魔法社会学・概論
§0 魔法社会に関する客観的考察
魔法社会の第一テーゼ「魔法は高度に発達した科学技術の一種である」
これはクラークの第三法則*1「高度に発展した科学技術は魔法と区別が付かない」をひっくり返した物です。魔法が存在するならば、科学技術と同じように扱う事が出来るかも知れません。未訳のなため未読のエルリックサーガの一遍に主人公が現代社会へ迷い込んでそれを彼の敵である混沌の魔術であると思いこんでどたばたを演じるという作品があるらしいのですが、高度に発達した科学技術というのは実はかなり胡散臭い物です。
*1 クラークの法則
第一法則「どんな分野でもその分野の権威や長老が何かを可能だと言ったらそれはたいてい正しく、不可能だと言ったらたいてい間違っている」
第二法則「可能性の限界を見出すには、その限界を超えて不可能の領域まで追求するしかない」
第三法則「高度に発展した科学技術は魔法と区別が付かない」
魔法社会の第二テーゼ「人間が空想した物はいつか実現する」
これは永井豪氏の漫画「バイオレンスジャック」の登場人物の言葉として登場します。これを突き詰めれば空想を現実化する力こそが魔法(氏は作品中で観念の錬金術と呼称していましたが)であるといえましょう。これは現実社会と魔法的な空想社会との境界線を曖昧にするのに非常に都合がいい概念です。氏は空想を現実化するにはどこか異次元からエネルギーを引っ張ってくる必要が有るとも書いています。このエネルギーを一般によく使われる”マナ”と言う名で呼ぶことにします。これで魔法世界のコンセプトも一段と明確になったと思います。
第二テーゼの補足:重要なのは魔法が作用する根元は人の願いであるという事である。次の第三テーゼとも絡むが、魔法の元は地下資源のように使うと尽きる物ではなく、人の思念から生成される。
魔法社会の第三テーゼ「世界は魔法で満ちているが、濃淡があり通常は感知出来ない」
これは汎世界の原理則であるが、それに関しては別に稿を設けて考察する。
此処で想定する”完全なる魔法社会”とは魔法と科学技術とが明確に分離出来る社会を意味する。魔法という物について定義しておかないと、この後の論議がやりにくいだろう。魔法と言えども、何でも有りという訳ではない。科学が万能でないと同様に、魔法も決して万能ではあり得ないのだから。
魔法というのは混沌の揺らぎから生じる物で、現実世界の法則を著しく歪める。そしてその歪みは必ず反動をもたらす。これは偉大なる魔道師アイザック・ニュートンの定義した第三法則(作用反作用の法則)に明解に記述されている。
この反動は大きな魔法を使うほど大きくなり、時間と共にその影響は拡散していく。基本的に魔法が使用されるたびに、現実社会との乖離が大きくなる。
では魔法を使うとは具体的にはどういう事か。科学的法則を超越した、術者による恣意的な現象の観察と定義する。観察者が一人でいる場合には、只の妄想幻覚で片付けられるが、術者がこれに何らかの意味づけをして再現出来るようになれば、定着し一般的な現象として認知される。これが法則の発見である。
より詳細な説明に入る前に、科学法則の構造について整理して置かなくては成らない。池内了著「化学の考え方・学び方」より抜き出す。但し赤字の部分は記述者による命名である。
1 原理・仮説
原理とは「経験によって明らかに正しいと思われるが、それが正しいと厳密には証明出来ない仮定」で、仮説とは「有る現象を説明するためにあらかじめ立てた仮定」を意味する。
2 法則
A統計則「実験事実を満たす法則」、B表記則「原理を表現し、保存則を満足する法則」、C算出則「原理や法則ABを用いると証明出来る法則」に区分される。
3 保存則
物理状態が変わっても、全体量が一定に保たれている事を主張する法則。
魔法は主にこの統計則に対して作用する。つまり実験結果を大きく歪めてしまうのである。観察者以外の者が認知する事によってこの現象は定着し、一般則へと変化していく。術者=観察者の恣意的要素が大きいため、魔法現象はバラツキが大きく、なかなか安定しない。皮肉な事に、一度安定してしまえばもはやそれは混沌の支配が及ばず、”魔法現象”ではなくなる。世界はこうした法と混沌のせめぎ合いで進化していくのである。
蛇足:以上は今後の論証を進める上での前提条件であって、作者の信仰や信念ではないのでお間違えの無いように。