時代小説人物評伝

捌の参 近代文化人篇

 範囲を大正昭和まで拡大して名称変更。

福沢諭吉 (ふくざわゆきち:1835〜1901)

 慶應義塾の創設者。

 榎本武揚の釈放に尽力するが、後に彼が明治政府に仕えたことに憤慨してこれを攻撃する。

 山風版 「明治断頭台」

 獄中の榎本に差し入れをしたが、それを獄吏に横領され強行に抗議する。その訴えは居合わせた香月経四郎に取り上げられるが、三田島原藩邸の払い下げの件でチクリとやられる。(作中の会話は恐らく作者の感想でもあろう)

 福沢が榎本を糾弾したのは、助命嘆願について榎本が何ら感謝の様子を示さなかった事から来る感情のもつれではないかと分析している。

 「ディファレンス・エンジン」

 オリファント氏が日本より伴った五人の客人の一人。

岸田吟香 (きしだぎんこう:1832〜1905)

 洋画家岸田劉生の実父。本名銀次。仲間から銀公と呼ばれていたのを吟香ともっともらしい名乗りに変える。

 ドクトルヘボンによる日本最初の和英辞典の編纂に協力したり、東京日日新聞(今の毎日新聞)で主筆を勤めた事もあるが、後から入社した福地桜痴にその地位を奪われる。

 山風版 「明治断頭台」「明治十手架」「いろは大王の火葬場」

 小笠原壱岐守の偽装工作に荷担する。

 自分を追い出した桜痴への対抗心から「いろは大王」の火葬場の第一号を希望するが…。

成島柳北 (なるしま りゅうほく:1837〜84) 

 元幕臣。騎兵奉行、大隅守。

 明治の世ではジャーナリストとして活躍する。

 山風版 「巴里に雪のふるごとく」

 巴里で旧知のフランス大尉シャノアンの案内でノートルダム寺院を見学。旧知の女の殺人事件に際して犯人として投獄されるが、真相を看破した川路によって救われる。

三遊亭円朝 (さんゆうていえんちょう:1839〜1900)

 落語家(正しくは圓朝)。本名出淵次郎吉。

 言文一致体を完成させ、近代日本語の父と呼ばれる。

 名人と言われた初代三遊亭圓右が二代目を襲名する直前に病没し幻の二代目と言われる。

 山風版 「警視庁草紙」「幻燈辻馬車」

 山岡鉄舟の紹介を受けて警保寮のお別れパーティ(征韓論争の事後処理で法務省から内務省へ移管された)で「怪談牡丹灯籠」の原型を披露。

 息子朝太郎の転落が語られる。

福地桜痴 (ふくちおうち:1841〜1906)

 新聞記者・文筆家。東京日日新聞主筆として新聞記者の地位を高める。

 山風版 「いろは大王の火葬場」

 木村荘平の火葬場が当たらないのは「牛肉屋と火葬場は合わない」からと喝破する。

北里柴三郎 (きたざと しばさぶろう:1853〜1931)

 医学者。日本の細菌学の父。

 横田順弥 「火星人類の逆襲」

 火星人類に対しバクテリア攻撃を試みるが効果をあげず。

内村鑑三 (うちむらかんぞう:1861〜1930)

 キリスト教指導者。不敬事件で教職を退き、黒岩涙香の朝報社に勤務するが、対露戦争への意見対立から退社する。

 山風版 「明治断頭台」「ラスプーチンが来た」「明治バベルの塔」「四分割秋水伝」

 少年時代、東京で英語を勉強中。築地のホテル館で双眼鏡を借りて事件を目撃する。(こういう場面でわざわざ後の有名人を配する辺りが洒落ている)

 下山女史のバザーに津田梅子と共に来訪。「下婢養成所」創設と言う彼女の目的を強く批判する。彼女を案内して鮫ヶ橋の貧民街を見聞し長谷川辰之助と会う。

 足尾銅山公害を追及する田中正造に肩入れし、万朝報で取り上げる様に黒岩に掛け合う。

黒岩涙香 (くろいわるいこう:1862〜1920)

 日本における翻案小説の始祖。一時日本一の部数を誇った万朝報の社長でもあった。

 相馬事件を大々的に取り上げる。

 山風版 「からゆき草紙」「明治忠臣蔵」「明治バベルの塔」

 樋口一葉に探偵小説を依頼して断られる。

 アナグラムのクイズを扱って部数を伸ばすが、社員の幸徳秋水の仕掛けたトラップにしてやられる。

徳富蘇峰 (とくとみそほう:1863〜1957)

