時代小説人物評伝
捌の弐 近代官界・経済界篇
範囲を大正昭和まで拡大して名称変更。
川路利良 (かわじ としよし:1834〜1879)
薩摩藩士。大警視。初代警視総監。
西郷に取り立てられながら、大久保についてその西郷を討つ手助けをする。
山風版 「明治断頭台」「巴里に雪のふるごとく」「警視庁草紙」「いろは大王の火葬場」
明治モノにおける重要人物の一人。
弾正台大検察時代の同僚・香月に「地味で重くて出世せん」が「先々大物になる」と評される。正義の政府を実現しようとした香月に対して政府の維持を優先した。(その延長として下野する”カリスマ”西郷よりも組織の大久保を選んだ)
巴里で起きた日本人同士の殺人事件の真相を看破し、成島の冤罪を晴らす。井上毅の要請を入れて犯人を秘密裏に処断する。
木村荘平に官営の屠畜場経営を任せる。
吉田直 「FIGHTER」
ハンター卿殺害犯が死んだはずの新撰組隊員と知り、元新撰組の藤田警部補に調査を命じる。
三島通庸 (みしまみちつね:1835〜88)
明治の官僚。薩摩閥で大久保の懐刀の一人。
彼の息子弥太郎は日本初のオリンピック選手としてストックホルム大会に出場し、また徳富蘆花の小説「不如帰」の主人公武雄のモデルともなった。
山風版 「明治十手架」「幻燈辻馬車」「エドの舞踏会」
鬼県令として敵役を務める。後に警視総監となる。
神奈川県令時代の陸奥宗光に職務を邪魔された恨みを持ち、彼が反逆で牢に入れられたとき、看守に手を廻して謀殺を試みる。
木村荘平 (きむらそうへい:1840〜1906)
東京に二十数点を数えた牛鍋店「いろは」の経営者。いろは大王と自称する。
その店の店主はすべて彼の妾で、認知しただけでも三十人の子供があり、その中には作家の木村曙に木村荘太、画家の荘八に映画監督の荘十二が居る。
いろはチェーンは彼の死後に程なくつぶれたが、彼の名はこうした息子達の活躍によって残った。
山風版 「ラスプーチンが来た」「いろは大王の火葬場」
稲城黄天の仲介で軍の払い上げの残飯を買うが、明石の妨害によって解約する。
火葬場を開き有名人を第一号にしようとするが、遂に客が取れず自身が第一号となった。
渋沢栄一 (しぶさわえいいち:1840〜1931)
一橋家家臣。慶喜の将軍就任により幕臣となる。維新後は実業家として多くの企業を立ち上げた。
荒俣宏 「帝都物語」
「東京改造計画」会議を主催する。
藤田五郎 (ふじたごろう:1844〜1915)
元新撰組隊士斉藤一。会津にて土方と袂を分かち、会津人として明治を生きる。
山風版 「警視庁草紙」
警視庁巡査として川路大警視の走狗として働く。かつての同輩永倉新八と遭遇して「アレは自分より強い」と言って逃げ出した。一緒にいた元仙台藩士の同僚もやはり同郷の古強者を見て逃げ腰でした。
菊地秀行版 「ウエスタン武芸帖」
無口でストイックな剣士。パラレルワールドなので史実とはほとんど別人と考えて良い。
出海まこと版 「鬼神新選」
何故か記憶喪失の状態で登場。主人公の永倉らと共闘して(半ば巻き込まれて?)蘇ったかつての同士と戦う。
吉田直 「FIGHTER」
ウイリアム・ハンター卿の殺害に際して上司川路大警視から調査を命じられ、蘇ったかつての同士と戦う。
荒俣宏 「新帝都物語」
戊辰の役で土方とともに転戦。途中彼の命令でアメリカへ渡る会津人の一行に加わる。
井上毅 (いのうえこわし:1844〜95)
肥後藩士。目地政府の官僚として主に教育関係の法制の近代化に尽力する。
山風版 「巴里に雪のふるごとく」
使節団に属する某官吏の犯した殺人について闇に葬る様に川路に頼む。
東郷平八郎 (とうごうへいはちろう:1847〜1934)
日本海海戦の指揮官。明治の軍神。
山風版 「明治断頭台」
大村益次郎の訃報を同郷の海江田に報告する。後にこの海江田の娘婿となる。
乃木希典 (のぎまれすけ:1849〜1912)
長州閥。陸軍大将。明治天皇の大葬の日、妻と共に殉死する。
山風版 「警視庁草紙」「ラスプーチンが来た」
明石大佐の尽力で別居中だった妻静子の帰宅が成る。
学習院院長であった明治40年、下山女史を教授から罷免する。
横田順弥 「惜別の宴」
別世界からの侵略者の間諜に精神憑依されるが、次元転移の際に記憶喪失になったために何も仕事をしていない。寿命が尽きる前に自害した。
