時代小説人物評伝
漆の壱 幕末志士篇
横井小楠 (1809〜69)
肥後細川家家臣。開国論を唱えて家中で一定の勢力を持つが、士道忘却事件で家禄没収となる。
柴錬版 「眠狂四郎無情控」
細川家で一番の学者として登場。秀頼の生存説に関して狂四郎より質問を受ける。
秀頼が大阪落城後も肥後加藤家にかくまわれており、その一子菊丸が長崎より海外へ逃れたと言う記録を紹介する。
佐久間象山 (さくましょうざん:1811〜64)
松代真田家家臣。優生学の見地から己の子を産ませるにふさわしい相手として弟子に当たる勝海舟の妹順を正妻に迎える。だが二人に間には結局子供は出来なかった。
開国論者として河上彦斎に討たれる。
山風版 「おれは不知火」
息子恪二郎は新撰組へ入って父の仇を討とうとするが、果たせず。
象山の死から話が始まっているのにその存在感は圧倒的で、幕末でも一二を争う「大妖人」ではないかと評される。
日柳燕石 (くさなぎえんせき:1817〜1868)
讃岐の大侠客で幕末の志士。本名は加島屋長次郎。実名は政章。長州の高杉や桂といった勤皇の志士と交友があった。戊辰の役で陣没。
山風版 「旅人国定龍次」
牢を逃れて伊勢の宇治に隠れ住む。荒神山の決闘に関与。
小笠原長行 (おがさわらながみち:1822〜91)
唐津藩世子。父の死後幼年であったため家督と継げず、後に山内容堂の斡旋で世子とされる。その才覚を見込まれて世子のまま老中として取り立てられる。
戊辰の役では榎本に随行して函館まで転戦。その後、国外逃亡した。榎本の釈放を見すまして、明治五年七月になって帰国する。
登場作品 「明治断頭台」
国内に居ないはずなのに、その妾が懐妊していることからその行方を探られる。
勝海舟 (かつかいしゅう:1823〜99)
幕末の英才。
あくまでも徳川家主導の改革を目指す小栗上野介に対して、幕府に見切りを付けて緩やかな政権交代を志向した。西郷隆盛と折衝して江戸無血開城に尽力する。決裂した場合には新門辰五郎が江戸に放火する手筈であった。
最後の将軍慶喜とはそりが合わなかったが、長男に先立たれた後慶喜の十男精を養子に迎え相続人とした。
山風版 「武蔵野水滸伝」「おれは不知火」「軍艦忍法帖」「修羅維新牢」 関連作品 「からすがね検校」「ゆびきり地獄」
どちらかというと父親の小吉の方が出番が多い。「武蔵野」では顔見せのみ。
師にして妹婿である佐久間象山の殺害に際しても敵討ちには否定的で、「軍艦忍法帖」でも敵討ちに逸る主人公とヒロインを大局的な視点から押しとどめる。
江戸を無血開城し、新政府から江戸市内の取り締まりを任されながら、こっそりと榎本の目論見に賛意を示す。但しそれを伝えた相手は途中で捕らえられので、伝わらなかった様だが。
菊池秀行 「幕末屍軍団」
ゾンビ軍団の動きに気付いて、裏に幕閣が居ると承知でこの企みを阻止する為に平賀源内の孫源庵と接触する。幕府崩壊への道筋が読めすぎている気もするけど。
五味康祐 「柳生武芸帳」
柳生親子を一介の兵法家に有らずと見破った只一人の人物と評する。彼が紹介した「寛永御前試合」を九分九厘まで虚構、としながらもその登場人物から歴史批判が読み取れると言う。
小栗上野介 (おぐりこうずけのすけ:1827〜68)
三河以来の譜代。家祖はしばしば一番槍を付け、家康から「又一番か」と言われたことから又一の名を代々継承する。旧名豊後守、実名忠順。縁起の悪いとされた上野介(過去には本多上野介・吉良上野介がいる)を敢えて名乗る。
徳川家に対する忠誠心は厚く、政敵の勝から”徳川家の石田三成”と評される。
山風版 「お庭番地球を回る」「軍艦忍法帖」「修羅維新牢」
「お庭番〜」ではちょい役。「軍艦〜」では敵役。
黒鍬組の沼田万八に目を付けて軍資金と武器の調達をさせるが、幕閣内の穏健派との暗闘に忙しくこれを利用出来なかった。
芹沢鴨 (せりざわかも:1830〜64)
本名(あるいは前名)は下村嗣司。芹沢は祖先の姓らしい。
新選組初代局長。近藤一派との内部抗争で粛正される。
山風版 「新選組の道化師」「軍艦忍法帖」
女好きで、長いこと女を抱かないと凶暴化する。そんな彼が新選組の局長になった途端に女断ちをしたものだから…。
吉田直 「FIGHTER」
メディアによって甦った”死の騎士”02。
広沢実臣 (ひろさわさねおみ:1833〜71)
長州藩士。維新の功労者の一人。明治4年に暗殺。
山風版 「天衣無縫」「警視庁草紙」
本人は登場せず、主に暗殺事件について語られる。
隅の御隠居の推理によれば、井上馨が木戸の意を汲んで独断で仕掛けたのモノとされる。
近藤勇 (こんどういさみ:1834〜68)
新選組局長。
山風版 「旅人国定龍次」
坂本龍馬を捕らえようとお龍を見張っていた祐天仙之助に呼ばれて登場祐天の本音(龍次への復讐)を見抜いて引く。
菊池秀行 「幕末屍軍団」
