ちくま文庫 明治小説全集
単発では他の出版社でも出ていますが、明治モノを全作品コンプリートしているのはちくまのみです。
時系列に関しては山田風太郎時代小説年代順リストの明治編をご参照下さい。
第一・二巻
「警視庁草紙」
明治六年〜十年。より正確には西郷が東京を出発してから西南戦争まで。昨年、NHKでドラマ化されました。
元南町奉行駒井相模守と大久保内務卿とその影川路利良の知恵比べ。更に今は在野にいる井上馨の陰謀が絡む。警視庁方の巡査として元新撰組の斉藤一こと藤田五郎も登場。
重要ゲスト 山岡鉄舟・黒田清隆・高橋お伝・静寛院宮・清水次郎長
ちょい役 岩倉具視・江藤新平・お竜・夏目金之助・樋口なつ・細谷十太夫・幸田鉄四郎・森林太郎・乃木希典
第三・四巻
「幻燈辻馬車」
十五年〜十八年。これは伝奇小説と言うべきでしょうか。主人公(と言っていいのか)の干潟干兵衛の孫お雛が西南戦争で死んだ父親の霊を呼び出し、その父が更に会津戊申の役で死んだ母の霊を呼ぶと言う二重構造は凄い。
「明治忠臣蔵」
忠臣錦織剛清の悲愴。
剛清に味方する後藤新平、対外的な風聞を考慮して彼の逮捕を差し止めた陸奥宗光、そして寝返った星亨。祖父を毒殺犯にしようとする悪者と呼ぶ家令志賀三左衛門直道の孫が小説の神様志賀直哉である。
「天衣無縫」
警視庁草紙にも登場した広沢参議暗殺事件に関わるあの女性の話。
「絞首刑一番」
キャラの配置は割と典型的なんですが、女が二人とも死んで最後に男だけが残る点が割と珍しいかも。男女同数なら良くて双方全滅、なんですけどね。
第五〜六巻
「地の果ての獄」
明治十九年〜二十年。愛の典獄と呼ばれた有馬四郎助と教誨師原胤昭の出会いについて。
明治物ではこれだけがBでした。
「斬奸状は馬車に乗って」
登場人物の実在確認が取れません。
「東京南町奉行」
御一新後も生きていた江戸の”妖怪”のその後。
「首の座」
明治物にして切支丹物という厄介な話。
「切腹禁止令」 (廣済堂文庫 山田風太郎傑作大全11「切腹禁止令」表題作)
「俺は不知火」
冒頭で斬られた筈の象山の存在感が大きすぎて、主人公の筈の息子の影が薄い。斬った彦斎の方がまだしも…。
第七巻
「明治断頭台」
明治二年〜四年。幕末から続いて、まだ物騒な時代。明治を舞台にしたミステリー連作なので、ネタ晴らしに成らないように注意して抜粋しました。
川路利良と同僚香月経四郎の推理合戦。
通行人 福沢諭吉・東郷平八郎・海江田信義・江藤新平・河上彦斎・高橋お伝・山田浅右衛門
事件関係者 小笠原長行・岸田吟香・岩倉具視・山県有朋・西郷隆盛
最終章の副題「正義の政府はあり得るか」は「警視庁草紙」と共通する大テーマである。
第八巻
「エドの舞踏会」
明治十九〜二十年。
海軍少佐山本権兵衛は大臣西郷従道の命で大山巌夫人にダンスの指南を依頼する。そこから明治の元勲達の家庭の問題に巻き込まれてゆくのだが…。
明治の元勲達とその妻女の列伝。亭主の方はそれぞれに評価が難しいが、奥さんの方はそれぞれに大した物である。女性に勧めにくい物が多い風太郎作品の中でもこれは女性にも照れなく薦められる。
作中で、小西郷の言葉として「男はな、元の身分がいやしいと、いかに出世しても、その人相にそれが残る。ところが女性はな、貴族になったら、みんなみごとに貴族になるな」と語らせているが、まさしく至言である。
登場人物 井上馨・伊藤博文・山県有朋・黒田清隆・森有礼・大隈重信・陸奥宗光・の奥方達
「それからの咸臨丸」
明治元年〜二年。咸臨丸と、その元乗組員吉岡艮太夫のその後の行方。
「風の中の蝶」
多摩の自由党壮士の行動に巻き込まれる南方熊楠と北村門太郎。
「からゆき草紙」
はて、何処までが実際に有ったことなんでしょうか? 殺人事件の顛末については犯人を伏せておきますが。
「巴里に雪のふるごとく」
明治五年〜六年。パリ出張中の川路大警視の活躍。明治断頭台と警視庁草紙を繋ぐ作品。ミステリーなので犯人は明かしません。
「築地西洋軒」
森鴎外本人が登場する「舞姫」の裏話?
登場人物・小金井良精
「横浜オッペケペ」
最後の最後で隠されれていた意外な人物の正体が明かされます。いや分る人間には分るのでしょうけど。
第十一巻
原題「明治化物草紙」のままでも良いと思うのだけど。サハリンまで来て日本への渡航を諦めて還ってしまったチェーホフの代わりに来たのがラスプーチンというのは…。
稲城黄天=由比正雪、ラスプーチン=森宗意軒でしょうか。稲城黄天も敵役として前半ではかなり強烈なんですが…。後半は思いっきり喰われてます。
登場人物 明石元二郎・二葉亭四迷・谷崎潤一郎・乃木希典・森林太郎・木村荘平
「明治バベルの塔」
朝日、読売を抜いて日本一の部数を誇る万朝報であったが、同じ手法で伸してきたライバル紙に対抗する為に黒岩涙香が取った作戦とその顛末。
「牢屋の坊ちゃん」
日清戦争の講話談判の清国全権大使李鴻章を狙撃した小山六之助を「坊っちゃん」的な人物として描く。その伏線として四国へ赴任する途上の夏目金之助とすれ違わせる。
「いろは大王の火葬場」
牛鍋チェーンで財をなした木村荘平が新たに起こした火葬場の繁盛を願って有名人との契約取りに奔走する。その第一号となったのは?
「四分割秋水伝」
大逆事件の首領幸徳秋水を「上半身」(=タテマエ)「下半身」(=プライベート)「背中」(=逆の反面・本音)「大脳旧皮質」(=深層心理)に分けて描く。
この企画のタイトルをこれにちなんで「四分割風太郎伝」にしようかと思ったんですが、「時代小説」「推理小説」「随筆」と後一つ…四つ目の切り口が思いつかなくて。
「明治暗黒星」
星亨とそれを殺した伊庭想太郎。
公判直前の想太郎と面会した「星亨の数少ない友人」とは誰でしょうか?
第十三・十四巻
「明治十手架」
〜明治十七年。原胤昭が教誨師に成ることを決意する顛末。その後の話については「地の果ての獄」に書かれる。「幻燈辻馬車」にもゲストで登場しますが、彼の出獄時期が微妙に食い違います。まあ気にしないことにしましょう。
登場人物 有馬四郎助・ドクトル・ヘボン・岸田吟香・大隈重信・星亨・三島通庸
「明治かげろう俥」
大津事件の後日談。ロシア皇太子を救った車夫二人が辿るその後の人生。年金を貰ってめでたしと行かない当たりが流石に作者らしい。
「黄色い下宿人」(山田風太郎ミステリー傑作選1本格篇「眼中の悪魔」 光文社文庫にも所蔵)
ロンドン留学中のとある人物とシャーロック=ホームズの邂逅。