魔法の変遷 U

§3 魔術文明(ML4〜6)

 農耕の発生と共に魔術=魔法技術は飛躍的な発展を遂げる。環境の最適化を目指す環境操作型魔術と環境に合わせた作物の改良を指向する環境適応型魔術が興る。但しこの名称は魔法が学問体系化された(ML7)後に、魔道学者達によって考案されたもので、その当時には用いられていない。(参照・魔法世界の資本論§0 魔法世界の農業

 農耕から分化して牧畜を発達させ移動生活を営むようになった遊牧民族達は定住農耕民とは異なった独自の魔法文明を構築していった。遊牧民魔術(ML5)は農耕民の魔法に比べて社会性に富む。また防御指向の農耕民達に比べて攻撃指向が強く出ている。(関連稿・魔法世界史§2 定住農耕民と移動牧畜民

 両者の魔術は互いに影響しあいながら発展し、やがて両者が融合した汎魔術(ML6)が生まれる。この名称も魔法学問体系が確立した後の命名である。

3−1 僧侶と魔術師の分化

 原始呪術の時代には魔法はすべて呪術師によって管理されてきた。しかし魔術文明が発生するとその立場の違いから社会的な管理者としての僧侶と非社会的な研究者としての魔術師とに分化を始める。この段階に至ると魔術の力は人々の集団としての思念から生まれるので、魔法の資質が弱くとも多くの人間を纏める能力が有れば魔術を操れる。そのような者達が世襲的に僧侶階層を形成する。それに対し資質を有しながら僧侶階層に生まれなかった者は神官として雇用され魔法儀式の実務を取り仕切る。神官層は魔法が学問的に体系化されていくに伴って魔術師としてその立場を強めていく。僧侶と魔術師の根元的な対立構造の端緒はこうした分化の経緯にある。

 僧侶と魔術師は同根であるが、その方向性・目的性が異なる。僧侶は魔術体系を社会の一部に組み込もうと意図し、魔術師は社会の要求に従って魔術を生み出そうとする。両者は言うなれば魔法的社会を円滑に発展させる為の両輪である。どちらか一方の力が優越した社会は(僧侶の力が強いと)発展が止まるか(魔術師の力が強いと)暴走して崩壊する。僧侶が文科系で魔術師が理科系であると言えばわかりやすいであろうか。

3−2 農耕民魔術

 農耕民の魔術は当然に農耕に関連した様々な事項に及ぶ。その最たる物は気象を予測し対処する方法と、農作物の改良である。前者に重点を置く魔法文明を環境操作型と呼び、後者に重点を置く魔法文明を環境適応型と呼称する。

 二種類の農耕魔術に共通する特徴の一つが、土壌改良魔術とその延長にある土木建築魔術である。文明の根幹に樹木を戴くか、岩石を主軸に据えるかによって多少の差異がある。これは文明発生時の周囲の環境(乾燥か湿潤か)に左右される。(前稿・2−3 集約儀式と精霊石・精霊樹を参照)

 農耕魔術は保守的で専守防衛を志向する。農耕民が生み出す戦闘呪文は遊牧民の侵入に対抗するために編み出される。その代表例が気象魔術から発展した雷撃呪文である。

3−3 遊牧民魔術

 遊牧民は家畜を管理するための様々な魔術を発展させた。その応用で精神に影響を与える様々な魔術が誕生している。遊牧民が巨大な集団を作らないのは農耕に比べ生産性が低く、大人口を支えられないためでもある。移動を繰り返す彼らは移動系と交渉系に関して様々な魔術を残している。

 彼らは通常は農耕民との交易により細々と生計を立てているのだが、農耕社会が統一され辺境における自由な交易が阻害されると結束してこれに当る。農耕民国家の統一が遊牧民の集結と侵入を呼び込むと言うサイクルは現実に見られた事象であるが、魔法世界ではより深刻である。つまり農耕民の魔術が彼らの文明圏の繁栄と当時のその外縁(つまり遊牧民の生活圏)の環境悪化を招くため、この統一→侵入→分裂という一連のサイクルがより加速されるのである。

 遊牧民から生まれた攻撃魔法の代表格である火球弾は、農耕民の優れた土木魔術の結晶である城壁を打ち崩すために編み出された。農耕民はこの火力に対抗するために氷壁呪文を創出した。戦争が魔法を発展させた不幸な事例である。

