魔法と言語

1 魔法と言語

 魔法社会では言語は只の意味伝達装置ではなく力を有します。言霊と言うヤツですね。魔法は人間の様々思念の発露によってその方向性を与えられると定義していますから、(魔法社会学・概論の第二テーゼ)思いを言葉にして発するという行為は既に初歩の魔法と言っても良いでしょう。よって魔法の行使には正しい呪文(スペル)が不可欠です。綴り(スペル)が間違っていたら他人に正しく伝わりませんので。

 但し、実際に魔法が使うには必要な魔力を集める技術も必要です。魔力の放射(呪文の綴り方)は純然たる技術ですので、後天的な学習によって習得出来ますが、この魔力の集中は先天的な魔法親和性です。この親和性を基準として魔力を1)妖力(先天性・自力)、2)験力(後天的・自力)、3)法力(後天的・他力)、4)魔力(先天性・他力)の四つに分類しています。(詳細については魔法原理学を参照)

2 世界と言語

 指輪物語のトールキン氏のように、オリジナルの言語まで作ってしまう例はまれでしょうが、言語というのはファンタジーにとっては一つのテーマと成りうる物だと思います。オリジナルの世界設定(と言っても主軸は現実の模倣ですが)をする際に、中心言語をどうするかは結構考えました。今も確固とした結論が出ているとは言えません。

 西方社会の共通語として想定した帝国語は上級・一般の二種類に分かれます。これは口語文語の区別であると同時に、言語の階級差でもあります。生粋の帝国市民と、属州民上がりの新参者では言語に対する適応にも自ずと差が出てくるでしょうから。

 これを東洋に置き換えれば中心言語である漢語とその周辺の朝鮮語、日本語、ベトナム語等々との対比になります。周辺民族は文化遺産である言語を保持しつつ、漢語の表記文字を取り入れ、そこから独自の文字を作り出すに至りました。この過程で漢字を捨ててしまうと言う選択も有ったでしょうが、漢族の帝国が世界の中心である限り、そこと共通の文字を使用するという利点までは放棄できなかったようです。

 漢字使用の利点の一つに、これを組み合わせて容易に新しい単語を生み出せるという点があります。殊に専門用語に関してはこの特性は極めて有効です。英語やドイツ語で同じ事をやる場合、ラテン語やギリシア語から語源を取って組み合わされるので、専門家でも直ぐに意味が掴めないことがあります。この場合のラテン語やギリシア語が日本の漢字に相当するわけですが、これを一般人が普通に使用している事の利点は非常に大きい物があります。明治の時代に作られた翻訳語は実に素晴らしい物があります。そして漢字が周知であるが故に未知の熟語も容易に意味がとれるわけです。今のように外来語を総て片仮名表記する今のやり方も便利ではありますが、意味が取りにくいですし、当の外国人にも伝わらないと言う欠陥が生じていますね。 

 以前紹介した「銃・病原菌・鉄」の中で、作者が日本が漢字を捨てられなかったのは中国の威光がまだ生きているからだという、間違った結論を書いていますが、(それが皆無とは言えませんが)事実はこの表記法が便利であるからに他なりません。作者が間違った結論に至った理由は、あくまでも想像ですが、仮名が生まれた頃の漢字=男文字・仮名=女文字という言い方を聞きかじった結果ではないかと思います。

 ここから発想した訳ではありませんが、当システムでは真名文字と言う魔法様の文字を設定しました。これは”しんめい”と読み、魔法使いの真の名を表記する事にも用いられます。真名文字として設定したのは原アルファベット(ヘブライ文字とギリシア文字の混合)、漢字、そしてサンスクリット文字の三種類です。これは同時に魔法文化圏の区分をも表すように成っています。

 なお、西方の魔法言語としてラテン語=上級帝国語でなくギリシア語=ギレイア語を想定したのは、実際のギリシア語の難解さへの皮肉(ARTSでもギレイア人は即魔法使いだと思われる)でもありますが、”エルリックサーガ”との差別化を考えたからです。(上位・下位のメルニボネ語があり、下位は一般に用いられるが上位は魔法言語である)更に隠れた魔法語としてヘブライ語=ゼルマン語を設定し、顕教としてのギレニズムと密教としてのゼルマニズムを対置させました。まあ、顕教と言っても一般人にその存在が知られていると言う程度で、皆が魔法を使える訳ではありませんが。

参考文献 言語学諸々

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