時代小説人物評伝

弐の壱 天皇・公家篇

聖徳太子 (しょうとくたいし:574〜622)

 用明天皇の第二皇子。叔母推古女帝の摂政となる。一部に虚構・非在説あり。

 豊田有恒 「崇峻天皇暗殺事件」

 崇駿天皇の暗殺事件の謎を解く。その黒幕とは…。

 高橋克彦 「総門谷」

 総門によって甦った屍魔の一人。同じく屍魔の一人である役小角の妖術により姿を変えて朝廷で権勢を振るう。

 荒山徹 「魔風海峡」 「柳生大作戦」

 回想のみ。

 豊臣秀吉の霊的祖先の一人(太子の実名”トヨトミミ”と”トヨトミ”のこじつけ)。秀吉の征明は太子の霊統の影響とされた。彼の息子山背大兄王を守って死んだ忠臣の名が三成(みなり)であった。

 任那を奪った新羅に対抗するため親高句麗・百済の国策を選択。乳兄弟の三成に非時一族の由来を語る。

 半村版 「妖星伝」「闇の中の系図」

 養育係は壬生氏の出で、鬼道衆との繋がりが想像される。

 仏教を広めるために最初に嘘部を活用した(のでは無いかと想像される)。

 荒俣宏 「平安鬼道絵巻」

 ノミに擬態していた夜叉を見破り、これを臣下にする。

 物部守屋を討った理由として、大王になるために異国の鬼に魂を売り渡したと噂されるが、彼の真の目的は天寿国に入ることであった。そのために自分の子の命をすべて夜叉に与える。その結果、彼の子孫はすべて絶えた。

天智天皇 (てんじてんのう:626〜672)

 舒明天皇の第二皇子。母は皇極(後に重祚して斉明)女帝。

 荒山徹 「柳生大作戦」

 聖徳太子以来の親百済路線を踏襲するが、これを危惧する弟大海人皇子の妨害を受ける。

 「友愛外交」や「倭列島は倭人だけの所有物ではない」等、某元首相を髣髴とさせる発言を行う。

 豊田有恒 「白村江異聞」「壬申乱異聞」

 蘇我入鹿の計画を知ってこれを殺害。

 皇弟大海人と藤原不比等の密約により暗殺。時間犯罪者によって暗殺阻止が計画される。このとき接触した現時人の記録が「扶桑略記」の元ネタとなる。

天武天皇 (てんむてんのう:631?〜686)

 天智天皇の同母弟。但し日本書紀にその生年が記載されていないことから異父兄弟説が立てられる。

 豊田有恒 「壬申乱異聞」「大友の皇子東下り」

 藤原不比等と結んで兄天智天皇を暗殺。

 その素性は宝皇女(後の皇極・斉明天皇)と高向王に間に生まれた漢皇子。天智天皇の異父兄にあたる。母と弟のために手を血に染めるが、天智天皇を暗殺しその息子大友皇子を討って皇位につく。

 身代わりを使って生き延びた大友皇子を追って東国へ下る。

 荒山徹 「柳生大作戦」

 兄天智天皇の親百済政策に不満を抱き、密かに柳生崇矩を使ってその政策を妨害。兄帝の死後、兵をあげて甥の伊賀皇子を討つ。

藤原不比等 (ふじわらのふひと:659〜720)

 藤原鎌足の二男。天智天皇の落胤説もある。後の藤原摂関家の実質的な初代。

 豊田有恒 「長屋王横死事件」

 壬申の乱で養父が近江方に味方したため不遇であったがやがて持統女帝の寵愛を得て頭角を現す。

 役行者と結んで高市親王を暗殺させる。親王の息子である長屋王とも険悪であったが娘が長屋王と結ばれたことにより和解する。

吉備真備 (きびのまきび:695〜775)

 遣唐使として唐に学ぶ。帰国後に右大臣橘諸兄の政治を支える。藤原仲麻呂には退けられるが、その失脚後には再び栄進し、最後は右大臣にまでのぼる。

 荒俣宏 「帝都物語」

 帰国できず日本に怨念を抱く阿倍仲麻呂と遭遇。「吉備大臣入唐絵巻」を下敷きにしているらしい。

 真備の子孫が陰陽道を開いた賀茂家であり、仲麻呂が唐で成した子が日本に渡って安倍清明の先祖になる。

阿倍仲麻呂 (あべのなかまろ:698〜770)

 遣唐使として唐に渡り、そのまま官吏として唐に仕えて帰国できぬままに死去。

 「吉備大臣入唐絵巻」では鬼と化して、吉備真備を助ける。(真備の二度めの入唐時にも彼はまだ存命である)

