魔獣進化論
§2 魔獣生物学
2−1 魔獣の発生学
まず、この項で扱う魔獣とは具体的に如何なる物なのかを定義しておく。魔獣とは現行の生物学では論理的に存在し得ない生物を指す。あるいは、現行の発生学では誕生し得ない生物と言い換えても良い。
具体的な例には三節足脊椎動物が挙げられる。魚類に始まって哺乳類に至る脊椎動物は全て二節足(つまり足が四本)である。解決策は二通りある。この世界では三節足が基本であって二節足は退化である(三節足起源説)。二節足が基本だがある条件によって三節足が発生しうる(三節足派生説)。二節足と三節足が共に発生し、相互に淘汰を起こして進化してきた(三節足共存説)。
此処では最も魔法っぽいと言う極めて主観的な理由から三節足生物派生説を中心理念として話を進めたいと思う。
2−2 増足進化
魔獣の足は何故増えたのか。魔法世界的な解釈では人々の夢がそこに投影されたからである。創代(歴史時代以前)の人類の想像力、あるいは恐怖がこれらの魔獣を実体化させた。魔法が技術的に確立され始める古代人にはもはやその様な無秩序な想像(=創造)力は失われている。知恵を身につけた彼らはその代償として豊かな想像力に自ら限界点を設けてしまったのである。
魔法文化が発達すると、技術的にこれらの魔獣を生み出せるようになった。しかし、これら新造魔獣達には繁殖能力はない。
2−21 三節足生物の実例
三節足生物は創代の人類が生み出した魔法的生物である。その代表例として二種類の飛行型魔獣を取り上げる。(関連稿・魔法世界の戦争論3 §5 飛行生物の軍事的効用)
*1 ペガサス
ペガサスとはギリシア神話に描かれた翼ある馬である。もしかすると特定の有翼馬に付けられた愛称という可能性もあるが、此処では主全体を示す言葉として用いたい。
さてペガサスがどうやって空を飛ぶかである。羽ばたいて跳ぶような乗り物では乗り心地が悪すぎるので翼は基本的には滑空に使用する。よって人まで乗せて空を飛ぶにはどれくらい大きな翼が必要かと言う計算は行わない。当然、魔法力を用いるのである。飛行方法は足下の空気を固化させる手法をとる。これだと空中を駆けると言うイメージが発生して格好が良い。
彼らはその飛行原理から垂直離着陸が可能である。真上にジャンプして、空中で足を曲げた状態でそこに空気の足場を作るり更に飛び上がるのである。
*2 グリフォン
前稿でも触れたが、身体の前半分が鷲、後ろ半分が獅子という合成生物である。鳥から派生した彼らは馬に羽根を突けただけのペガサスと違って翼を飛行に用いる。彼らは羽ばたくと言う行為によって魔力を発生させて自ら風を呼び込む事が出来る。魔力を動力源として飛ぶ飛行機と言うイメージであろう。
離陸の際には1)前足の爪を地面に突き立てて固定し羽ばたきで前方への出力を増し、2)爪を外し同時に後ろ足で駆けて加速を掛け、3)翼を水平に戻して揚力を発生させて飛び上がる。空母から飛び立つ艦載機をイメージして欲しい。
2−3 巨大化
動物の大きさは時間と関係する。哺乳類では時間は体重の四乗根に比例するらしい。
動物が巨大化すれば体温の恒常性が保ちやすくなる。体温が一定であると体内の化学反応速度が一定になるから安定した活動が出来る。また、体温を高く保つ事で早い動きが可能になる。但し高い体温を保つためには高いエネルギー代価を要するが、これは体が大きいほど維持コストが小さくて済む。またサイズが大きいほど、乾燥や飢餓と言った悪環境に絶える力も大きい。また長生きである事から知恵も発達しやすい。
しかし良い事ずくめではない。大きな生物は安定性が高いため環境の急激な変化に対応しきれない。恐竜の滅亡がよい例であろう。大きい動物が襲われにくいのに対し、小さな動物では小回りがきいて物陰に隠れやすいと言う利点がある。小さな動物は一生のサイクルが短い事を利用して周期的な悪環境を(卵などの形態を取って)乗り切る事が出来る。小さな生物は個としての生存率では劣っても種としての生存率が悪い訳ではない。
さて人為的な巨大化操作について考察してみよう。
家畜として飼育される生物は自然界とは異なる条件が付随する。農業作物や家畜動物は種としての生存に関しては人間に依存することで確保される。これを共生と見るか自然破壊と見るかは見解の分れるところであろう。
食肉としての家畜は成長率と成長効率が問題になる。体重と時間の関係から、早く育てるには小さい動物をたくさん飼う方が実は効率がよい。多くの肉を得たいなら食べた食料の2%しか肉として増えない恒温動物より、20%が肉に代わる変温動物の方が10倍も効率がよい。
巨大化による利益があるとすれば軍事的な価値と言う事になるのであろう。
2−4 巨大昆虫の可能性 04/06/12(旧稿の一部を推敲復活)
参考文献として使用した「ゾウの時間ネズミの時間」には「種類の多さから言えば、地球を支配しているのは昆虫の仲間である。」と書かれている。地球に存在する動物の種類の内、実に70%が昆虫で占められているのである。万物の霊長を自称する我々人類が、こんな昆虫と共存出来ているのは何故かと言えば、彼らが圧倒的に小さいからだと言って良い。だがそんな昆虫が巨大化したら自然体系にどんな影響をもたらすであろうか。
古参の(赤い本を知っている)D&Dプレイヤーなら巨大な芋虫=キャリオンクローラーに(PCを)殺された経験があるはずだ。付属シナリオに登場するあれは1レベルで相手するには明らかにきつすぎるモンスターなのだが、あんな物が実際にいたらとんでも無いことになることは十分に予想出来る。芋虫である以上、何かの幼虫だと思うのだが、それ以上の説明は無かったと思う。他にも、良くある例として巨大蜂とか、巨大蜘蛛とかはコンピューターRPGでもよく見掛ける。
昆虫が有る大きさ以上に成れないのはその体の機構に問題があるのだが、その点は参考文献を読んで貰いたい。此処で問題にしたいのは、そのような巨大昆虫が如何にしてその生態系を維持するかと言う点である。
草を食べる昆虫が巨大化したら、その旺盛な食欲で辺りの植物がアッという間に食べ尽くされてしまうであろう。但しその点では参考文献にヒント(?)が隠されている。つまり通常には存在しない、生きた植物のセルロースを消化出来る特殊な酵素(セルラーゼ)を作り出せればいい。しかしながらこれは下手すると地上の緑を破壊し尽くす最終兵器に成りかねないので、取り扱いには細心の注意が必要であるが。
さて巨大草食昆虫が誕生すれば、次は肉食昆虫である。彼らが巨大化すれば、その捕食対象は自然と昆虫に留まらなくなるであろう。それは人類にとっても新たな驚異となる。その一方で、彼らが新たな蛋白源として注目を集める事であろう。現実のように共存するのではなく、生存圏を切り離した棲み分けが試みられるで有ろう。そして現実より過酷な自然環境故に、自然と敬虔さも増し、宗教的な価値観も必然的に重要視されるであろう。
おや何となくファンタジー世界っぽい。