迷路の花嫁

 作中に年代を特定させるデータがほとんど無い上に、初出が今なお不明な唯一の作品。

 単行本が三十年刊なので、事件はそれ以前、さらにこの時の金田一が松月に居住しいていることが読みとれる。よって松月から緑が丘荘への移転をいつとするかによって年代が絞り込まれることになる。昭和4年の滝川家の一件が25年前となっているので素直に読めば昭和29年になるが、緑ヶ丘への移転時期が当初の32年から29年に遡ってしまったために28年と考えるしかない。

 事件そのものは六月から十月までと長期に渡るのだが、金田一の存在感は非常に希薄であり、別の事件を抱えている気配(28年と考えれば法眼家の事件と判る)もある。依頼を受けているにも関わらず、依頼人にヒントを与えて調査をさせたりしている。八月末の所轄の捜査会議にもその姿は見えず、警察との接触はすべて終わった後。

 

 松原浩三 建部多聞 滝川恭子

昭和4年

 滝川直衛、小間使いの高杉菊江との間に娘をもうけるが、本家の婿養子になることが決まり別れる。娘は滝川家の仲介で養女にやられる。

 

昭和20年

8月2日 八王子大空襲。横山夏子、養父母を失い、養父の遠縁大西家に引き取られる。

昭和23年

 父が死亡し、その遺産の一部を得る。これを元手に派手に投資を行い資本を数倍に増やす。

昭和26年

秋 横山夏子を引き取って、宇賀神薬子に預ける。

 妻を亡くした岩崎氏、田川の女将と知り合い再婚を考える。

昭和27年

春 滝川直衛の後妻貞子、薬の飲み方を誤って死亡。直衛、宇賀神薬子の後援を始める。

夏 宇賀神薬子、赤坂の建部邸を出て野方に居を構える。

7月某日 岩崎氏に三百万を融資しその苦境を救う。

昭和28年

5月26日 宇賀神薬子殺害。宇賀神薬子を訪ね、死体を発見。凶器を持って逃走する途中で浩三と行き会う。巡回中の本田巡査とともに死体の第一発見者となる。

6月4日(恭子逮捕の二日前) 現場から血染めの手袋が見つかる。(事件当日浩三が拾ったモノ)

6月6日(事件から10日後) 植村欣之助との結婚式当日。野方署の刑事の訪問により式は中止となり、そのまま署へ同行。(身柄の拘束まではされなかった模様)本堂千代吉と恭子の面通し。その足で現場の宇賀神家へ向かう。

 宇賀神家へ入るところを浩三に見られる。落ち葉だまりの穴から藤本すみ江の死体を発見する。奈津女と恭子の相似を指摘。等々力警部の疑惑を呼ぶ。

 警察に尋問される。奈津女の素性について答える。

6月13日(恭子逮捕が報道されてから5、6日後) 新宿西口で千代吉と面談。その後、小田急のの出入り口で宇賀神奈津女と合流し鶴巻温泉へ小旅行。金田一耕助これを追尾。

 植村欣之助、金田一の教唆で本堂千代吉を尾行。

14日(翌日) 部屋を訪ねてきた金田一と面談。彼の忠告に従い東京へ戻る。

7月4日(奈津女失踪から20日) 千代吉、建部邸前で瑞枝と知り合う。建部邸を訪問し、二日後の密会を約束する。

6日(二日後) 奈津女を連れて滝川呉服店を訪れる。

 千代吉が瑞枝より預かった手紙を見て建部と会わずに帰宅。恭子のタクシーと入れ替わりで料亭田川へ入る。

 千代田公園でたたずんでいるところで欣之助に声を掛けられる。(千代吉をマークしていて彼女を見かけた)

 岩崎氏と面談。田川の女将と手切れ。岩崎氏より三百万の返済を受ける。岩崎氏と女将に奈津女を紹介する。

8月26日 野方署で捜査会議。

9月某日 瑞枝、山村多恵子を見舞う。その帰路、千代吉を訪ねる。浩三、千代吉を訪問。田川の女将の話をして、瑞枝にも希望を持てと励ます。

10月某日(浩三訪問の数日前) 山村多恵子の夫の死を知り、ご祈祷を施す。

10月半ば レッドフラワーに山村多恵子を訪ね、病床の夫の死を知る。金田一耕助と再会。

 建部邸で出火。瑞枝、これに乗じて手提げ金庫を持ち出す。千代吉に金庫の中身の始末を相談。瑞枝を追って千代吉達とすれ違う。(千代吉を嗅ぎつけたのか、その先にある宇賀神の家に向かう途中だったかは不明)

 千代吉の訪問を受ける。千代吉と瑞枝の結婚を祝福。欣之助が来訪。

 滝川家に電話を掛けて金策を依頼。持ち帰って隠してあった凶器を欣之助に見つけられる。欣之助から問題の封筒を受け取る。滝川邸を訪問するも、欣之助に追い返される。

 金田一、欣之助から凶器を受け取る。

 千代吉一家を東京駅で見送る。その帰り道、暴漢(建部多聞)に襲われて昏倒。(午後9時頃)

翌日 山村多恵子を訪ねる。彼女に硫酸を掛けられて失明。多恵子はお茶の水の橋から身を投げて死亡。

数日後 事件の概要を金田一に告白して死去。

年譜→昭和28年