政治への移行を推進する。

 五味康祐 「柳生天狗党」

 幕閣への面当てから、将軍家綱の後継として次弟の甲府宰相綱重(後の六代将軍家宣の父)ではなく、三弟館林宰相の擁立に荷担する。珍しく悪役側?

徳川光圀 (とくがわみつくに:1628〜1700)

 水戸徳川家二代目。黄門様。

 山風版 「つばくろ忍法帖」 「江戸忍法帖」

 大明乞師について伯父頼宣に賛同して「義兵を送るべし」と主張する。

 四代家綱の遺児葵悠太郎の後ろ盾として登場。

 えとう乱星 「かぶき奉行」 「用心棒・新免小次郎」

 主人公の友人として登場。前者では主人公を慶安御前試合へ誘う。後者では浪士達の盟主に担ぎ上げられようとするが、逆に彼らの動きを松平伊豆守へ流す。一方で寛大な処置を求めて文治政治への流れを作り出す。

 荒俣宏 「新帝都物語」

 大日本史編纂の過程で”つぼのいしぶみ”を発掘。あまりに恐るべき内容が書かれていたのので拓本を取った上で埋め戻したという。

 五味康祐 「柳生武芸帳」

 江戸住まいの幼少期、流星を追って柳生屋敷を訪れて、武芸帳を巡る戦いに巻き込まれる。

 荒山徹 「竹島御免状」

 諸国漫遊中、鳥取にて朝鮮妖術師と戦う柳生十兵衛・幸徳井友信に助力する。

 霧島那智 「真田幸村の鬼謀」

 綱吉の婿将軍に反対し甲府綱豊に身辺警護を助言する。

徳川綱教 (とくがわつなのり:1665〜1705)

 紀州徳川家三代目。頼宣の孫、八代将軍吉宗の異母兄。

 五代綱吉の娘鶴姫の婿で六代将軍候補とされた(と言われる)が、鶴姫の死によって立ち消え。自身もその翌年に死去した。

 霧島那智 「真田幸村の鬼謀」

 将軍継承の野心を抱いた尾張吉通によって暗殺される。

 菊池道人 「夜叉元禄戯画」

 祖父頼宣に似た剛毅な性格。

 父光貞は彼を綱吉の娘鶴姫の婿と成ることで、頼宣の野望を実現しようとした。計画はあと一歩というところまで進んだが、浅野内匠頭の刃傷事件が流れを変える。

徳川吉通 (とくがわよしみち:1689〜1713)

 尾張徳川家四代。三代綱誠の十男で家康からは玄孫になる。将軍家宣により七代将軍あるいは息子鍋松(家継)の後見人として期待されるが、新井白石の建言で見送られる。家宣の死の翌年に夭逝したため尾張家から将軍が出ることは無かった。

 霧島那智 「真田幸村の鬼謀」

 家綱の将軍継嗣指名を見て自分に将軍職が廻ってくるのではと期待。それだけでなくライバルとなる紀州家への積極的な工作を始める。しかしその動きは兄たちを排除しようと目論む吉宗に利用されることとなる。

 吉宗との暗闘の中で毒を受け、老いた容貌となる。このため自身で将軍を狙うことを諦め、このときに死んだ叔父松平義行に成りすまして尾張忍軍の指揮を続ける。

 紀州藩邸を襲撃で吉宗は討ちもらすが、彼の愛妾須磨を死に至らしめ更に嫡男長福丸に重度の精神的衝撃を与える。

徳川宗春 (とくがわむねはる:1696〜1764)

 尾張徳川家七代。

 暴れん坊将軍吉宗のライバル。吉宗の緊縮財政を批判して積極財政を展開したが、尾張家は財政破綻を起こし家老たちから押し込めを喰らう。

 山風版 「忍者月影抄」

 御土居下組の甲賀忍者と尾張柳生の剣士を使って吉宗お手つきの女性を捜してさらし者にする。対する吉宗は伊賀組と江戸柳生の剣士を送り出す。御土居下組に甲賀卍谷のモノを加えたのは彼であったらしい。彼が襲封する直前に、根来組は壊滅状態になっていたし。

