魔法世界の戦争論4

戦闘補助魔法の再検証

§1 攻撃補助魔法と火箭

 以前の稿で火箭について触れましたが補助魔法の見地からここで補足を加えます。

 まず、火砲(銃器)と火箭の相違点から。銃器は飛来物(弾丸)それ自体に推進力が無く、推進装置が別に存在します。その意味で銃器と弾丸の関係は弓と矢の代用と言っても良いでしょう。それに対し火箭とは飛来物それ自体に推進力があるモノを指します。

 火箭の利点は、推進力が備わっているので発射後の軌道修正が可能であると言うことです。一方欠点としては反復使用が効かないと言うことでしょう。現代の核ミサイルのような、一撃で多大な戦果を期待出来るモノでない限りコストパフォーマンスが悪すぎると思われます。

 前回は見落としていましたが、魔法世界ではこの問題点が解決されます。魔力によって命中精度を高められた弓矢というのは、先の定義に従えば火箭の範疇に含まれると考えて良いので、火箭兵器はかなり低コストで実現するでしょう。この様な魔法弓兵隊の登場は史実における長弓兵以上の破壊力を持っているでしょう。

§2 衛生兵としての魔法使い

 D&D以来の伝統か、TRPGでは治療呪文というと僧侶の専門のように成っていますが、当魔法世界では両者の魔法に本質的な差異を想定していません。よって魔法使いも治療魔法を使えます(これを専門とするのが治療術師などと呼ばれます)し、逆に僧侶が平然と攻撃魔法を使ったり(その様な僧侶は修道騎士もしくは武装伝道師などと呼ぶ事になります)もします。

 魔法砲兵による攻城戦や魔法弓兵や火箭による長距離攻撃により魔法世界の戦争は史実の中世より遙かに血生臭いモノとなるでしょう。一方で従軍魔法使いは治療魔法を用いた衛生兵としての役割をも担う事になるでしょう。

 こうして魔法世界の戦争は、社会的には中世的な要素を残しながら、戦争技術は現代戦に匹敵するモノになります。この事から英仏の百年戦争のようなだらだらと続く長期戦はおそらく起こりえません。戦争は技術的・魔法的に勝る方が圧倒的に優位に進めるでしょう。そしてこの事は古代ローマの様な先進文明社会の生き残りを可能にするでしょう。

 魔法世界では農業生産がその魔法文明に強く依存するため、既存の文明社会が崩壊するとその荒廃は史実の比では無くなるのですが。

§3 結界としての城塞

 魔法世界における都市は構成員達を守る為の結界によって支えられており、これを維持するのが精霊石もしくは精霊樹と呼ばれる魔力焦点具である。初期型結界(開放型・円陣)ではこれら焦点具を中心とした円形に発生し、その有効半径は人口に比例する。

 第二段階の結界は境界柱(もしくは境界樹)と呼ばれる標識で有効範囲を明示されたタイプになる。これら境界標識を角とした図形の内部が結界となる。つまり標識は三本一組が原則となる。これを閉鎖型・三角陣と呼ぶ。中心を最大として外周ほど効力が弱まる開放型に対して、この閉鎖型では内部は均質化される。中心から発した魔力が外辺で反射して干渉を起こすからである。

 そして城塞型と呼ばれる第三段階に至る。魔力中心を構造物で囲うことで魔力を閉じこめることが出来ることはかなり早くから知られていた。実現に至る問題は魔法文明の側になく、建築技術の発達度合いであった。

 この城塞型の発生はそれまでの一つの問題点を解決することになる。それは流水が魔力の結界として機能すると言う問題である。要するにそれまでの魔法技術では川を跨いで結界を形成する事が出来なかったのである。しかし城壁は(より正確には城壁を築く際に用いられる附呪処理が)魔力を伝達する機能を果たすので、城壁内の魔力を均質にする効果が生まれる。これはつまり魔力中心が町の中心に置かれる必要が無くなった事を意味する。その為、”新城”と呼ばれる多くの街では魔力中心が城塞と一体化している。

 いずれの型にしても、結界内部で街の人間を傷つけるような魔法の行使は不可能になっている。結界を壊すには中心や境界標識、そして城塞を物理的に破壊する以外にはない。城塞に”魔法の火球”をぶつけても破壊されない。

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