 荒俣宏 「帝都物語」

 仲麻呂が唐で吉備の一族(日本で反乱を起こして唐に遁れた)の娘との間に成した子が日本に渡って安倍清明の先祖になる。

桓武天皇 (かんむてんのう:737〜806)

 天智天皇の孫白壁王(光仁天皇)の長男。天武系が称徳女帝で絶えたために父が天皇になり親王宣下を受ける。生母の身分が低いために立太子は想定されていなかったが、政争により最有力の異母弟他戸親王とその生母井上内親王(聖武天皇の第一皇女)は廃されたことで即位への道が開けた。

 高橋克彦 「総門谷」 

 蝦夷を服属させるために兵を向ける。

 荒山徹 「魔風海峡」 「石田三成」

 生母高野新笠が百済武寧王の末孫であったことから百済ネタで名前が出る。

 「魔風海峡」では百済再興に興味を示さず、「石田三成」では反対派に邪魔されて行動に出られず。

藤原緒嗣 (ふじわらのおつぐ:774〜843)

 藤原式家、参議百川の長男。桓武天皇に諫言してそのライフワークであった蝦夷平定と平安京の建設を止めさせた。

 高橋克彦 「総門谷」

 屍魔役小角の術により中身を厩戸と入れ替えられる。総門の計画に従って蝦夷平定を中止させた。

平城天皇 (へいぜいてんのう:774〜824)

 桓武天皇の第一皇子。病気のため在位僅か三年で同母弟の神野親王に譲位。寵愛する藤原薬子とその兄仲成により平城京への遷都を命じて政権への復帰を狙う。

 鯨統一郎 「いろは歌に暗号」

 薬子のトリックで挙兵を決意。事が破れると薬子の毒で心中。変の後に上皇を演じていたのは替え玉であった。

嵯峨天皇 (さがてんのう:786〜842)

 桓武天皇の第二皇子で、兄安殿親王の即位により皇太弟に立てられる。即位後には兄の子である高岳親王を皇太子とするが、薬子の変により廃立。

 能筆家であり空海橘逸勢と並ぶ三筆の一人。

 鯨統一郎 「いろは歌に暗号」

 兄平城上皇が挙兵に至った理由の調査を空海に命じる。

小野篁 (おののたかむら:802〜853)

 参議岑守の子。夜毎井戸をつたって地獄に下り閻魔大王に仕えたという。

 高橋克彦 「総門谷」

 父が陸奥守だった当時、怨魔王を名乗る総門と出会いその僕となる。怨魔王の命で高野山に登り、空海に学ぶ。隠岐に流されているとき、怨魔王がシバを復活させる場面を見て恐怖を抱く。

藤原良房 (ふじわらのよしふさ:804〜872)

 藤原北家冬嗣の次男。清和天皇の外祖父として人臣で初めての摂政となる。いわゆる藤原摂関政治の創始者。

 高橋克彦 「髑髏鬼」

 祈祷により応天門を炎上させ、政敵の左大臣源信と腹心の伴大納言善男を失脚させる。

在原業平 (ありわらのなりひら:825〜880)

 父が平城天皇の第一皇子阿保親王、母は桓武天皇の皇女伊都内親王。兄とともに臣籍降下する。

 六歌仙の一人。美男でしられ、伊勢物語の主人公でもある。

 高橋克彦 「総門谷」

 厩戸藤原緒嗣の次の顔として選ぶ。

藤原基経 (ふじわらのもとつね:836〜891)

 中納言藤原長良の三男。子の無かった叔父良房の養嗣子となる。初めて関白に任じられる。但し就任直には諸説あり。

 高橋克彦 「白妖鬼」「長人鬼」「空中鬼」

 弓削是雄シリーズにおいて最高権力者として登場。孫の陽成天皇に白妖鬼が憑いたと思い込んで退位に追い込む。

 陽成の譲位に際して弓削是雄を陰陽寮から免官するが、白妖鬼の一件で再評価し復帰させる。

陽成天皇 (ようぜいてんのう:869〜949)

 清和天皇の第一皇子貞明親王。

 宮中での暴力事件から伯父で摂政の藤原基経によって退位に追い込まれる。

 高橋克彦 「白妖鬼」

 白妖鬼(九尾の狐)が憑いた姉子女王を寵愛。 

藤原道長 (ふじわらのみちなが:966〜1028)

 摂政兼家の五男。二人の兄(道隆・道兼)の相次ぐ死によって政権を手に入れる。三人の娘を相次いで中宮と成した、藤原摂関政治の完成者。

 高橋克彦 「視鬼」

 二人の兄に遅れを取っているが、安倍晴明にその類稀なる運を評価される。

 火坂雅志 「花月秘拳行」

 藤原一門による政治権力の強化のために実方を陸奥に派遣して暗花十二拳の探索を命じる。

 清水義範 「封じられた論争」

 清少納言紫式部の中傷合戦を問題視して両者の著作を禁書とし、焼却命令を出す。

藤原実方 (ふじわらのさねかた:?〜999)

