甲賀忍法帖補完計画

巻の肆

零 天膳は本当に弱いのか?

 この巻では二人しか死なないので、水増しの為に天膳について少し書いておきます。(これはバジリスクの公式HPへの書き込みに増補し改訂したモノです)

 はっきり言って彼は忍者としては弱い。その理由は作中を良く読むと理解出来る。鍵は彼を含む伊賀の五名が卍谷に潜入したときの彼の科白にあります。

「あの欅も大きくなったなあ。おれが子供のころ、おなじ背丈だったことをおぼえておるがー」

 お解りでしょうか。彼は若作りなだけで相当の高齢者なのです。この檜は樹齢百七、八十年はあろうと思われる事から主筋のお幻よりも遙かに年上と考えられます。その割には精力旺盛ですが…。

 はっきり言って「甲賀忍法帖」では一見して弱い忍法の使い手の方が活躍しています。伊賀方ではこの天膳が、そして甲賀方では如月左衛門です。この二人が殺害数では両陣営のトップな筈です。

 この時点までに天膳が倒した二人(地虫十兵衛、霞刑部)はみな自分で殺した筈の彼の登場に動揺したために討たれています。忍法勝負では相手の忍法を見破れば勝ちなのです。彼は身を以て相手の忍法を探り出し、その上で敵の虚を突くと言う戦術を徹底しています。己の長所と短所を究極まで生かし切っている点では侮れない忍者です。

壱 意外なる盲点 室賀豹馬

 盲人ながらその代わり並以上に耳が利く。霞刑部が抜け駆けに際して彼の同意を得て行ったのも、彼の耳までは誤魔化すことは出来ないからであろう。まあ、あの面子なら弦之介を除けば豹馬の発言権が一番強いと言う面も有りますが。

 豹馬がこの段階で刑部の抜け駆けを黙認したのは、弦之介の戦意に一抹の不安を感じていたからであろう。「弦之介さまは、はたしてあの朧姫を討ちはたすご決心があるか?」と聞かれ豹馬は沈黙してしまいます。この辺、漫画と原作では構成がわずかに違っています。

 彼が弦之介の「瞳術」の師、である訳だが、何故か夜しか使えないとされている。これは最初に発動した時の副題から推測するに「猫眼」と命名すべきでしょう。昼間は明るすぎて彼の目が放つ「金色の死光」が相手を捕らえられないのであろう。つまり念鬼を倒した際に脇にいた弦之介が「見よ」と命じたのは実は敵の視線を豹馬に向けさせると言う意図があったのですね。と言うことは昼間に仕掛けた方が勝ちやすいと言うことになる。昼間の方が彼の耳を惑わす余計な雑音も多いことであるし。

 彼を倒したのは皮肉にも、先に弦之介の瞳術によって自爆して視覚を奪われていた筑摩小四郎であった。豹馬は単純に体術のみで勝負すれば良かった。なまじ己の瞳術を仕掛けようとしたばかりに小四郎の「吸息かまいたち」に討たれることになる。原作ではこの戦いは実にあっさりと書かれていますが、バジリスクでは実に見応えのある戦いが展開されていますので必読です。

弐 悲しい板挟み 筑摩小四郎

 彼は、伊賀の鍔隠れ谷で、薬師寺天膳につかわれる小者にすぎない訳ですが、卍谷の重鎮室賀豹馬を討ち取ると言う大金星を挙げます。はっきり言って彼の忍法は強いです。初戦の風街将監戦では偶然に口を塞がれたために不発でしたが、甲賀でも彼の忍法を防げる人間はほとんどいないでしょう。唯一彼を退けることが出来たのが弦之介の無敵の瞳術でした。皮肉なことに、視覚を奪われたことがおなじ瞳術を使う豹馬への勝利に繋がる訳ですが、一方で視覚がないために陽炎の毒に仕留められる訳です。

 本作中には名称は登場しませんが、「外道〜」に登場する勿来銀之丞がおなじ忍法を使い「鎌いたち」と呼んでいます。彼はどうやって倒されたか。詳細は記しませんが、外道が三つ巴の戦いであることがポイントです。

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