甲賀忍法帖補完計画
巻の参
壱 実は強すぎた男 蓑念鬼
蝋斎と同様に攻撃的な忍法である。彼の場合は全身の毛を自在に操ると言うかなり異様なモノである。お胡夷などは恐怖のために足をもつれさせてしまった程です。数万本の手足をもっているにひとしいと表される彼は同時に多人数を相手に出来るので、接近戦に持ち込めばほとんど無敵でしょうが、その自負が却って彼の命取りに成る訳です。
彼の先走りが蛍火の死に繋がり、二人が作戦の成功を仲間に告げられなかったことで新たな被害が出るのですが、それはまた次の話。
弐 虫使いの走り? 蛍火
印を結んで虫を呼び寄せて操る、と言うのが彼女の忍法です。よって彼女は後方支援型であり、敵の接近を許したことが彼女の命取りであったといえましょう。しかもよりによってその敵は彼女が最も憎む如月左衛門だったわけです。(でも、本当の仇は霞刑部なんですけどね)
弦之介は何故かこの蛍火の忍法を知っていた様子です。「では、蝶を使ったのは、こやつでござりましたか!」と言う左衛門に答えて、「いや、そうではあるまい。虫をつかうは、蛍火という娘」と答えています。多分、ばらしちゃったのは朧姫でしょうねえ。弦之介も朧以外には結構容赦ないですから。
この忍法は後発の作品で様々な改良が施されて登場しています。「外道忍法帖」では甲賀張孔堂組の弟子丸銅斎が開かぬ片目の中に毒虫を飼い、己の死と同時に解放されて敵を討つ様に成っていましたし、同じ「外道」で大友くノ一のガラシャお丈が股間から流す体液の匂いによって虫を呼び寄せています。この二人が戦えば相打ちなのは当然でしょう。
また「忍法忠臣蔵」における能登忍浪打丈之進に至っては血中に飼っている虫を自在に操っていました。体内で虫を飼って武器にすると言うのはあちらこちらで見かけますが、このアイディアを最初に使ったのは忍法帖の中だったのでしょうか?どなたかご存じ有りませんか?
参 最も倒しにくい二人 雨夜陣五郎と霞刑部
陣五郎は伊賀で最も暗殺に適した忍法を使う男なのですが、彼の独自の武器は、同時に彼の弱点となる典型でもありました。その体質故に鵜殿丈助を倒し、またお胡夷の必殺技からも逃れた訳ですが、その死もやはりその体質故と言うことになりました。しかし彼は天膳に次いで殺しにくい相手ですから、有る意味では不運だったと言えるかも知れません。
服部組では彼の体質を参考にして「枯葉だたみ」と言う忍法を開発しています。(「忍法関ヶ原」に登場)このマイナーダウン版では、身体の水分を抜いて小さく成ることが出来ますが、天然の陣五郎と違って自力で動くことが出来ません。
一方、敵地に潜入させたら右に出る物はいないのが刑部です。彼は甲賀で最も倒しにくい相手でしょう。その彼も己の忍法に対する過信から帰らぬ人となっています。
彼は朧の目が見えぬ事を知ってあえて船に乗り込んで伊賀者達を始末する決意をしたのでしょうが、その事を何らかの形で仲間に報せるべきでした。狭い船上では彼の忍法も効果がかなり限定されます。はっきり言って船に乗り込んでしまったら、伊賀を全滅させない限り逃げるのは容易でないはずです。にもかかわらずよりによって一番殺しにくい二人を相手にしてしまいました。陣五郎を殺せたのは有る意味で僥倖でしょう。刑部は陣五郎の忍法を知らなかったはずですから。
彼の直接の敗因は朱絹の血によって身体を染められて穏形が阻害されたからですが、この手法は見えない敵と戦うときの常套手段ですね。朱絹の忍法は本来は自分の姿を相手から隠すためのモノですが、とっさの判断としては見事だと思います。(朧の目が開いていればもっと簡単だったでしょうけど)
さて「外道」において彼に近い忍法を使う甲賀忍者が登場します。彼ら(日ノ輪内膳と不知火左京)は平面化は出来ませんが、蝋の汗を流して光の屈折を操作して透明化すると言うモノです。相手の天草扇千代が盲目になっていたため透明化自体がほとんど無意味でした。