魔法世界史

§4 大陸型国家対海洋型国家

4−1 抗争軸の変化 

 モンゴルの勃興により世界史が始まる。その意味について岡田英弘氏は四点を上げている。@モンゴル帝国による草原の道の統一、Aそれ以前の政権がすべてモンゴルに飲み込まれ、そこから改めて新しい国家が生まれてきた、B中国北部に発生した資本主義経済を世界中に拡散させた、C陸上貿易が独占されたため外辺の海洋型国家が活動を開始した。

 まず草原の道の統一について。それまでは草原の道は複数の大陸型国家同士の均衡の元で機能していた。それが単一の国家によって統一された事の意義は確かに大きい。モンゴルの征服によりユーラシアの勢力図はきわめて単純になった。梅棹史観に見られる旧大陸の四大勢力の3つ(中国・ロシア・イスラーム)はこのモンゴルの支配下にあった国である。但しイスラームについてはその全域がモンゴルに侵されなかった為か、モンゴルの後に単一の国家とは成らなかった。ユーラシア大陸でモンゴル帝国の最大版図の外に残った地域はヨーロッパ半島とインド亜大陸(とインド文化圏に属する東南アジア)のみである。資本主義経済が中国北部に起源を持つと言う話については経済論(魔法世界の資本論)の方で詳細に取り上げたいと思う。この項で最重点事項として取り上げたいのが最後の、大陸型国家と海洋型国家の対立の起点となったという点である。

 これまでの各国史の段階とモンゴルの征服は何が異なるのか。これ以前の歴史は遊牧民が農耕民の居住地へ移動してこれを支配すると言う形態を繰り返してきた。支配構造そのものはモンゴルも同じである。違うのは彼らが自分たちの意志で征服を開始したという点である。それ以前の民族移動は気候変動であったり他勢力に追い出されたりして仕方なく農耕地帯へ押し出されていた。モンゴルは乾燥地帯での抗争に勝ち残った最強の勢力であった。彼らの登場により遊牧民と農耕民の抗争というこれまでの図式に終止符が打たれる事となる。モンゴル帝国をそれ以前の遊牧民国家あるいは征服王朝と隔てる点は、”天命を受けて”自発的な征服活動を始めた事と父祖の地であるモンゴル高原(その当時はまだそんな名称では無かったと思うが)との繋がりを保ち続けたと言う二点である。

4−2 攻め残された大地

 前項でユーラシア大陸全土でモンゴルの洗礼を免れた地域はヨーロッパ半島とインド亜大陸のみであったと述べた。この二つの地域が残ったのは偶然でも天運でもなく、単に未開発であった為である。モンゴルの軍事技術は見通しの良い広大な平地において最適化されていた。為にまだ農地化が完全に進んで居らず征服する価値が低かった事、そして鬱蒼とした森が広がるこの両地域にはモンゴル式の軍事作戦に不向きであった。モンゴル人は、恐らく遊牧民すべてにその傾向があったと思われるのだが、大地に手を加える事を嫌う。だから彼らは森林地帯には手を付けなかった。そしてこの森がモンゴルの攻撃に対しての有効な防壁となった。

 ヨーロッパは巨大な半島地域である。ヨーロッパ内部で戦っている間はその中で大陸型国家と海洋型国家とに区別されるが、全体としてはヨーロッパ内部の陸軍国家は真のモンゴルの流れを汲む真の大陸型国家ロシアには遂に勝利出来なかった。そしてその地政学的要因から海洋型国家として成長してきたイギリスがヨーロッパにおける最後の勝利者となった。同じく海洋型国家として発展してきたスペインやオランダは、大陸と地続きであったためにヨーロッパの大陸型国家の干渉から逃れる事が出来なかった。

 さて梅棹史観の呼ぶところの第二地域(この名称はむしろ逆で、勃興の順に大陸内部を第一地域、外辺を第二地域とするべきである。よって今後は内陸地域と外辺地域と呼称する)において唯一モンゴルの外辺に置かれたインド亜大陸であるが、後にモンゴルの後継を名乗るムガール帝国の征服を受ける事になる。アレクサンダー大王の時代に続き、またしてもインドは外圧によって歴史を作られる事になった。

 モンゴルの勢力はユーラシア大陸の外には及ばなかった。日本は大陸から切り離された諸島国家であったが故にその征服を免れる事となった。もう一つの外辺地域・日本における地政学の事例は別稿にて述べる。

4−3 魔法世界史的補足

 さてこれで終わったら魔法世界史の一稿に取り上げる意味がない。モンゴルの勃興の魔法世界史的な意義について補足しておきたい。

 モンゴルの勃興の影響は東西の魔法文化の接触・融合と言う一言に尽きる。環境操作型の西方魔法体系と環境適応型の東方魔法体系が、この時代に至って相互にアンチテーゼとして見いだされる。旧大陸における二つの異なった魔法文明が接触するときいかなる事が起こるか。おそらくはモンゴル帝国内部のどこかに(一つとは限らない)魔法文明の統合研究機関が設けられるであろう。魔法文明を独占したモンゴルは史実以上に強力になる。滅びるとしたらやはり内部抗争であろう。それにしても、この設定だと極東の諸島国家(日本)が生き残る可能性はかなり低いでしょうねえ。

 大陸の魔法文明を糾合してしまった大モンゴル魔法帝国に対して外辺海洋国家の対抗策は果たして有るであろうか。一つは大陸型魔法文明に対する海洋型魔法文明という新体系を構築する事である。そしてもう一つが旧大陸魔法文明に対抗する新大陸魔法文明を設定すると言う手法がある。

 どちらにしても、まず今までの魔法体系を総合して提示する必要がありますので、今回はこの辺で終わります。

 関連稿 魔法世界の戦争論§4 魔法世界の地政学 コラム世界史の誕生

 次稿・§5 海洋型国家の勃興

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