3−4 汎魔術

 汎魔術とは農耕民魔術と遊牧民魔術を統合した古代魔法帝国において発展した総合魔術である。汎魔術は双方の長所を融合させた物で、それ以前の魔術と違って生産性・目的性が薄い。それまでのように魔術の研究が手段でなく、それ自体が目的化している。魔術の発明が社会構造の変革や経済発展に繋がるようになり、「発明は必要の母」と言う標語が一般化する。

 但し学問体系化の過程で抜け落ちた魔術も多い。現在汎魔術に分類されている呪文の多くは、利用価値が見いだされなかったため省みられなくなった魔術である。それらは総じて失われた魔術=ロストロア(LL)と呼称される。

 これ以外に錬金術と占星術も汎魔術の一つに数えられる。これらは魔法産業革命時代(ML9)においてそれぞれ錬成学宿数道として体系化される。

§4 学問的魔法体系と教会祭祀(ML7・8)

 古代帝国の統一によって、呪術めいた汎魔術時代(ML6)を経て、魔法の学問体系(ML7)が整えられる。その後、煩瑣な神学論争を経て教会祭祀(ML8)が発達する。

4−0 魔術と魔法

 魔法は呪術、魔術、魔法、果学という4つの段階を経て発展する。この中で特に注釈を擁するのが魔術と魔法の違いであろう。

 魔術というのは現象を優先する、いわば帰納法的なアプローチである。それに対し魔法とは理論が先行する、演繹的なアプローチを取る。魔術から魔法へと言うのは発展順序であっても優劣ではない。それは汎魔術から学院魔法へと移行する段階で落ちてしまった術(LL)が存在する事でも解る。果学革命以後は意味合いが変化し、魔術は応用果学を意味し、魔法は理論果学を表す様になった。

4−1 西方魔法学院

 西方の魔道学院では魔法は五つの分野に整理統合された。法の神として位置づけられるアスヴァール神族の力を司る神聖秘典学、四大精霊の内の水平流動の二精霊(水と風)を支配し同時に占星術を管轄する精神基底学、混沌の神とされるバール=ディローナ神族の力を利用する暗黒導引学、残った上下運動の二精霊(土と火)を管轄し錬金術を包括する混沌探求学、そして生命哲学である練精学である。

4−2 東方五行道

 東方でもほぼ類似した五つの機軸が発生していた。すなわち五行道である。但し、東方では西方のような分類ではなく、相互作用を重要視していた。五行はそれぞれが相生と呼ばれる生成の連鎖と、相克と呼ばれる破壊の連鎖によって関連づけられている。よって、東方ではどれか一つを専門として研究するのではなく、相互に関連づけながら学んでゆく。

4−3 教会祭祀

 教会とは一神教の組織であり、特に断りのない時にはジェード教会(こちらの世界におけるキリスト教会)を意味する。

 史実との最大の相違は預言者ジェード(イエス)が神の子として生まれたという神格生誕説が公会議によって否定された事である。つまりジェードは人として生まれその後に神の子としての属性を得た事になる。

 その後のキリスト論争はすべて封殺され、代わりにその聖化のプロセスを探求する修道会学派の探求が活性化される。同時に魔道学院出身の修道士達によって教会祭祀の密教化が進行する。

§5 魔法産業革命(ML9)

 東西を包括して誕生した大陸帝国の誕生により、東西魔法文明が相互に影響し合う時代を迎えると、史実で言う文芸復興から科学革命、産業革命までが相互に絡み合いながら並行して進行する。この時代を魔法産業革命、もしくは単に魔法革命と呼ぶ。

5−1 統合力界論

 西方五大分野論や東方五行道をニュートン力学とすれば、東西魔法文明の融合によって生まれた統合力界論はアインシュタインの相対性理論に相当する。力界論の発生は東西魔法理論の相関研究にあったのだが、それが次第に化け物のような膨大な理論体系を生じさせた。理論の全貌を理解している者は魔道師の中でもほんの数人しかいないと言われる。

5−2 錬成学

 西方で探求された錬金術と東方で研鑽された神仙術とが融合して誕生した果学(=魔法学)の一分野である。医学・生物学・化学・量子力学までを包括している。生命子と物質の相互変換を実現して、魔法産業革命の中核を担う。

5−3 宿数道

 東西で別個に発達した占星術を融合し、合理的な未来予測システムとして体系化された物である。易の二元論に基づく算術装置や風水の考え方を利用した環境工学までを網羅する。 

 関連稿・因果万象学

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