2 十三角関係 名探偵編

 山風ミステリー唯一のシリーズ探偵、荊木歓喜モノ一本にまとめた物。

 表題作の「十三角関係」は同探偵の唯一の長編である。これ以外の短編はすべて初読だがいずれもレベルが高いと思う。長編の十三画関係が評価B、それ以外の短編を集めた短編集「落日殺人事件」(但し「怪人七面相」を除く)が評価Cとなっている。

 第二版で中編作「帰去来殺人事件」が抜けたが、第四版より復活。抜けている二版・三版については四版との交換可能となった。

 (推定事件年代。詳細は荊木歓喜の事件帖へ)

「チンプン館殺人事件」(昭和23年)

 シリーズ第一作。医者であり探偵であるという荊木歓喜を見て、もし氏が作家に成らずに医者になっていたらと想像させる。

「抱擁殺人」(昭和24年)

 貌を整形されて笑顔しか作れない少年というのは山風作品によく出てきます。異形という点では後の忍者達にも通じるのかも。

「西条家の通り魔」(昭和24年)

 母性愛に潜む鬼を指摘して、山風作品では珍しく女性に対して厳しい。

「女狩」(昭和29年)

 入院中の歓喜探偵が遭遇した事件。もっとも本格っぽい作品だが、その動機となるとやはり山風調である。

「お女郎村」(昭和29年)

 女傑の企てた復讐の顛末。中でもっとも後味の悪い作品かも。

「怪盗七面相」(昭和26年)

 複数作家による連作の最終回。纏めて読むにはこちら

「落日殺人事件」(昭和28年)

 題名がすべてを物語る。

「帰去来殺人事件」(昭和25年)

 上にも書いたが、この作品が抜けると単に本の厚みが減るという以上に、この本の価値が半減すると思う。本格物という作品の性格上、内容については多くは触れないが、歓喜探偵が犯人を指摘する行は秀逸である。これが駄目なら横溝正史の「獄門島」も駄目じゃん、と言えばミステリーマニアなら恐らく察しが付くはず。

「十三角関係」(昭和30年)

 歓喜先生唯一の長編。(共作の「悪霊の群」を除いてだが)

 トリックはやや卑怯くさいが、殺人に至る動機が如何にも山風作品らしい。やはりこの人は誰が(Who done it)やどうやって(How done it)では無く、何故(Why done it)の探偵作家なのだろう。

 これも帰去来と並んで、今だと使えない(書けない)作品だろう。

解説・森村誠一

戻る