ゾンビと遭遇し一時的に虚脱状態になる。直後の池田屋での奮戦で屈託を忘れた様に見えるが…。
土方歳三 (ひじかたとしぞう:1835〜69)
新選組副長。諱は義豊。
山風版 「旅人国定龍次」
ちょい役。
司馬遼太郎 「燃えよ剣」
新選組を作った組織人として描かれる。現在の土方観はこの司馬史観に少なからず影響されていると思われる。
朝松健 「旋風伝」
プロローグで死亡。その後、主人公の心の中で助言を与え続ける。
菊池秀行 「幕末屍軍団」
ゾンビ軍団の存在を知り、新選組の存在意義が失われると危惧を抱く。
荒俣宏 「新帝都物語」
戊辰の役で転戦中、会津で旗本加藤重兵衛と出会う。初めは西軍を相手に協力するが、その目的に気付いて敵対。箱舘の戦いで彼と刺し違える。
吉岡平 「火星の土方歳三」「金星のZ旗」
箱館で戦死した後、火星(@バロウズ)に転生し、苦闘の末に浪士組を結成する。本家の主人公ジョン・カーターとは負け組(カーターは南軍将校)と言う共通点があった。
病死した海軍参謀秋山真之を招くが、次第に相性の悪さが露呈して険悪な関係になる。
首尾一貫性を欠いているために普通なら相容れぬ二つの人格を併せ持つ。そのために懼れられつつも慕われる。(と分析される)
河上彦斎 (かわかみげんさい:1834〜71)
肥後藩士。幕末の人斬り。佐久間象山の殺害者であるが、それ以降人を斬っていないらしい。
旧弊党なため、明治の世では冷遇されている。
登場作品 「三剣鬼」「俺は不知火」「明治断頭台」
「三剣鬼」では佐久間象山の殺害が最初の人斬りになっている。これ以降人を斬っていないとすれば、彼は象山殺害のみで人斬りの異名を得たことになるが。
横井小楠殺害犯の助命を嘆願する。
後に反政府活動の容疑で処刑(やっかい払い)された時、これを斬ったのは他ならぬ佐久間恪二郎であった。
坂本龍馬 (さかもとりょうま:1835〜67)
土佐郷士。幕末の英雄。先祖は明智光秀に繋がるとされる。(坂本姓も光秀の居城に由来)
山風版 「軍艦忍法帖」「旅人国定龍次」
どちらもちょい役。「軍艦」では師匠の勝海舟と共にヒロインを保護する。
半村版 「産霊山秘録」
明智光秀の長男太郎五郎の末裔。当然ながらヒの一族の力を受け継ぐ。本家筋のサイとともに脱藩するが、次第にその方針で意見対立する。
井沢版 「銀魔伝」
こちらは光秀の三男乙寿の子孫。姻族であった長宗我部を頼って土佐に落ちる。
幕末編はまだ書かれていないが、源内編に祖先と思われる坂本梅太郎が登場する。
清水義範 「人生かし峰太郎」
未来から送り込まれた人造人間によって暗殺から救われる。救った相手がゲーム感覚であることを知り人造人間を倒して未来へ渡る。
沢宣嘉 (さわのぶよし:1835〜73)
長州へ落ちた七卿の一人。生野の挙兵の旗頭。
山風版 「首の座」
維新後、九州鎮撫総督として「浦上四番崩れ」起こすが、その手際を江藤に皮肉られる。その時の”呪い”で命を落とす。
相楽総三 (さがら そうぞう:1839〜68)
尊皇攘夷派志士。下総の郷士で大富豪の小島兵馬の四男で、本名は小島四郎左衛門将満。西郷に心酔して江戸で御用盗を行う。戊辰戦争で赤報隊を率いるが、偽官軍の汚名を着て処刑される。
山風版 「旅人国定龍次」
伊勢で日柳燕石とともに荒神山の決闘に関与。龍次が京に来たときには任務(つまり御用盗)の為江戸に向かった後。江戸で龍次の異母兄大谷国次とともに活動。国次はそこで討死する。
益満休之助 (ますみつきゅうのすけ: 1841〜68)
薩摩藩士。西郷の密命を受けて江戸で擾乱工作(御用盗)に従事する。三田藩邸焼き討ちの後、幕軍に捕らえられ、江戸無血開城に際して使者を務める。上野戦争にて戦死。
直木三十五の「南国太平記」で有名になる。
山風版 「軍艦忍法帖」「修羅維新牢」「地の果ての獄」
素性を隠して講武所奉行酒井壱岐守の中間となる。但し勝海舟には見破られていた(「軍艦忍法帖」)。
小栗が用意した軍資金と武器を横取りする(「修羅維新牢」)。
明治モノでは上野戦争で生き延びたことになって登場する。独休庵の名で北海道で医者を開業。またの名をドク・ホリディ(笑)。
沖田総司 (おきたそうし:1842〜68)
菊池秀行 「幕末屍軍団」
ゾンビの娘と知り合って恋仲に?
伊庭八郎 (いばはちろう:1844〜1869)
幕臣。心形刀流宗家伊庭軍兵衛家の八代目。
山風版 「明治暗黒星」「エドの舞踏会」
本人はちょい役で、かつての恋人あるいは弟想八郎の話に登場。
細谷十太夫 (ほそやじゅうだゆう:1845〜1907)
元仙台藩士。
黒装束のゲリラ隊を組織して新政府軍に「烏組」と呼ばれて恐れられた。
山風版 「警視庁草紙」「地の果ての獄」
維新後に鴉仙和尚と名乗って北海道に暮らす。
朝松健 「旋風伝」
パシクル(アイヌ語でからす)と名乗って登場。