甲賀忍法帖補完計画
この稿は原作の「甲賀忍法帖」を基本とし、漫画版の「バジリスク」(byせがわまさき)を補助資料として使用する。漫画版のネタばれに成らない様に各キャラクターを死亡順に解析します。
巻の壱
壱 「甲賀ロミオと伊賀ジュリエット」になり損ねた二人 甲賀弾正と伊賀のお幻
「若いとき、わしは伊賀のお幻を恋うたぞい」と弾正は言った。さてこの若い頃とはいつ頃か?
弾正とお幻各々の孫が弦之介と朧であるが、この間の世代が登場しない。勿論亡くなっているのであろうが、それを補完する情報はある。
歴史の残る「天正伊賀の乱」とほぼ同時期に、歴史に残らない”天正甲賀の乱”(あるいは「甲賀南蛮寺領」騒動)があった。この時、甲賀五十三家の宗家として甲賀織部が登場する。これが甲賀弾正の息子であることはほぼ間違いないであろう。弦之介の父親であるかどうかはひとまず保留する。
さて、織部の年齢から逆算して弾正とお幻の悲恋は、天文末頃となる。この年代を記録した忍法帖作品が無いので、後は想像に成るが、
天文二十一年
一月 足利義藤(のち義輝と改名)、三好長慶と和睦して帰京。
十月 義藤、山城霊山寺城を築き居城とする。
十一月 細川晴元、霊山寺城を攻め五条口を焼く。
この幕府内部の抗争が伊賀甲賀にも波及したのでは無かろうか。
この件は甲賀卍谷の系譜考にて再考察しました。(06/09/23)
弐 異形の忍者・高速系 風街将監と地虫十兵衛
一言で言えば、将監は蜘蛛で十兵衛は芋虫である。二人とも異形型に属する忍者であるが、それだけではない。高機動型とでも言えば良かろうか。四肢を駆使する将監はまだしも、十兵衛に至ってはその手足がない状態で並の人間より遙かに早い忍者の足を凌ぐのである。
原作ではその死に方は呆気ない。漫画では抵抗した分だけ敵方の伊賀忍者の見せ場が増えている。直接の死因が蛍火で有る点が共通。
将監の粘痰は特異体質であるが、それを塊としてまた糸として吹き分けるのは修練である。これを洗練させた例が無明綱太郎の「蜘蛛の糸巻き」であるが、彼の流派は伊賀である。恐らくこの時の戦いで技術を盗んだのであろう。
さて手足を持たぬ十兵衛の必殺技が「含み槍(仮名)」である。頭領である弾正も常識では考えられないほど長い含む針を武器としていたから、その技を受け継いだのであろう。弟子は師をこえと言うのは何も弦之介ばかりでは無さそうである。
漫画版の「バジリスク」では口中の仕込み刀を舌で操っていた。これは画的に見てなかなか秀逸なアレンジであろう。
参 鵜殿丈助は何故敗れたか?
都合三人と戦っているが、死の直前まで破約を知らないためにまだ本気モードではない。一人目が「お祖父か叔父貴のような」自分と良く似た能力)を持つ小豆蝋斎、二人目が容姿に置いて好対照な「三日月みたいな感じの美女」陽炎。この戦いは原作では都合二度行われますが、漫画版では一度に纏められます。忍法というのはネタが割れるともろいモノで、二度目はその弱点を突いて勝利する訳ですが、その直後の三人目が”天敵”雨夜陣五郎となります。
はっきり言って、原作での彼の殺られ方は解りにくい。彼は水中に潜る際、浮力を得るために大きく息を吸って膨らむのであるが、その所為で刀を弾く弾力性を失うのであろう。つまりはゴム風船が針の一突きで破裂する様に。彼以上に水中に適した雨夜陣五郎が相手であったことが不運であった。
「鵜殿丈助の敵は、まさに雨夜陣五郎」
それはともかく、「江戸忍法帖」に鵜殿一風軒という甲賀忍者が登場します。これは丈助の子孫なのでしょう。能力が似ていないと言う批判が来るかも知れませんが、如月兄妹を見れば、血縁と能力に必ずしも結びつくとは限らないことが解ります。
遺伝が八割、環境が二割というのが作者の持論のようですが。