魔法圏と文明

 旧大陸には孤立して発展した東方と、互いに影響し合って発展した西方・中央、そしてそのいずれとも接点を持ちながら独自の成立を果たした南洋という3つの魔法文明圏が存在します。

 中央デルタ地帯に文明が発生したのは春分点が蟹座に位置していた頃だと言われます。多産を象徴する蟹座の時代のこの文明は四つの河の辺に同時多発的に発生したと言われます。よってこれを古代四河文明と呼称します。デルタに流れる双河ディクォールとサフラニーク、そしてミシュリアのニエラの大河は今も健在ですが、先ガンダール文明を産んだとされる最後の一本は既に消滅したとされ、その位置も名称も今に伝わっていません。

 一方、東方魔法圏は中央に遅れる事約二千年、双子座の時代に発生しました。それは奇しくも北と南の二つの大河北の黄竜河と南の鳳凰江を母胎としていました。

 互いに無関係に発生した二つの大文明はその発展過程に置いて大きな違いを生じました。最適環境に同時多発的に発生した四河文明は(環境を作物に適合させる)環境操作型の魔法農耕文明を構築しましたが、異なる環境に起因する二つの魔法農耕の融合である東方文明は(作物を環境に適応させる)環境適応型の農耕文明を形成しました。このため四河文明とその係累は排他的傾向にあり、逆に東方文明圏では同化吸収性が高いと言われます。

 早くに発生した中央四河文明は、当然に早くに古代帝国の建設に至りました。非常に完成度が高く、後生のすべての巨大帝国の見本とされるその帝国は、一人の英雄の登場により急速に崩壊します。四河魔法文明はこの新興国ギレイアに吸収されその一都市アルテアの地で体系化されるのです。それが現代もなお魔法研究の最高峰とされるアルテア魔法学院です。

 世界の破壊者としての運命を背負って生まれたエイクザート大王は古代帝国の破壊のみにおのれの全能力を費やし、その再統合は後継者達に譲る事になりました。彼の後継者の一人が、彼の名を課したミシュリアの町エイクザドラに作ったのがかのロゼティオンでした。一般には大図書館と訳されるロゼティオンですが、その実体は高度な情報記憶システムであったようです。パトラモス朝ミシュリア王国が帝国に併合される過程でこのロゼティオンは地上から失われました。

 東方に発生した魔法文明は帝国紀元前百五十年頃の黄華帝国による統一期に至って体系化されたようです。帝国紀元前後、西方帝国と中央デルタに復興したハルスーム王国、東方の古代帝国・華内が大陸に並立する三大帝国時代に、初めて大陸の東西に初めて交通路で繋がり、神秘の東方文明が西方にも漏れ聞こえるようになりました。

 南洋地方はガンダール亜大陸とも呼ばれるように、巨大で孤立した領域でした。古代帝国の完成者ドーリアス大帝も世界の破壊者エイクザート大王もこのガンダールの入り口付近より先へは入り込む事が出来ませんでしたから、この地には旧神族達の失われた古い魔法文明が色濃く残される一種の聖域として発展を遂げました。

 そしてミシュリアの奥地、未踏の暗黒大陸。そしてまだその存在が人類に知られてから五百年しか経っていない神秘の南方大陸。そこには全く異なる概念の魔法文明が育っていたのです。

 関連稿 魔法社会の農業・魔法世界史§1 魔法文明の誕生 

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