甲賀忍法帖補完計画

巻の弐

壱 夜叉丸の武器

 彼は女の黒髪を独自の技術でよりあわせて、特殊な重油をぬった縄を武器とします。この髪の提供者は彼の恋人蛍火のものなんでしょうか。そう言えば、原作では蛍火の蛇は懐ではなく、頭の上にいました。夜叉丸以外の人間に彼の大事な武器となる髪を触らせないためでしょう。

 「甲賀忍法帖」では、これが第一作と言うこともあって、個々の忍法に明確な命名がされていませんが、「まいちど黒縄地獄に堕ちよ」と言う彼の言葉から、これが呼称だと考えられます。しかし自分の忍法を一々名前付きで紹介してしまうのははっきり言ってやばいと思います。

 それにしても、弾正が「敵に見せてもまずさしさわりのない、いちばん手軽なやつ」と言った将監が(漫画版では)四対一でもかなり良い勝負をしたのに、彼は二対一であっさりと敗れています。まあ、相性と言えばそれまでですが、相手は警戒厳重な鍔隠れ谷へすら入り込んだ穏形のスペシャリストですから。しかし彼の最大の不幸は初戦の勝利に気をよくした薬師寺天膳が調子に乗って卍谷へ乗り込んで敵に戦闘開始を知らせてしまった事でしょう。まあ巻物を取られた失点を考えれば自業自得ですが。

 さて女の黒髪を武器に使うと言うのは忍法帖では割とポピュラーです。すぐ思いつく有名なところでは「魔界転生」の天草四郎が使う「髪切丸」でしょう。

弐 攻撃的な軟体質 小豆蝋斎

 柔軟体質そのものは伊賀にも甲賀にも存在します。

 「おれの忍法と一脈あい通じるものがあるらしい」

 「とはいえ、伊賀と甲賀、どこまでちがうか」

 蝋斎に”遊び”を仕掛けた鵜殿丈助の言葉である。共に柔軟体質の持ち主だが、その方向性は大きく異なる。丈助の忍法がどちらかと防御向きであるのに対して、蝋斎のそれは攻撃に特化している。同系の丈助が陣五郎に吸い付かれて敗れたように、彼もお故夷に吸着され、超接近戦に屈しました。

 触れれば切れると言う手足は「伊賀忍法帖」で篝火が会得した”三日月剣”にもみられ、「外道忍法帖」の中嶽半太夫も同じく鋭利な手足を駆使している。これは伊賀のお家芸なのでしょう。

 対する甲賀は”肉鎧”(「江戸忍法帖」他)などどうも防御系の忍法が目立ちます。

参 未完のくノ一? お胡夷

 彼女の能力は超接近専用なので、一対一ならともかく、囲まれては勝負になりません。兄の左衛門は何を思って彼女を一人で行かせたのでしょう。「たとえ弦之介さまに見つかっても、叱られはすまい」と言う言葉から推察するに、彼女は丈助とならんで数少ない和議あるいは弦之介の婚儀への賛同者なのでしょう。

 その吸着する肌で一人目の蝋斎を倒したモノの、二人目の陣五郎は体質的な相性から取り逃がし、最後の念鬼はその出会いからして最悪の相性でした。

 さて彼女の最終兵器である吸血能力ですが、同系の能力が見あたりません。その後のくノ一達は血液よりも精液へとその狙いを移してしまいます。その意味では「甲賀」はエロの要素が希薄です。色気が能力の一部だと言える陽炎ですら、未遂ですから…。

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