魔法世界の資本論

§0 魔法世界の農業

 魔術と産業の相関を考える取っかかりとして、農業は最適であろう。魔術の発生を考えれば、その主用途はまず食料の確保であったと思われるからである。狩猟採取期に於いては、如何にして多くの獲物を捕れるか、また見つけた植物が食用に耐えるか(そこから医術が生じる)が、まず研究された。そして農耕牧畜といった食料の生産が開始されると、魔術に掛かる期待はより大きな物になる。魔術が単なる迷信である世界では、知識や経験によって淘汰されて終わりになるが、本稿では一貫して魔術が実際に意味を持つ世界を想定している。

0−1 農耕の誕生

 人類と言うサルの一種は、知恵を得ることで最強の狩猟者となった。食物連鎖の頂点に立った人類であるが、増えすぎた人類は自己淘汰の一種として共食いを始める。

 生存競争に敗れた一団は発祥地たる熱帯を離れ、より過酷な環境で生きることを選択する。新たな生息地である温帯地域は自然に得られる食糧が限られるため、人類は再び雑食に立ち返る。そればかりかそれまで食べられなかったものも様々な方法で食糧として利用する。更に進んで好ましい食糧を再生産する術を身に着ける。これが農耕と牧畜の始まりとなる。

 発祥地に留まった人類は、言うなれば地上最強の捕食者の地位を確立していたが、彼らはやがて文明を作り上げた逃亡者達の再侵略に晒されることとなるのだが、それはまた別の話。

 蛇足だが、あらゆる生物において北方種が最大最強となるが、人類では最も温暖な地域に生まれる種類が何故か強者として存在する。しかし、これはその発祥を考えれば当然のことだった。要するにアフリカに暮らす人々は最初期の生存競争で勝ち残ったモノの子孫なのだ。

0−2 農耕文化の伝播と魔法文明の誕生

 食糧生産が主流となった人類も、その中で新たな生存競争が始まった。一部の集団は狩猟本能に立ち返り、他人の生産物を奪う生活を始めたのである。生産物の全てを奪ってしまえば、生産者が居なくなり、やがて略奪者も生きられなくなる。よってこの寄生は程良いバランスで均衡する事になる。

 略奪者は都市を形成し、周囲の生産者から食糧を巻き上げて文明社会を築き上げていく。有る集団が作り上げた農耕技術は、特定の環境下で効果を発揮するモノなので環境に似通った東西方向には適応しやすいが、南北方向への進出は新たな技術開発が必要となる。

 魔法文明はこの拡散に新たな要素を加える。と言うのも魔法世界における農耕は生産効率を意図的に歪めるからである。ある地域を農業に適した環境に保持するために魔術を用いると、その反作用としてその周囲の環境を悪化させる。また魔術による生産効率の増大が起こるため、新たな農耕地の拡大はそれほど必要でなくなる。人口はより集中傾向を強め、その所為で文明の発達は急激に進む。

0−3 疫病との終わらない戦い

 人口集中はいくつかの問題を孕むが、その最大の物が疫病である。人口が疎らであれば、疫病の拡散は起こらず、その終息も早い。だが人口集中が一定レベルを超えると、疫病との共存関係が構築される。新たに生まれた命や、外部から流入する人口によって疫病は絶え間なく宿主を確保出来、人類の方でも免疫の獲得や医学の発達によって疫病による被害を最小限に押さえる術を学ぶことになる。

0−4 文明の衝突と発展

 農耕地の拡大により異なる二つの文明が接触したとき、互いの適合環境を維持しようとして魔術闘争が起こる。同一の作物を用いている場合にはある程度の妥協が可能であろうが、作物が異なる場合、必要とする農耕環境の差が顕著であればその闘争はより熾烈になる。これは同時に豊穣神(大抵は女神)同士の淘汰にも結びつく。

 農耕の発展は作物の魔術的改良と土地や環境の魔術的改変という二つの側面から進む。どちらに重点を置くかによって文明の性格が決まるかも知れない。作物改良が先行した魔法文明(=環境適応型)は同化性が強く、逆に環境操作に主眼を置く魔法文明(=環境操作型)は排他的になるであろう。

 関連稿 PP世界の成り立ちY 魔法圏と文明・魔法世界史§1 魔法文明の誕生 

 次稿・§1 前市場経済

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