魔法世界史

§5 海洋型国家の勃興

5−1 海遊民の誕生

 海洋民族は、当たり前の事だが海の近くに発生する。だが海の遊牧民(以下海遊民と呼称する)と呼ばれる存在に成長するにはいくつかの付帯条件が必要になる。実在の海遊民=フェニキア人を参考にその発展形態を検証してみよう。

 第一の条件は内陸からの圧力である。つまりその生存圏を否応なしに海洋に求めなければならなかったということである。フェニキア人の誕生した(と思われる)シリア地方は文明の発祥地であるメソポタミアからほど近く、必然的にかの地方に生まれた大帝国からの耐えざる圧力にさらされていた。

 沿岸にすむ人々が海に乗り出す能力を持たないなら、海洋民族とはなり得ない。よって第二の条件は航海術の発達である。船を造り出すための材料を提供する森林、そして外洋航海には不可欠な天文学の知識体系、シリアにはそのどちらもが存在した。彼らが活躍した地中海沿岸地方が今岩山だらけなのは、彼らによる大量伐採(用途は船だけではないが)の所為であるらしい。

 そしてこれはフェニキア人に特有の条件かもしれないが。地中海という内海の存在があげられる。これは後に誕生する東西の古代帝国(ローマと漢)の違いにも繋がる。地中海沿岸にはフェニキア人、そして後発のギリシア人による植民都市が多数誕生した。

 本稿の参考文献の一つ「銃・病原菌・鉄」には地中海の存在がヨーロッパの多様性に繋がったと書かれている。逆に言うと内海を持たないことが中華帝国の高度な中央集権体制を生んだと言える。しかし中国も南船北馬と言って北と南ではかなり文化様相が異なるのだが。

5−2 海遊民の性格と独自の魔法文化の可能性

 海洋民は陸の遊牧民と同様に開放的な性格を有するが相違点も多い。家畜を利用する遊牧民に対して、海遊民はプリミティブは狩猟民的な性格を残している。その一方で、海遊民は遊牧民よりも商業に対する依存度が高く、必然的に重商主義的な性格を備えている。しかし大人口を支えるだけの食料生産が得られないので、古代では大勢力にはには成りにくく、海軍力がどれほど強大でも陸に巨大帝国を生み出すことはない。彼らが脚光を浴びるのは加工貿易が盛んになる時代まで待たねばならない。

 西洋の諸言語を記載するために用いられる文字=アルファベットと考案したのは海洋民であるフェニキア人とされる。アルファベットも元はそれ自体に意味を持っていたと思われるのだが、それが表音文字として西洋に広く採用された。

 一方、大陸の反対側では漢字が表意文字として残ったが、これは背後に巨大な古代帝国=文化圏を持つか持たざるかの違いではなかろうか。つまりアルファベットは便利な道具として異なる文化圏で取り入れられた(高い文化を持つギリシア人はそこから独自の文字を作っている)が、漢字はそれ自体が文化と一体のものとして広まっていったと思われる。漢字文化の影響を抜け出して文化の独自性を維持するには表意文字を考案する以外にはない。(関連稿 魔法的言語学2

 魔法文明を発達させるには、1)ある程度の人口密集が必要である、2)独自の真名文字を持つ、と言う二点が不可欠であり、よって海遊民魔法文明が独自に発生展開する可能性は残念ながら低い。しかし彼らの「利用できるものは何でも取り入れる」と言う柔軟な性格から見て、農耕民・遊牧民双方から既存の魔法を取捨選択して独自の体系を組み上げると言う可能性は残る。

§6 新大陸魔法文明 (未定)

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