 左大臣・藤原師尹の孫、侍従・藤原定時の子。父・定時が早逝したため、叔父の大納言・済時の養子となる。 一条天皇の怒りを買い、「歌枕を見てまいれ」と陸奥へ飛ばされて客死する。

 火坂雅志 「花月秘拳行」

 藤氏秘伝の名月五拳の継承者。道長の命で(表向きは陸奥への左遷を装って)暗花十二拳の探索に向かった。幻となっていた名月五拳の最後の奥義を後から来る後継者に残す。

後醍醐天皇 (ごだいごてんのう:1288〜1339)

 諱は尊治。宋学にかぶれ王政復古を企図して鎌倉幕府を打倒した執念の帝王。足利尊氏に背かれて吉野で没する。

 山風版 「婆娑羅」

 幕府打倒、王政復古に執念を燃やし、露見すると家臣を犠牲にして省みない。隠岐への島流しに際して三人の妾を伴う。これを選ぶに付いて立川流の秘儀を執り行う。

後亀山天皇 (ごかめやまてんのう:1350?〜1424)

 南朝最後の天皇。明徳の和約で京に帰還。神器を北朝の後小松天皇に渡し、不登極帝(即位しなかった天皇)として太上天皇の尊号を贈られた。明治44年に南朝が正統とされたため、歴代天皇として公認されるようになった。

 称光天皇の即位が両統迭立に反するとして一時吉野に潜幸する。

 朝松健 「一休虚月行」

 存在が消される呪詛を受け、自身と兄長慶天皇の事跡が混乱し始めていることに気付き、自害をもって己の存在を歴史に残そうとした。

*生存当時は不登極帝扱いで歴代天皇として数えられておらず、兄長慶天皇に至っては在位を公認されたのは大正時代になってから。

後円融天皇 (ごえんゆうてんのう:1359〜93)

 北朝五代天皇。第一皇子幹仁親王に譲位。

 朝松健 「一休暗夜行」

 南北朝の合一を条件に三条厳子(通陽門院)を義満に譲渡。通陽門院の生んだ第一皇子幹仁親王は義満の胤であった。

後小松天皇 (ごこまつてんのう:1377〜1433)

 北朝後円融天皇の第一皇子。明徳の和約により南朝の後亀山天皇から三種の神器を譲り受けた。両統迭立の約束を破って皇子の実仁親王に譲位。これにより後南朝の抵抗運動が起こる。

 柴錬版 「忍者からす」

 貴人の血を求めて宮中に送り込まれた初代鴉の娘との間に皇子(後の一休宗純)を儲ける。足利義満によって廃位される寸前に義満が鴉に殺されて危機を逃れる。

 朝松健 「一休魔仏行」

 一休の実父として名前は何度も出ているが、実際に登場したのはこの作品だけ。

 禁裏から奪い去られた神宝金剛宝杵”天の瓊矛”の奪還を一休に託す。

後花園天皇 (ごはなぞのてんのう:1419〜1456)

 伏見宮貞成親王の第一皇子彦仁。称光天皇の危篤により後小松天皇の猶子となり、親王宣下のないまま践祚する。

 現天皇家の直系の祖先になる。

 朝松健 「一休破軍行」

 称光天皇の危篤により動き出した後南朝に狙われて、魂魄を抜かれる。

 一休の活躍により魂魄を取り戻す。”天魔”足利義教すら一目置いた聖主となる。

山科言継 (やましなときつぐ:1507〜79)

 羽林家。「言継卿記」を残す。

 半村版 「産霊山秘録」

 ヒの一族と禁裏とのつなぎ役。信長に天下を取らせようと画策する。

近衛前久 (このえさきひさ:1536〜1612)

 五摂家筆頭近衛家の当主。越後へ降って上杉謙信の関東遠征に同行したり、信長の甲州征伐に随行したりとエネルギッシュな人物。

 山風版 「近衛忍法暦」

 秀吉が関白の先に皇位を狙うことを危惧してこれを挫くために策動する。家康とのかみ合わせには失敗するが、大陸への出兵に踏み切らせる。

菊亭晴季 (きくていはるすえ:1539〜1617)

 公卿。秀吉の関白就任に尽力する。秀次に娘を嫁がせるが、その秀次が処罰されると連座して流罪となる。

 彼の娘(あるいは養女)が真田昌幸の正妻であるとする説があるが、家格から見て可能性は低い。

 山風版 「妖説太閤記」

 秀吉に関白就任を入れ知恵した。

山科言経 (やましなときつね:1543〜1611)

