魔法世界の戦争論3

兵器論1 飛行生物の軍事的効用

§1 飛行騎獣の概要

01 ペガサス 英雄の騎馬

 馬は歴史上最も重要な軍需品の一つである。その馬が空を飛べたとしたら、その軍事的価値は計り知れない。魔法社会で有れば、ペガサスの大軍による飛行騎兵団なんて言うのも考え得るが、あまりに軍事的な効果が高すぎるので、没。天を行く馬は極めて希にしか生まれない物とする。

 ペガサスは通常の馬より利口で、且つ気位も高く、乗り手を選ぶ。よってペガサスは英雄や高貴な人物しか乗せない(物とする)。戦場に置いて、上空から指揮を執れるなら、その戦術的効果は極めて高い。また急降下攻撃による敵指揮官への直接攻撃という手段もあり得る。真っ先に考えたのはアレキサンダー大王がペガサスに乗ってダリウスをうち倒すと言う設定である。

 歴史的展望 アレクサンダー大王はペガサスに騎乗して、ダリウスU世の大軍を撃ち破る。大王とその騎馬の威力で大帝国を築いたマケドニアは大王の死後、必然的に維持が不可能となる。ペガサスは誇り高いため特定の人間しか乗せないのである。

02 グリフォン 量産可能な空中兵団

 知らない人のために一応説明をすると、グリフォンとは、前半分が鷲で後ろ半分が獅子という合成生物である。ペガサスの時も考えたのだが、この様な架空飛行生物は六対の足を持つ事に成ってしまう。つまり通常の生物と異なる進化系を有する事になってしまう。これは非常に面倒くさい。魔法による合成でも良いんだが、それだと野生のグリフォンが設定しにくいので。

 軍事的利用法としては、そのまま飼い慣らすのではなく、雌馬と混血させて、ヒポグリフを作って使うと言う設定を考えている。一代混血なので、大兵団の形成は難しい。飛行方法はおおむねペガサスと同様である。

 歴史的展望 ドラゴンの項目と関連するのだが、元は東方に生息していたグリフォンはドラゴンの駆逐された間隙を縫ってローマ帝国領内へと移動を開始する。山岳部にしか住めないグリフォンは、帝国との共存が可能であった。

03 ドラゴン 空の覇権を争う敵役

 形状についての検討は略す。ドラゴンに関しては軍事的利用と言うより、むしろ主に敵役として位置づけておきたい。彼らの存在が魔法世界における空軍の発生を促すであろう。ドラゴンの生息地では、人は彼らにとって手軽な餌にしか成らない。しかし巨大国家が誕生すると、集団戦闘によりドラゴンを駆逐する機運が生まれる。

 歴史的展望 ガリア地方に広く生息していたドラゴンは、カエサルにより駆逐された。カエサルはブリテン島にも遠征したが、知恵有るドラゴン族との交渉の末、島をドラゴンたちの生息地として残す事となり、ブリテン島のローマ化はひとまず止まる。

 ペガサスおよびグリフォンの飛行形態については魔獣進化論 §2 魔獣生物学を参照。

§2 飛行騎獣と制空権

 人を乗せて空を飛ぶ事の出来る家畜を特に飛行騎獣と呼ぶ事にする。これには別稿で見たようにペガサス型とグリフォン型がある。天空を駆けるペガサス型では空中静止が可能だが、推力から揚力を生み出すグリフォン型ではそれは不可能である。

 いずれの飛行法にせよ、飛行騎獣は地上を駆ける騎獣のおよそ十倍の速度を持つと想定する。但しこれはあくまでも最高速であって、巡航速度はもっと遅いと考えられる。中に乗る飛行機械と違って飛行騎獣では上に乗る為に風圧や気圧を考慮しなければ成らない。高速で長時間飛べば落下の危険性が増すし、弓矢が届かないほどの高空に長時間居れば騎乗者が酸欠を起こすで有ろう。

2−1 飛行騎獣部隊の運用

 爆撃による支援攻撃は不可能ではないが難しい。並の飛行騎獣ではそもそも人を乗せるだけでもかなりの負担なので、爆撃用の余分な物資を持って上がる事が出来ないのである。高空からの弓矢攻撃は多少の威力増加はあるだろうがその分命中率が落ちると思われる。落下物は原理的には加速し続ける筈だが、速度が増すと空気抵抗も増すので最高速が規制されてしまう。弓矢は充分な落下加速を得るには軽すぎるのである。

 軽量で威力が出せる火薬や爆薬があれば話は別であるが。考えられる最も強力な攻撃方法は、騎獣自体を爆弾と考える事、すなわち急降下突撃であろう。但しこれは相当に恐怖感を伴うので、誰にでも行える物ではない。そもそも飛行騎獣に乗る事自体がかなり勇気の要る事なのであるから。

 通信手段としては魔法による遠隔通話と言うより便利な方法が存在するために無用である。但し人の乗らない伝書鳩のような物を想定してもう少し大型の猛禽類を利用すると言う方策は考えられる。斥候偵察部隊としてならかなり有効であろう。

 以上の事から、飛行騎獣の軍事的価値はその行軍速度に集約される。進軍速度が速すぎて恐らく物資の補給も間に合わないし、人を乗せるだけでも手一杯の飛行騎獣では物資運搬の手段としては計算出来ない。よって飛行騎獣の存在は陸軍国家の征服地拡大には直結しない。現代戦でも航空部隊による空爆では敵国を降伏させる事は出来ず、やはり陸軍が自分の足で敵地を進んでいく必要がある。

 また軍事的優位にある陸軍国家が敢えて危険な飛行騎獣の軍事的利用を試みるとは思えない。飛行騎獣部隊は劣勢な海軍国家によって、海兵隊、もしくは落下傘部隊的な運用をされると考えられる。陸上に比べて大きな許容量を持つ海上輸送もこれを後押しするであろう。

 騎獣による空中戦はまず起こりえない。空中で静止出来るペガサス型で有れば、地上のような白兵戦も可能であろうが、これを空中戦と読んで良い物であろうか。飛び続けないと空中に居られないグリフォン型はその羽が邪魔になるので白兵戦は不可能である。

 空中を高速移動しながら撃ち合うには弓矢では不足で、やはり銃器の登場を待たねば成るまい。結局、火薬兵器の存在無しに飛行兵力が存在しても、さほどの軍事的効果は得られないと言う事であろう。

 残る可能性は騎獣に魔法使いを乗せて魔法による砲撃戦を行わせる事であるが、魔法使い自体の軍事コストが高い上に、飛行騎獣のコストまでも併せるとなると一体の運用コストがあまりに高すぎる。

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