魔法世界の資本論

§5 都市と農村

5−0 都市の発生

 都市は自前の食糧生産手段を持たず、故に単独では存在し得ない。都市は農村に寄生する形で形成され拡張していく。都市と文明は同義語であり、文明は文明そのものが都市を維持する為のシステムであると言える。それは本稿で想定する魔法文明であっても同様である。

5−1 古代都市と中世都市

 古代には生産と消費が一個の都市とその衛生地域で完結していた。これが都市国家と呼ばれるモノである。都市国家の力関係がやがて上下関係を生むようになるとこれが領土国家として再編される。都市は街道によって結ばれ遠方の産物を利用できるようになる。やがて都市単体での自給自足は崩れ、いわば都市単位での分業が進む。

 古代帝国が崩壊すると各都市は生き残りを掛けて離合集散を始める。やがて諸都市間の緩やかな結びつきの中で新王国が発生し、中世的な封建制が成立する。

5−2 都市と農村

 領土国家の時代には農地に防衛拠点は必要がない。この時代に生産のみの共同体が誕生する。それを農村と呼ぶ。農村は軍事的に都市に帰属し、都市は農村の生産に依存する。王は諸侯を束ねるが、諸侯は生産拠点を押さえて力を蓄えていく。中央(王権)と地方(諸侯)との綱引きは中世を通じて続く。一般には再び中央集権が達成された社会を近世と呼ぶ様である。

 都市の中核は農耕民に寄生する支配層であり、その余剰が市民=商工業者達を潤す。都市人口が大きく成りすぎると農耕民達との均衡が崩れるが、都市は主に疫病を原因とする高死亡率と男女不均衡に基因する低出生率の二重苦を抱え、常に人口減少傾向にある。対して農村では総じて余剰人口を生み出して都市を支える。

5−3 農業技術の発達と魔術文明

 水が有りすぎると森になり、足りないと植物が育たない。農耕は森林と砂漠の間の地域で発生した。農耕は初めは天水(つまり天然の雨水)のみに頼っていたが、大規模な治水・灌漑技術を手に入れる事で爆発的な発展を遂げた。

 メソポタミアで盛んだった散水による灌漑は長期間に渡ると塩害を引き起こし農地として機能しなくなる。またナイルの増水を利用した灌漑は気候の循環により定期的に飢饉を招いていた。

 対して、ギリシア・ローマと言った地中海沿岸地域では灌漑に使える大河が無く、天水による個人レベルの農耕が行われていた。集約的なオリエントと異なるグレコローマンスタイル=市民思想は天水農業から生み出された。

 しかし此処に魔法の要素を加えるとどうなるか。農業生産力を左右する天候、殊に降雨量を有る程度まで制御出来るとしたら、文明の発展条件は大きく異なる事になる。

 塩害の理由は余分な水が乾期に地中から塩分を吸い上げてしまう事にある。だから余計に水をまかない天水農業では起こりにくいのだが、要するに排水を良くして地下水の上昇を抑えられればよいのである。農耕魔術はこういった水分調整までも可能にするであろう。

5−4 農耕魔術社会における都市の役割

 環境改変型の魔術文明においては、都市は農耕結界を支える魔力の根源であり、同時に防衛拠点でもある。一つの都市の崩壊はそれが支える農耕結界の崩壊を引き起こす。古代帝国の崩壊はこうした農耕結界の寸断を生み出す。

 さて一方環境適応型の魔術文明ではどうであろうか。地方毎のばらつきが大きくなり、必然的に流通が促進されるであろう。

 と言う訳で次回は重農主義経済と重商主義経済の違いについて考えてみたい。

 次稿・§6 重農主義経済と重商主義経済

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