 吉宗のお手つきが全て一掃された後に現れた天一坊を(既に偽者だと分かっているのだから)冷淡にあしらう。

 豊田有恒 「尾張名古屋異聞」

 卦院都と名乗る時間旅行者(冒頭の添え書きによると二十世紀名古屋の経済学者)の献策により、積極的な経済政策を行う。(タイムマシン発明以前の人間は処罰できない為に一部歴史改変が成功してしまった)

 霧島那智 「真田幸村の鬼謀」

 兄吉通より将軍家争いについて聞かされるがまだ幼くて理解していない。

 高木彬光 「隠密月影帖」「隠密愛染帖」

 兄継友を差し置いて八代将軍を紀州吉宗と争ったことになっている。そのためまだ尾張家を継がない通春の時代から吉宗と暗闘を繰り広げる。

 日本左衛門こと浜島庄兵衛はかつての近習であった。

 話の簡略化から”尾張の次男坊”になっているけど、実際には父の十九男。

 清水義範 「人殺し将軍」

 将軍吉宗の治世を「田舎ものの泥臭い政治」と評する。これは同じ名古屋人である作者の感想が投影したと思われる。更に進んで吉宗の”運のよさ”を謀略では無いかと推理する。

松平定信 (まつだいらさだのぶ:1758〜1829)

 御三卿・田安宗武の三男で白河松平家を相続する。その為に将軍にはなり損ねたが、吉宗の孫という毛並みの良さから田沼意次を追い落とした後に老中首座として政治の実権を握る。

 山風版 「天明の隠密」他

 目的のためには手段を選ばない人物として描かれる。田沼を追い落としたまでは良かったが…

 井沢版 「銀魔伝」

 銀魔に使嗾されて田沼を憎み、権力から追い落とす。しかし、彼を田安家から白河松平家へ送り込んだ”主犯”である一橋治済(将軍家斉の実父)に疎んじられて罷免の憂き目に遭う。

 柴錬版 「眠狂四郎独歩行」他

 眠狂四郎のパトロンである水野忠邦の目標とする人物。その偉さは引き際の鮮やかさにあった(と狂四郎は見ていた)。

 祖父吉宗に倣って公儀隠密「黒指党」を組織した。既に風魔一族の存在を知っていてそれに備えたのでは、と狂四郎は想像していたが、そこまで疑うなら風魔一族との暗闘は吉宗の時代から続いていたのではないか。

 荒俣宏 「帝都幻談」「新帝都物語」

 徳川の力を盛り返そうと国境に杭を打って外に遁れた怨霊たちの機関を阻む霊的防衛を図る。その意図を田沼に知られ、将軍職に就けぬように養子に出される。

 古文書を調査し和歌に歌われた地名を特定する。その目的は古代に遡る日本の領土の確定にあった。その過程で義公が発見したという”つぼのいしぶみ”を再調査させる。 

徳川斉昭 (みとなりあき:1800〜60)

 水戸の列公。幕末の情勢を動かした重要人物の一人。

 井伊大老と対立し、安政の大獄で蟄居に追い込まれる。

 山風版 「夜ざくら大名」 「魔群の通過」

 松葉屋へ登楼中、江戸より養子を迎えようと言う一派に囚われて刺青を入れられそうになるが、金公こと後の遠山左衛門尉に助けられる。

 斉昭に心酔する攘夷派藩士を天狗党と呼んで持ち上げ、彼の継承に反対した勢力(すなわち佐幕派)を奸党と呼んだ。これが水戸を真っ二つに分断し、後の天狗党事件の温床となる。

 それでも、知恵袋である藤田東湖が生きているうちはまだ均衡が取れていたが、安政二年の大地震で死ぬと、家中は一気にきな臭くなる。

 五味康祐 「風流使者」

 好色を批難され評価は低い。藤木道満の計画に荷担するが、どこまで知っていたかは不明。

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