忍法系譜 その拾弐 御乱行の精算

その壱 綱吉

 綱吉に妻を取られたことを恨みとして自決する直参があちこちで発見された。事態を憂慮した柳沢出羽守は伊賀鍔隠れ谷で修行したという二人のお小人目付*1に囮捜査を命じる。

 稲富小三郎は髪を縦に裂いてつないだ目に見えぬほど細い髪を自在に操る「髪いたち」を使う。これは夜叉丸*2の技の直系であろう。対する玉虫内膳は体の一部を死んだ状態にすることで苦痛無く捨てることが出来る。これは麻耶藩の剣士の一人黄瀬川黄白*3が雨師三兄弟を討つために自得した「仮睡自在剣」に似ている。これを取って『仮死法』と命名したい。問題はその後で、足を手として武器を使い手を足として走ることが出来ると言う。こちらは小豆蝋斎*2の『超柔軟体質』を受け継いだモノであろう。

 さて、一連の事件を仕組んだのはやはり綱吉に妻を取られて縊死した関石見守の娘桔梗であった。孤児となった彼女は乳母の里であった甲賀卍谷(!)にて忍法を会得したのだという。後天的な修行もさることながら、幼少時に飲んだ卍谷の女の乳が彼女の体質に何らかの影響を与えていたのだろう。

 彼女が吸い付いた場所から決して止まらない出血を生じる。死してなお効力を持っていたことから既に体質化していたと思われる。これはお胡夷*2の能力を一部受け継いでいるのではないか。美貌それ自体が武器となっている点は陽炎だが。

その弐 家斉の娘 会津松平家の場合

 十一代家斉は実に五十四人の子女を儲けたという。その始末は大名家に悲喜こもごもを生んだ。二十四女元姫は会津松平侯に嫁いだ。花嫁の器量はこの際置くとして、当主肥後守は御陰萎だという。家名存続を危ぶんだ国家老は美女を殿の元に侍らせ、奥方は悋気を催して監視役と称して伊賀のくノ一を送り込んだ。

 召し出された芦名忍者三名*4はこれら伊賀くノ一の目をかいくぐって殿の不能を治さなければならない。だが、芦名流は銅伯*5が己の夢を他人に見せる「夢山彦」を使った様に幻術に長けている。

 信夫銀三郎は精液を仲立ちとして相手に憑依する事が出来たが、これは一時しのぎに過ぎない。監視役のお弓は殿様の変貌を怪しんで天井に針を吹いている。芦名兵蔵の「枕返し」は上下のあるいは左右の感覚を逆転させる。殿様は口と陰部を錯覚して交わった。阿武隈法馬は妻お志乃を介して自分と肥後守の摩羅を交換させた。厳密にはこれはお志乃が用いた忍法であろう。

 この後に生じた悲劇は趣旨から外れるので…。

関連頁 芦名一族

その参 藤堂家の場合

 藤堂家の嫡子蓮之介があろう事か将軍の御前で怪死したことから話は始まる。寵姫お美代の方の養父中野石翁はお美代の方の生んだ男子石五郎を養子とする様に藤堂家に申し入れる。

 先に蓮之介を殺し、藤堂家の乗っ取りを謀っていた服部蛇丸の魔の手は当然に石五郎に向けられる。これを守るのは石五郎のお供甲賀蟇丸と謎の忍者自来也*5であった。

 蛇丸の一党が以下にして蓮之介を殺し、また石五郎を亡き者にするのか。これは「精水波」と呼ばれる秘術で、五人のくノ一の愛液を重ねることで完成する。一度成れば、毎夜五人の内の誰かと交わらねば精液の流出が起こり死に至ると言う。

 伊賀のお丈は斬られた腕に生命力を残し自在に動かす「蘭奢待」を使う。元は乱蛇体と記した。これは伊賀に入った「屠人戮馬」の法を応用したモノらしい。お戒の用いた「舌轆轤」は口を女陰に変えて仕舞う術である。これは「精水波」も伝えられるらしい。他にお塔が用いた「くノ一蝋燭」は爪を擦って火花を飛ばし全身から出した脂に着火するモノである。

 蛇丸はお都賀を犠牲にして「乳搾り」を用いた。これは全身の血を愛液と変えて別の女にそそぐものでこれを仕掛けられたくノ一は「精水波」二回分になる。これを浴びた女は近づいた男を狂乱させるが、効果は七日しか続かない。これは果心居士が弟子の飯綱七郎太*6に教えた「ほおずき灯籠」「びるしゃな如来」の改良版であろう。

 くノ一達が共通して修めている術として「髪文字」が有る。これは術者の生死を問わない通信手段であるが、蛇丸は発信者の生死を見極められる。また血を縄に染みこませて壁のぼりを行う「血縄」がある。

 対する自来也は喪神せるもの死せる者すら動かし声を発せしめる「死人谺」、水面に映る顔を水中で受けて顔を写し取る術を使う。顔を映す術は甲賀の伝統芸である。他に被ると姿を隠せる月の羽衣がある。

 この自来也はキャラクター的には達忍候補なのだが、残念ながら最後が悲恋でないので…。

関連項 服部蛇丸


*1 忍者玉虫内膳

*2 甲賀忍法帖

*3 忍法甲州路

*4 忍法花盗人

*5 柳生忍法帖

*6 自来也忍法帖

*7 忍法剣士伝

 

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