魔法世界の戦争論1

 石原莞爾著「最終戦総論・戦争史大観」(中公文庫)をベースとして、魔法世界における戦争の実情を論考する。最終戦争に至る収束の仮定(課程)については、石原の宗教観が絡むので避けるが、戦争史の展望については非常によく纏まっていると思う。

§1 戦争史論

 古代に置いては洋の東西を問わず国民皆兵(徴兵制)であった。それが古代帝国よる統一を見た頃から崩れ、傭兵制が登場する。ここまでは別の稿でも書いたと思うが、それに従って戦争の手法も変化する。国民皆兵の時代には決戦戦争が行われていたが、それが傭兵制への移行に伴って持久戦争へと変化するとある。その後、この徴兵と傭兵が社会構造の変化に応じて交互に現れる。

 まずこの両戦争の定義を示して置かなくては成らないだろう。決戦戦争とは端的に言えば敵武力を破壊する事を目的とする短期決戦である。これは武力がすべてを決するある意味で単純な戦争である。それに対し持久戦争とは武力以外の要素が大きく作用しその結果戦争は長期に及ぶ。

 石原は軍人としての見地からか、決戦戦争を理想とし、持久戦争を堕落と考えているらしい。戦争の歴史はこの決戦戦争と持久戦争が交互に現れ、最後には最終戦争による世界統一と永久平和が実現するという論法になるのだが。

 決戦戦争が起こらない、つまり持久戦争となる原因として、1)軍隊の価値が低い事、2)軍隊の運動能力に比して戦場が広い事、3)攻撃威力が敵防御線を突破できない事が挙げられている。1)については少々説明が必要であろう。軍隊の価値が低い場合、戦力が容易に集められる為、決戦の勝利が戦争の勝利に結びつかないと言う事であろう。

 もう一点、陣形の進歩についての検証が興味深いので紹介しておこう。古代に置いては方陣が用いられ、鉄砲の登場により横隊が考案された。これが縦隊・散兵戦術へと移行するのは、フランス革命期であった。フランス革命期に発生した国民軍は熟練を要する横隊戦術を取れなかったが故に、運動の容易な散兵戦術を採用し、それがたまたまその時代の性格に適したが為に広く用いられる様になったとする。フランス革命の前後で、兵器の飛躍的な革新が有った訳でなく、偶然の産物であったと言う点がおもしろい。この新戦法によって時代の寵児となったナポレオンはその戦術が世に広まってしまったが故に勝てなくなった。

§2 魔法の価値

 さて、魔法の存在がこうした戦争史に与える影響とはどんな物であろうか。魔法使いの攻撃呪文は火砲に相当する。但し、魔法を使えない一般兵は白兵戦を余儀なくされる訳で、古代の戦争は現実を越えて悲惨な物となる可能性がある。魔法による農耕が食料生産力を高めて人口の増加をもたらすのに対し、魔法を戦争に用いる事は人口淘汰に繋がる。つまり魔法文明は持てる者と持たざる者の差を著しく広げる事になる。

 魔法は火砲の代用意外にも様々な利用法がある。たとえば、魔法による遠隔会話は無線に相当する。また瞬間移動の呪文は拡大できれば軍隊の運動性を高め、決戦戦争を妨げる要素の一つが消える。また魔法使いの存在価値が非常に高いため、恐らく持久戦争は滅多に起きないであろう。

 魔法が与える影響のもう一つは治療魔法の存在である。呪文による高速治癒は戦闘による死傷者を軽減する。よってこの面からも持久戦による決着は恐らくあり得ない。死者を蘇らせる魔法が存在するなら尚更である。戦闘における最大の攻撃目標は魔法使いになるだろう。

 この様に魔法の存在はこの様に非常に大きな物であるから、古代帝国はその統一と共に魔法の国家統制を図るであろう。古代魔法文明が自爆でもしない限り、持たざる蛮族社会が国家として立ち上がる可能性は低いかも知れない。もう一つの可能性としては異なる魔法文明間の激突による共倒れと言う線であるが、この延長として破壊力の拮抗が巨大帝国間に冷戦構造をもたらすかも知れない。

§3 兵器の発達

 人類最古の武器は恐らくそこらで拾った棒切れでしょう。そこから進んで材質が石になり、金属に換わる。最初期のRPGでは僧侶は刃の着いた武器を使えないと言うルールから鎚矛と言うトゲトゲの武器を主に用いていましたが、あれってどう見ても剣より痛そうなんですけどね。

 金属が武器に用いられるようになると、それを長い棒の先に付けて戦斧、形状を見ると先が尖っていてむしろツルハシに近い物の有りますが、更に突起を前方へ向けて突く形の矛や鑓が現れる。そして金属の鋳造技術の発達と共に刃物上に加工された刀剣が生まれる。鑓と剣のどちらが優れた武器かと言う問題は興味深いのですが、主題と逸れるのでここでは取り上げません。