 言継の次男。父と同様に「言経卿記」を残す。

 井沢版 「銀魔伝」

 銀魔の手先。将軍職就任を餌に光秀を謀反へ追い込む。 同じ手口で秀吉を取り込もうとしたが失敗する。

二条昭実 (にじょう あきざね:1556〜1619)

 二条家当主。その名前は義昭の偏諱を受けたもの。

 近衛信伊との関白相論により秀吉に関白の座を奪われた。豊家の滅亡後に関白に返り咲く。

 荒山徹 「魔風海峡」

 欽明党の一人。関白を奪われた恨みから、家康に黄金の秘密を明かす。

近衛信尹 (このえ のぶただ:1565〜1614)

 近衛前久の長子。父に似て武家に親近感を持ち、文禄の役では渡海を希望して後陽成天皇の制止を受けた。

 荒山徹 「魔風海峡」

 欽明党の一人。朝鮮に渡って黄金を入手し帝政の復活を目論む。しかし渡海が叶わず、また戦況も悪化したことから石田三成に鍵とともに秘密を明かす。

九条幸家 (くじょうゆきいえ:1586〜1665)

 五摂家九条家当主。初名忠栄。崇源院が先夫豊臣秀勝との間に儲けた娘完子を正室とし徳川家と天皇家の仲介役となった。

 隆慶版 「花と火の帝」

 姻戚関係から「家康に飼われている男」と揶揄される。

 南原幹雄 「天皇家の忍者」

 静原冠者の長・竜王坊の後ろ盾となる。

中院通村 (なかのいんみちむら:1588〜1653)

 村上源氏中院家当主。後水尾天皇の第一の側近で、譲位を幕府へ報告しなかったことで武家伝奏を罷免、寛永寺に幽閉された。

 五味康祐 「柳生武芸帳」

 謎の剣士神矢悠之丞こと立原道長の父。

後水尾天皇 (ごみずのおてんのう:1595〜1680)

 江戸初期の天皇。陽成天皇の第三皇子。将軍秀忠の娘和子を中宮とする。家光の乳母おふくが無理に拝謁をしたことを不服として一の姫興子内親王へ譲位する。

 幕府の介入による即位であった為父とは不仲であった。父の諡号として乱行で廃位された”陽成”の加後号をつけた上に、自身の号として陽成天皇の父であった清和天皇の異称”水尾”の加後号を選ぶ。このような父子逆転の加後号は他に例が無い。

 山風版 「柳生十兵衛死す」

 長宗我部盛親の遺児乗親が率いる豊臣家の残党と結んで幕府に一泡吹かせようと目論む。乗親の異母弟丸橋忠弥を介してその師匠由比正雪、その黒幕紀伊大納言頼宣と繋がる。この大陰謀が露見することを恐れて、月の輪院の側近くに侍る金春七郎を遠ざけようとして刺客を送り込む。

 隆慶版 「吉原御免状」「かくれさと苦界行」「花と火の帝」

 「吉原〜」「かくれさと〜」の主人公松永誠一郎の実父。「花と火の帝」では主人公となるが未完。

 父の意思を継いで天皇親政を目指す。朝廷への圧力を強めてくる徳川幕府に対抗するため豊臣家に期待をかけるが、淀殿の暴走を見て断念。豊臣家を追い詰める徳川のやり方に反感を抱き追討の綸旨を拒否。

 荒山徹 「柳生陰陽剣」 「魔岩伝説」

 友景サイクルでは友景の現世における主。百済に強い思い入れを持っており、百済団の陰謀に際して友景が姿を見せなかったのもあるいは帝の御意志だったか。

 天海の要請に応じて皇子を輪王寺宮として送り込む。御自身が何処まで事情に通じていたかは不明。(「魔岩伝説」) 

 えとう乱星 「蛍丸伝奇」

 伝説の勤皇刀蛍丸を所望し、これをめぐる暗闘のきっかけを作る。

 五味康祐 「柳生武芸帳」

 柳生家に命じて中宮の生んだ二皇子を殺させる。その実行犯を示したのが「柳生武芸帳」であった。

 南原幹雄 「天皇家の忍者」

 徳川秀忠の江戸遷都計画に抵抗する。

中川宮朝彦親王 (なかがわみやあさひこしんのう:1824〜91)

 伏見宮邦家親王の第四王子。

 幕末の政局に大きな影響力を持ち、「魔王」とも呼ばれた。維新後は謹慎処分となり、久邇宮と称した。

 山風版 「秘戯書争奪」

 還俗前の青蓮院の宮として登場。手飼いの伊賀者を繰り出して秘戯書「医心方」を守らせる。

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