魔獣進化論

§1 魔獣創世

 魔獣は如何にして生まれるか。魔獣の起源の一つは自然崇拝の一形態であるトーテムにあると考える。ではトーテムとは何か。如何にその定義を紹介する。

「ある人間的集団(通常、血縁的な)の起源・繁栄・組織・あるいはそのいずれかと特別な関係をもつと見なされる動植物。またはその他の自然現象」(世界宗教事典・青土社より)

 そこから魔獣の起源を3種類に分ける。1)トーテムの融合過程で生まれた合成生物。2)同様にトーテムが擬人化した人型魔獣、3)魔獣同士の融合・掛け合わせによって派生した新世代の魔獣、である。

1−1 トーテムの合成・変形

 その代表例と思われるのが中国のである。龍の起源は元来は揚子江のワニをモデルにしていたと考えられてきたが、安田喜憲著「龍の文明 太陽の文明」には東北部の畑作・牧畜地帯で誕生した合成獣ではないかという仮説が唱えられている。すなわち、「中国北部の遼寧省から内モンゴルの自治区にかけて」「森と草原の狭間に生息する猪や鹿、それに森の中を流れる川に住む魚そして草原の馬をモデルに」「七千年前に」誕生していた。つまり龍とは畑作・牧畜民の合成トーテムであると言うものである。

 これに対して、西洋のドラゴンはほぼ間違いなく蛇の変形であろう。旧約聖書においてイブをそそのかして知恵のみを食べさせたのが蛇であり、新約聖書において神の敵となったサタンが古き蛇と呼ばれるのがその証である。ではこの場合の蛇とは具体的には何を意味するのか。やはり大河文明の象徴ではないか。バビロン虜囚に出エジプトとユダヤ人にとって大河文明とそれを象徴する蛇は憎んでも余りある敵であっただろう。

 キメラもしくはキマイラというのはドラゴンと獅子と山羊の三つの頭を持つ合成生物である。これは合成生物の代表例となり、生物学における学術用語にも成っている。これはキメラの生息地とされるリュキアス山が関係しているらしい。火山であったリュキアス山には麓に大蛇が、中腹には山羊がそして山頂には獅子が住んでいたとされる。つまりキメラはこの山の擬獣化である。これは自然現象としてのトーテムとも考えられる。

1−2 人型魔獣

 迷宮に住み牛頭を持つ怪物・ミノタウロスはミノス王妃が神の呪いによって牛と交わって生まれた。これはミノス王家が牛をトーテムとしていた名残ではないだろうか。この様に牛を神と見なす民族は世界中に多い。その代表例がインドであろう。

 無数の蛇を頭髪として生やし、視線を合わせると相手を石に変えてしまうメデューサはアテナ女神の怒りによって姿を変えられたとされているが、その前身はギリシアの先住民族の崇めていた女神であった。彼女は元々はポセイドンの妻であったが、神話の再構築によってモンスターに身をやつしてしまった。夫の方も海神として新たな神話大系に組み込まれているが、元々は馬の神であったらしい。恐らく移動手段として馬から船への移行が属性の変化をもたらしたのであろう。

 鳥の体と女性顔をもつハーピーもその前身は歴とした神の一族であった。下半身が蛇になってしまったリビアの女王ラミアの例を見ても、獣と融合して魔獣と化すのは女性が多いように思える。

1−3 新世代の魔獣

 前半分が鷲で後ろ半分が獅子という合成生物グリフォンは、これ自体は起源は不明だが、恐らく第一世代であろうが、これと馬を掛け合わせて生まれるのが第二世代に相当するヒポグリフである。これはグリフォンのライオン部分がそのまま馬に置き換わったものと考えて良い。

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