登場人物紹介

佐七一家

 人形佐七

 寛政六年(甲寅)生まれ。文化十二年、父伝次の兄弟分だったこのしろの吉兵衛の後見を受けて岡っ引きとなる。

 色の白い、役者のようにいい男で、その男振りから”人形佐七”の愛称で呼ばれる。女に甘いのが弱点だが、それでしくじった事はない筈。

 お粂 →お粂の事件簿

 寛政五年(癸丑)生まれ。父は天草の牢人磯貝九郎右衛門。密貿易に加担し仲間に売られて刑死。七歳で吉原に売られ、花魁東雲太夫を名乗る。二十二歳で身請けされ、翌年に自身の素性にまつわる事件(「嘆きの遊女」)で佐七に助けられ夫婦となる。

 良く出来た女房だが悋気ぶかいのが玉に瑕。名前は捕物帳の原点「半七」の妹から。(「人形佐七誕生のこと」@横溝正史自伝的随想集

 辰五郎

 寛政八年(丙辰)生まれ。通称きんちゃくの辰。佐七の幼なじみ。幼い頃に父を亡くし、伯母のお源に養われる。柳橋の船宿で船頭をしていたが、佐七の身内となる。雷が苦手。(但し全集漏れの初期作品「犬娘」には雷恐怖症がまだ書かれていない。豆六の蛇嫌いとセットであとから付け加えられた設定なのだろう)

 佐七の逼塞中(前期と後期の間)は奥州二本松に居た。これは恐らく母方の実家なのだろう。(つまりお源は父親の姉)

* 補遺に収められた初期年代作品を見ると、弟子入り当初(文化十二年時)には同居せず通いのようである。ここからは個人的な意見だが、文化十二年中は佐七の母が存命で、その死後に空いた部屋に辰(と後に豆六)が収まったのではないか。

 豆六

 寛政十年(戊午)生まれ。通称うらなりの豆。御用聞きに憧れて音羽の大親分(このしろの吉兵衛)を頼り、その紹介で佐七に弟子入りする。蛇が苦手。

 上方の藍玉問屋の六男。顔の長さと干支から父は馬六と付けようとしたが、母方の反対(母の名がお鹿だった)もあって馬の好物にちなんで豆六となった。 

 15,6の時に浅草でろくろっ首の女を見た(「ろくろ首の女」)と言っているので江戸は始めてではない。

* 後から描き加えられるケースが多い。彼が登場するかどうかで年代が絞り込める。

重要脇役

 神崎甚五郎 南町奉行所捕物控

 八丁堀与力。佐七を目にかけている。ほとんど明記されないが南町に属する。

 茂平次 →茂平次の事件簿

 浅草鳥越を縄張りとする岡っ引き。佐七より二十ほど年長で、若い佐七を目の敵にする。通称海坊主の茂平次。やり方は荒っぽいが、この時代の捜査法としてはこれが普通で、佐七の手法の方がむしろ特殊では無かろうか。

* 鷺十郎モノでは乾分(おそらく辰五郎に変更されている)の名前。朝顔金太では同名のライバルとして登場。但し縄張りは本所横網。

 お源 →お源の事件簿

 辰五郎の(おそらくは父方の)伯母、育ての親。本所緑町に住み、両国の見せ物小屋で三味線を弾く。竹蔵という息子が居るがあまり丈夫ではない。(全集もれの「番太郎殺し」では辰から「吉ちゃん」と呼ばれている)

 職業柄の地獄耳で、時折やってきては事件の情報を提供する。

 このしろの吉兵衛 →吉兵衛の事件簿

 音羽から山吹町、水道ばたへかけて縄張りとする岡っ引き。佐七の父伝次の兄弟分。女房は延千代の名で清元の師匠をしている。 

助っ人・敵役

 良庵(瓢庵)先生 →良庵(瓢庵)先生の事件簿

 下谷長者町に住む医者。

 元は水谷準氏の作品である「瓢庵先生捕物帳」の主人公。その第一作「稲荷騒動」で佐七を登場させて、「語られざる事件」と言う設定にされたらしい。ここから佐七モノに瓢庵先生が、登場するようになった。但し、現行の春陽文庫版ではすべて良庵と改められている。

 と言うのが補遺編での解説。改稿もれの補遺編収録作品では「瓢庵」のままで登場。

 藤井勘左衛門

 南町筆頭同心。通称烏勘左衛門。

 上司の神崎に目を掛けられる左七が気に食わない。茂平次と並ぶ佐七の敵役。

* 元は鶯十郎モノの敵役で、佐七モノへの改作に際しそのまま居残り。(立ち位置的に茂平次との置き換えが無理だったか)

 岡部三十郎

 佐七と顔なじみの同心。

* 彼が登場するのは後期と推定する。

 金棒引きの源さん →海老床の事件簿

 海老床の常連。情報通で辰と豆六に事件のきっかけを与える。

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