忍法系譜 その拾漆 パロディモノ

 16(達忍=ヒーローの語呂)と18(くノ一術総覧=十八禁)は構成の過程で決めていたので17は最初は欠番になる筈でした。しかし15まで埋まってしまったので空けておくのも気持ち悪いので。

その壱 平井歩左衛門*1

 伊賀が生んだ二代文学家の時を越えた競演。一人は芭蕉こと松尾桃青、そしてもう一人は山風の師匠である江戸川乱歩その祖先に当たる平井友益。友益は作中では歩左衛門と名乗っているが、姉のおらんさまと合わせて乱歩となる。

 さて、この友益氏だが、姉の希望で鍼医に弟子入りして居るのだが、かの乱歩の祖先が医者で有ったとすれば非常に面白い暗合である。山田風太郎も代々藩の医師で彼自身が医学部出身であるからだ。彼が医者に成らずに小説家となったのは後生にとって慶賀であるが、その彼が師の出身地である伊賀に由来する忍者の小説を書くに至る辺りは因果の糸の巧妙さに感服するばかりである。しかも両者は三十六年を隔てて同じ日に亡くなったのである。まさか、狙った訳でもあるまいに。

 ラストで作者からの挑戦(この辺に元ミステリー作家としての片鱗が見られる)があるが、私は乱歩に余り詳しくないので判る範囲で挙げておく。

 まず題名の「伊賀の散歩者」が「屋根裏の散歩者」から来ていることはすぐに判る。彼を監視する無足人の風忍斎が風太郎本人の投影で、これを命じた河島仲之丞という目付がミステリ評論家の中川河太郎氏であることは氏の解説が付いている角川文庫版でも明らかである。

その弐 果心堂とお狛*2

 強さは十分ながら悲恋という条件が満たされずに達忍からは漏れてしまった果心堂。しかも伊賀女を妻にしているために悲恋の構造からも逸脱している。その忍術もあまりに馬鹿馬鹿しいので、系統分類表にも記載されず。行き場所のない二人である。

 さて、この話は随所にパロディが散りばめられていて読み解くのが一苦労だが、見つけたネタを一つだけ。

 お狛が名を挙げた「長屋のお師匠さま亀井勝一斎」→亀井勝一郎

 果心堂が名を挙げた「江戸で流行っておる戯作者松本張亭」→松本清張(こちらは説明不要であろう)。

その参 伊賀大馬*3

 三重県阿山郡鍔隠村出身。忍者の末裔の現代青年。

 先祖伝来の忍法相伝書からあらゆる印刷物を白紙に変えてしまう忍法「墨消し」を会得する。なお相伝書には「墨消し破幻の法」によりこの術から守られている。

 忍法の私的利用というか、女がらみで使うと失敗するという典型例である。

 この大馬青年は素広平太博士*4と協力して自動射精機を世に送り出している。面白いのはこの機械を最初に試す作家が風太郎本人で、しかも「僕はもともと忍術なんて古怪なばかげたものに全然興味はないし、」と述べている点だろう。しかも初出は昭和41年となっているから、まだまだ忍法帖をばりばり書いている時期である。

*1 伊賀の散歩者

*2 笑い陰陽師

*3 忍法相伝64 これを長編化したのが幻の長編「忍法相伝73」で有る。

*4 自動射精機

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