 本名猪一郎。評論家、歴史家。小説家徳富蘆花(本名健次郎)は実弟である。

 山風版 「幻燈辻馬車」「エドの舞踏会」

 若き新聞記者時代、取材に現れて作中に登場する。

二葉亭四迷 (ふたばていしめい:1864〜1909)

 尾張藩士の息子。本名長谷川辰之助。小説家、翻訳家。

 山風版 「明治断頭台」「ラスプーチンが来た」

 江戸の尾張藩邸で見つけられた少年時代の鞠と共に紹介される。

 主人公の明石と敵役の稲城・ラスプーチンの双方に顔の利く第三勢力的な重要人物。

夏目漱石 (なつめそうせき:1867〜1916)

 言わずと知れた明治の文豪。

 山風版 「警視庁草紙」「風の中の蝶」「ラスプーチンが来た」「牢屋の坊ちゃん」「黄色い下宿人」

 幼き頃、樋口なつと遊ぶ。帝大生時代に親友正岡子規とコンビで一寸だけ顔を出す。

 「牢屋の坊っちゃん」では松山への赴任途中に李鴻章襲撃犯の護送列車とすれ違う。犯人は後に出所して「坊ちゃん」を読み、自分に似ていると感じる。

 ロンドン留学中、殺人事件の容疑者となる。事件に関わった名探偵の推理ミスを指摘する。

南方熊楠 (みなかたくまぐす:1867〜1941)

 博物学者。特に粘菌の研究で有名。大学予備門(今の東京大学)で塩原金之助(夏目漱石)や正岡常規(正岡子規)と同窓だった。昭和天皇に粘菌の進講を行った際、その標本をキャラメルの箱に入れて献上したと言う。

 山風版 「風の中の蝶」

 大学予備門時代、多摩で粘菌採取中に困民党の残党から警察の密偵と疑われる。

 クラスメートの夏目と正岡を北村門太郎に紹介する。石坂公歴の海外脱出を手助けする。

 荒俣宏 「目玉の熊ちゃん龍動奇談」

 ロンドンでシャーロック・ホームズやフロイト博士をやり込める。

幸田露伴 (こうだろはん:1867〜1947)

 小説家。本名成行。家は代々江戸城のお城坊主であった。

 「一国の首都」を著し、東京改造論を展開した。

 山風版 「警視庁草紙」「地の果ての獄」「いろは大王の火葬場」

 父に連れられて隅の御隠居様を訪問。その後、銀座の煉瓦街を見物する。

 芝の電信修技学校を卒業し北海道へ赴任する途上で原胤昭有馬四郎助と行き会う。

 荒俣宏 「帝都物語」

 森鴎外より紹介された加藤少尉と陰陽道に関して激論を展開する。加藤の蟲術に取り付かれた辰宮由佳理を拾い、鴎外の邸宅へ担ぎ込む。ここから加藤との長き戦いに入る。

北村透谷 (きたむらとうこく:1868〜94)

 詩人。本名は門太郎。透谷の号は生まれ育った数奇屋をもじったもの。

 山風版 「風の中の蝶」

 友人石坂公歴を通じてその姉ミナと知り合う。ミナへの恋心から公歴を救おうと奔走する。

幸徳秋水 (こうとくしゅうすい:1871〜1911)

 社会主義者。本名伝次郎。同郷の中江兆民の書生となり、その死に水を取る。

 彼の影響を受けた無政府主義者が明治天皇の爆殺を計画(いわゆる大逆事件)し、その首謀者として処刑される。

 山風版 「ラスプーチンが来た」「明治バベルの塔」「四分割秋水伝」

 万朝報の論説社員として黒岩の「新聞を売るための正義」に批判的な意見を述べる。

 自身が創設した日刊平民新聞で「妖婦下田歌子伝」を連載し穏田の行者との結びつきを暴露。これに憤った宇多子が大逆事件を仕掛けたと言う説がある。

島崎藤村 (しまざきとうそん:1872〜1943)

 明治の文人。木曽馬籠の本陣の息子。

 山風版 「魔群の通過」「風の中の蝶」

 どちらも名前だけしか出てこない。

 天狗党事件に遭遇した父の話を聞いて小説家を志望。幕末の木曽を書いた「夜明け前」を執筆する。

岡本綺堂 (おかもときどう:1872〜1939)

 小説家・劇作家。半七捕物帳で知られる。

 山風版 「警視庁草紙」「横浜オッペケペ」

 どちらも名前だけの登場。前者は半七親分の未来の紹介者として、後者では川上音次郎の姪を託される。

泉鏡花 (1873〜1939)

 小説家。幻想文学の先駆者。

 荒俣宏 「帝都物語」

 八卦見に身をやつし、自らの著作にちなんで「神楽坂七不思議」のひとつと称する。辰宮恵子を観音力の持ち主と評する。 

押川春浪 (おしかわしゅんろう:1876〜1914)

