世界観比較私論 SF編

 再編中。各編とももう少し量を増やしたいですね。

§1 バーサーカー フレッド・セイバーヘーゲン

 ハヤカワ文庫の翻訳版では長編である一巻「皆殺し軍団」の他、短編集である二巻「赤方偏移の仮面」三巻、「星のオルフェ」と続く。最近、買い逃していた一巻を古本にて入手したので。

 厳密には世界と言うより状況である。太古の文明が敵国を滅ぼすために作った自動破壊兵器が、主の居なくなった状況でも生き続けて、生ある物を根絶やしにしようとして活動し続けている、と言う話。この枠さえ外さなければどんな状況でも書けるので、シェアワールド化、つまり作者以外の「バーサーカー」作品も多数有るらしい。

 二巻で多くのエピソードに登場するヨハン・カールセンはレパントの海戦の指揮官ドン・ファン・デ・アウストリア、そしてその異母兄フェリーペ・ノガラはスペイン王フェリペ二世らしい。初読時は世界史に疎くて全く分からなかったが、ある程度の知識(その多くは塩野女史の小説に依りますが)を持った今改めて読んで見ると、二人の心理的・政治的葛藤が興味深い。

 この対比で行くと、カールセンの部下として登場するミッチェル・スペインはかのスペインの国民的作家セルバンテスに相当します。彼はレパントの海戦に参加して腕を負傷しているし…。こういう元ネタは、知っているとより深く楽しめる。こういう手法はRPGのシナリオ作りに応用できますね。(とこう言う切り口で行くはずだった)

§2 ハロルド・シェイ ディ・キャンプ

 これは単一世界ではない。かと言ってアンバーのような多次元世界ともやや趣が異なる。これは主人公達が物語の世界へ入り込んでその世界のルールに沿って、暴れると言う話である。ただ向かう先があまり日本人に馴染みのない世界ばかりなので、日本の読者には受け入れにくかったのではないかと思うが。日本版を作れば面白そうである。

§3 異界族のヴィクトリア朝 ゲイル・キャリガー

 ヴァンパイアが出てくるのでホラーに分類しようかとも思ったのですが、内容的にはスチームパンク風味なのでこちらに入れます。

 ヘンリー8世の時代に異界族(吸血鬼や人狼そしてゴースト)の存在を容認し、更にその娘エリザベス女王に至ってこの異界族を積極的に利用して世界の覇権を握った大英帝国。それから約300年後のヴィクトリア朝時代のお話。

 歴史改変SFとしてみるならかのディファレンスエンジンをも凌ぐスケールですが、まだ進行中の作品(最終巻がまだ未訳な上、時代を遡った続編も予定)につき単独ページの立ち上げは見送り。ヴァンパイアの起源を探っていくとやはりエジプトにたどり着くのでしょうか。(→ヴァンパイア・クロニクルズ

 合衆国は本国の方針に反発した異界族否定派によって分離独立。イタリアはテンプル騎士団主導による統一。詳細は不明だけどたぶん教皇が元首でしょう。70年代なのでフランスは第三共和制時代、ドイツも統一されているはずだけど記載が有りません。本編の内容には全く影響しませんがマニアとしてはとても気になります。

§4 古太陽系語の世界 C・S・ルイス

 読むまでは単なる異世界ものだと思っていたのですが、いい意味で予想を裏切られました。まあ原題を知っていればそんな誤解も無かったでしょうけど。ファンタジー編に入れようかと思ったけどそれはやはりナルニアの枠でしょう。

 多文化主義に基づく反キリスト教的SFとでも言えばいいのでしょうか。ただ”サイエンス”の観点からは及第点はもらえないでしょう。実際その方面からの批判を受けたようですし。

 第二巻での蜂谷氏による解説。現実から切り離されて創造されたトールキンの”中つ国”と、現実の地続きであるマラカンドラ(あるいはペレランドラ)と言う対比がこの作品を良く表していると思う。

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