忍法系譜 その伍 甲賀卍谷
その壱 明智十兵衛*1
美濃国明智庄土岐下野守の一子で、父が斉藤道三に滅ぼされた後、甲賀卍谷で忍法「人蟹」を会得した。
甲賀五十三家の宗家である卍谷であるが、この様に外部からの修行者も受け入れているらしい。伊賀服部家が平氏なの対してこちらは源氏と言うことかも知れない。他にも能登流輪島一族の仏桑寺陣八*2も受け入れている。こちらは元々忍者なので系列だと思われる。
さて、明智十兵衛が会得した人蟹であるが、手でも足でも一ヶ月で生やしてしまうと言う肉体再生術であるが、彼は更に首をも生やすという驚天動地の域に達した。だがその結末は…。
その弐 覇王との抗争
排他的な伊賀国人衆と異なり、甲賀国人衆は外部権力との結びつきに積極的であった。その流れで信長との関係も比較的良好であった。輪島一族からの客人仏桑寺陣八が卍谷で修めた「しゃくし返し」で信長の部将針ヶ谷掃部を葬ったのは例外である。
この術は己の精液を持って胎児を精子と卵に還元してしまうと言うモノであるが、その効果は大人にも及ぶらしい。よりにもよって何でこんな忍法をと思うが、修業の過程でどんな忍法が身に付くかは恐らく選べないのだろう。
この信長との協力関係は思いがけない形で破綻する。信長が甲賀郡五百貫の地を南蛮寺領として寄進した*3のである。甲賀衆はこれに対してゲリラ活動を展開する。
さてこの抵抗運動の旗印となった宗家の甲賀織部は忍法に関しては凡庸であるがこと女色の道に関しては天才であった。彼は抱いた女性を甘美な体に変え、しかも死を厭わぬ心持ちにさせるという天然の技を持っていた。さしずめ「くノ一製造術」と言ったところか。
その参 不戦の誓願*4 (甲賀忍法帖補完より移動・修正)
互いを千年の敵とする甲賀卍谷と伊賀鍔隠れ谷に不戦を誓わせたの初代服部半蔵・石見守正就である。作中に登場する半蔵はその息子には違いないが四代目である。作中に二代目と有るのは明らかな誤記であるが、作者もまさか忍法帖が己の代表作に成るとは想像もしていなかった故であろう。
さて服部家の系譜は以前に別稿で触れたので、ここでは不戦の誓願がいつ頃結ばれたのか検証したい。
伊賀甲賀の忍者一族、ほとんどすべて服部家の支配下にあるのに、ただ、たがいにあいいれぬばかりに、手をたずさえて世に出ることを拒否し、ふかく山国にこもっているという忍法の二家。
要するに服部家には従うが、互いに協力するのは厭と言うことである。とすれば、伊賀甲賀が徳川家に随臣した時期を調べればいいことになる。伊賀組の創設が永禄年間で甲賀組が元亀年間であることが後発の作品から確認されている。→公儀忍び組の誕生
さてここからは想像になる。甲賀組の創設が検討されたのは恐らく家康が近江へ出陣した姉川の合戦の頃であろう。これが元亀起源の根拠である。しかし甲賀者が実際に徳川家に入ったのは恐らく天正年間にずれ込むと思われる。なぜならば、「信玄忍法帖」に登場した伊賀者達がその奇怪な忍法から鍔隠れ出身者と考えられるからである。(その内容については服部党の稿で紹介済み)
但し、この時に投入された者は真田源五郎主従にことごとく敗れ去った事から見て、恐らく雑兵レベルであったのであろう。鍔隠れ谷の者達を使う限り、甲賀組は作れないと見た半蔵は鍔隠れ谷と卍谷に不戦を誓わせて在野に留めることにした。言い換えれば半蔵は質より量を選択したと言うことになるだろう。
甲賀十人衆の中でも特に如月左衛門の変装術(その便利さゆえに)はその後も甲賀流に受け継がれている。本家左衛門の術は自力解除可能(一度は朧の「破幻の瞳」で破られている)だが、後継者達(真昼狂念*5や仁木弾正*6)は元に戻るためにも顔型が必要なようだ。
その肆 八犬士
三代将軍の座を巡る伊賀甲賀の忍法勝負は竹千代方に配された伊賀の勝ちとなった。これにより伊賀鍔隠れ谷=公儀方、甲賀卍谷=反公儀方という図式が確立する。それが、何故か幕末*7にいたって逆転しているのだが…。
この戦いについては別稿を参照して貰うとして、これと前後して、安房里見家の次代の八犬士たち*8が卍谷へ修行に訪れている。彼らは不真面目であったため修めた忍法はやや中途半端である。忍法と呼べるのは犬飼現八の「蔭武者」(女の胎内に男根の皮一枚を残して快楽で支配する)、犬村大角の「肉彫り」(整形手術。但し一人に対して生涯一度きり)、犬江親兵衛の「地屏風」(壁を倒し大地を立てる幻術)ぐらいであろう。
特筆すべきは、親兵衛に忍法を教えたというお蛍様であろう。あの時に息が毒に変わるというのは陽炎と同じ能力であり血縁(恐らく実母)に違いあるまい。何故かこれと同じ能力をもつくノ一*9が伊賀にも現れている。
*1 忍者明智十兵衛
*2 胎の忍法帖
*3 甲賀南蛮寺領
*4 甲賀忍法帖
*5 外道忍法帖
*6 忍者仁木弾正
*7 秘偽書争奪
*8 忍法八犬伝
*9 かまきり試合