 冒険小説作家、SF作家。愛媛県出身、本名は方存(まさあり)。父はキリスト教牧師で伝道活動を行っていた押川方義。弟押川清は日本のプロ野球創始者として知られる。

 スポーツ社交団体「天狗倶楽部」を結成してスポーツ振興にも力をいれ、東京朝日新聞が展開した「野球害毒論」に対して、読売新聞誌上で反論。この論争の方針の対立から博文館を退社。

 横田順弥 「星影の伝説」「水晶の涙」「火星人類の逆襲」「人外魔境の秘密」「惜別の宴」

 明治モノの中心人物。彼率いる天狗倶楽部の面々は一致協力して帝都を襲う様々な怪事件を解決していく。

 人外魔境の探検のため博文館を退社する。

野口英世 (のぐちひでよ:1876〜1928)

 細菌学者。幼名清作。

 いわゆる偉人伝の定番だが、知れば知るほど(違う意味で)凄い人物である。

 山風版 「横浜オッペケペ」

 夢之助にけしかけられて貞奴を川上から奪おうと画策するが、結果的に溜め込んでいた渡米資金を川上夫妻の渡米資金として提供することになる。それでもめげないところが偉人たる所以か。

有島武郎 (ありしまたけお:1878〜1923)

 白樺派の小説家。人妻と心中。その行動を師である内村鑑三に批難される。

 荒俣宏 「白樺記」

 武者小路に触発され、犠牲者だけがいて犯行者のいない心中と言う事件を起こす。

寺田寅彦 (てらだとらひこ:1878〜1935)

 物理学者・随筆家。文学の分野では夏目漱石の最古参の弟子になる。

 荒俣宏 「帝都物語」

 渋沢翁の主催する「東京改造計画」会議に参加。軍の提示した高層都市(幸田露伴の「一国の首都」に範を求めららしい)に対して地下都市を提唱する。この案が後に地下鉄の敷設と言う形で実現する。

 鳴滝純一とともに将門の首塚を警護、加藤を退けるが大震災は防げず。

永井荷風 (ながいかふう:1879〜1959)

 小説家。本名壯吉。落語家に弟子入りして三遊亭夢之助を名乗った事もある。

 山風版 「横浜オッペケペ」

 三遊亭夢之助の名で登場。貞奴を川上音次郎から奪うように野口英世をけしかける。

志賀直哉 (しがなおや:1883〜1971)

 小説家。武者小路実篤らと「白樺」を創刊する。実篤とは遠縁で、妻康子は実篤の従妹になる。

 祖父直道は相馬藩の重臣で維新後は福島県大参事を務め、相馬事件の当事者の一人であった。

 山風版 「明治忠臣蔵」

 祖父を誣告する剛清を憎む。

 荒俣宏 「白樺記」

 卓球のラケットを筆のように持って武者小路を打ち負かす。筆おろしスタイルと命名。

西村真琴 (にしむらまこと:1883〜1956)

 生物学者。北海道帝国大学の教授でマリモの研究で理学博士となる。人造人間學天則を製作し京都博覧会に出品した。

 荒俣宏 「帝都物語」

 早川徳次の依頼を受けて地下鉄工事を妨害する鬼たちとの戦いに學天則を投入する

武者小路実篤 (むしゃのこうじさねあつ:1885〜1976)

 小説家。武者小路子爵の八男。志賀直哉らと文芸雑誌「白樺」を創刊して白樺派を主導。理想郷の実現を目指して「新しき村」を建設する。実際の活動期間は短いが、村外会員として支援する。

 荒俣宏 「白樺記」

 相馬事件をから発想を得て重婚と言う誰も犠牲者のいない人道的犯罪を計画する。

谷崎潤一郎 (たにざきじゅんいちろう:1886〜1965)

 小説家。

 山風版 「ラスプーチンが来た」

 建築中のニコライ堂の天辺で明石に肩車される。

今和二郎 (こんわじろう:1888〜1973)

 考現学の提唱者。

 荒俣宏 「帝都物語」

 薬売りに扮した加藤と遭遇する。

小酒井不木 (こさかい ふぼく:1890〜1929)

 本名小酒井光次。医学者にして探偵作家。甲賀三郎によるところの「変格派」の一人。

 横田順弥 「惜別の宴」

 伊藤博文狙撃事件を調べていてその謎に迫る。

岸田劉生 (きしだりゅうせい:1891〜1929)

 洋画家、白樺派の同人。

 荒俣宏 「白樺記」

 武者小路の妻房子が離魂病を起こすのを目撃。

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