山本権兵衛 (やまもとごんのひょうえ:1852〜1933)
薩摩出身。日本海軍を世界レベルに押し上げた最大の功労者。
一般にはくだけて”ごんべえ”と読む。
山風版 「エドの舞踏会」
海軍大臣西郷従道の命で大山巌夫人を訪問し鹿鳴館でのダンス講師を依頼。二人で元勲達の邸宅を廻り、その家庭の事情に関わることになる。主人公と言うよりは狂言回し。
後藤新平 (ごとうしんぺい:1857〜1929)
医者から官僚そして政治家。水沢出身で高野長英と縁続きである。
震災復興計画を立案し大風呂敷と呼ばれた。
山風版 「明治忠臣蔵」
錦織剛清の後援者の一人。家宅侵入を教唆したとして逮捕され掛かるが、外聞を気遣った外務官僚陸奥宗光からの警告で見送られる。
荒俣宏 「帝都物語」
寺田寅彦の地下都市計画を踏まえて、早川徳次の地下鉄計画を支援する。
小金井良精 (こがねいりょうせい:1858〜1944)
解剖学者。帝大教授。妻は森鴎外の妹喜美子。娘が星製薬を作った星一に嫁ぎ、SF作家星新一を生む。
山風版 「築地西洋軒」
義弟鴎外を追ってきたドイツ娘の説得に当たる。
嘉納治五郎 (かのうじごろう:1860〜1938)
講道館柔道の創始者。武道家と言うよりは教育家と言うべきだろう。国際オリンピック委員会(IOC)の委員となって、東京オリンピックの招致に成功する。(但し、戦争のため開催権は放棄され、実際の東京大会は戦後に実現する)
山風版 「幻燈辻馬車」
洋行帰りの山川家のお嬢さんの護衛役を勤める。彼が山川家から預けられた西郷四郎は後に講道館四天王の一人と呼ばれた。同じ四天王の一人冨田の息子常雄が書いた小説「姿三四郎」のモデルとなる。
白瀬矗 (しらせのぶ:1861〜1946)
陸軍軍人で最終階級は中尉。南極探検で知られるが、その遠征は資金不足に始まり様々なトラブルや内紛等により多難であった。(日本領として宣言した大和雪原も陸地でなく棚氷であり、第二次大戦の敗戦後に領有の主張が放棄されている)
山風版 「横浜オッペケペ」
北極探検を志す陸軍中尉として登場。(実際に彼は初め北極探検を計画し、他国に先を越された為に南極に目標を変更した)
横田順弥 「火星人類の逆襲」 「水晶の涙」
押川春浪の依頼で火星植物を大和雪原に埋める。
「水晶の涙」では幕間で南極探検隊の様子が挟まれる。
森鴎外 (もりおうがい:1862〜1922)
陸軍軍医、小説家。本名林太郎。
山風版 「警視庁草紙」「築地西洋軒」「ラスプーチンが来た」
「警視庁草紙」では只の通行人。
「築地西洋軒」は「舞姫」を下敷きにドイツから追ってきたエリスとの一悶着が描かれる。但し、折衝は義弟に任せきりで本人は最後だけ。
「ラスプーチンが〜」では軍医として血友病についての知識を明石に与える。
荒俣宏 「恋愛不能症」「帝都物語」
「舞姫」の前日談としてドイツ時代の事件が描かれる。
軍医監として加藤少尉を幸田露伴に引き合わせる。
明石元二郎 (あかしもとじろう:1864〜1919)
陸軍将校。日露戦争時、ロシアにあって後方攪乱任務に当たる。その後朝鮮駐在憲兵隊長や台湾総督を務める。薩長閥に属さず、しかも一度も戦わずに大将となる。
山風版 「ラスプーチンが来た」
川上操六の命で乃木家の私事を解決し、そこから怪人物稲城黄天や女傑下山宇多子との対決が始まる。黄天には一泡吹かせるが、真の敵ラスプーチンには敗北する。これは日露戦争における彼の活躍の前日譚で有る以上仕方ない。
秋山真之 (あきやまさねゆき:1856〜1918)
海軍将校。日露戦争における作戦担当参謀。日本海海戦の勝利に貢献する。
吉岡平 「金星のZ旗」
病死の後、火星に転生した土方歳三に招かれる。土方との関係が微妙になり、ロケットで金星に逃れてパンジャとアリコの戦いに巻き込まれる。火星と金星の美女二人に挟まれつつ地球に帰還するが、地下世界に迷い込んでしまう。
早川徳次 (はやかわのりつぐ:1881〜1942)
東京地下鉄道の創業者。東急の総帥五島慶太との争いで、双方の鉄道事業が国有化(現在の営団地下鉄)される形で決着し事業から締め出された。
荒俣宏 「帝都物語」
地下鉄工事において加藤の放った式神に悩まされる。西村真琴の作った人造人間學天則を式神退治に駆り出す。