 これで終わったら表題の半分しか満たしていません。よって魔法的な要素を加えた各兵種について順に検証していきます。

3−1 歩兵

 まずは歩兵について。銃兵については火砲の項で取り上げるとしてここでは白兵のみを検証します。魔法世界の歩兵戦力として思いつくのがゴーレムによる人造歩兵とアンデット軍団です。どちらも維持するには相当のコストと魔力が必要そうです。特に後者については、実用化すると敵国から非人道的だという批判を受けそうですね。使うとすれば、敵兵の死体をと言う事に成るのでしょうが、お互いに倒した敵の死体を押し立てての戦いとなると一般兵の志気が著しく落ちそうです。この手法は早い段階で禁呪とされるでしょう。

3−2 戦車と騎兵

 騎馬は鉄器と並んで古代から中世に掛けての重要軍需品です。家畜として人間が騎乗可能な生き物としては馬の他にも牛やラクダ、ロバなどが思いつきますが、牛は遅過ぎるし、ロバは臆病、ラクダは特定の地域に特化して汎用性が低い。そう言う訳で、装甲式の戦車が生まれるまでは騎兵が軍事的な価値を持ち続けました。

 馬の兵器運用としては戦車と騎兵の二通りがあります。戦車は恐らく荷車の延長、改良から生まれたのでしょう。御者と射手による分業によって運用された戦車が先行した理由は騎馬術の習熟が難しい事、騎乗したままでの戦闘が更に至難であるなどが挙げられます。これに対し、騎乗戦士が広く用いられる為には鞍や鐙といった馬具の発明が必要となる。初期の騎乗では手綱を用いず、馬を挟み込む膝の圧力と体重移動で御したので騎乗には非常に熟練を要しました。

 更に魔法世界の機動兵について一考を加えます。まず魔法的騎乗術について。馬との意志疎通を魔法によって補助すれば宜しい。更に一歩進んで馬との融合、つまりケンタウロスの作成。ギリシア神話のケンタウロスは恐らく騎馬民族の具象化でしょうから、魔法世界なら本当にそのような特殊兵が作られても面妖しくないでしょう。

 騎兵を志願する者はこの特殊融合手術を受ける事となります。当然、戻す事は出来ませんから、少年兵を用いるべきではなく、既に跡継ぎを設けた既婚者のみとします。手術を巡って色々とドラマが生まれそうですね。

 もう一つが、馬を使わない戦車、この場合は装甲戦車と呼ぶべきでしょうか。魔法によって動力が確保できるなら、これも作成可能でしょう。但し、一台コストが相当にかさむ事が予想されますし、装甲に使う強固な金属が存在しないと、ほとんど無意味です。装甲の金属については魔法による強化も考えられますが、動力と合わせると、それほど長く維持できないでしょう。第一、魔法で強化した物は当然魔法で破れるはずです。それに魔法による火力が強力であるため、密閉式の装甲車は恐らく浸透しないでしょう。

3−3 火砲と火箭

 歩兵、騎兵と来れば最後は砲兵です。魔術砲兵については前節にて考察済みですので、ここでは一般に知られる意味での砲兵について取り上げます。

 飛び道具としてはまず弓矢が考案されます。恐らく銃器誕生以前に最も優れた武器はこの弓でしょう。そこから砲兵の前段階として、まず弓兵が誕生します。最初は狩猟用として編み出されたのでしょうが、次第に停滞する人間にも狙いが向けられます。

 弓は戦争用の兵器であるだけに、ある程度の数が揃っている事が必要なので、ゲーム上では余り用いられません。と言うより有利すぎるので、ルールの中で縛りを掛けているのでしょう。なるべく遠くで発見して一斉射すれば大抵の敵は倒せてしまいますから。

 魔法が問題となるのはその先です。つまり銃火器の発生条件である火薬の扱いについて。魔法による発火・爆発が容易に起こせる世界では、火薬は危険きわまりない物としてそれほど重要視されないでしょう。魔法が余り発達しなかった地域で用いられたとしても良いのですが。銃砲の発生は相当に遅れるか、あるいは全く発生しないかのいずれかになるでしょう。

 むしろ実用の可能性が高いのが表題にも取り上げた火箭、つまりロケット砲です。火薬の発祥地・中国では火薬による銃砲よりも先にこちらが考案された節があります。しかし中国では余り兵器の発達が見られなかった事と、火薬兵器の方が便利であった事から、火箭は余り発達しませんでした。

 火箭の活用法としては、魔法の到達距離を稼ぐ事です。火箭を目標までの到達手段として利用し、魔法は弾頭にのみ使う事で、現代の核ミサイルのようなシステムが構想できます。これが実現すると、相当に早い段階で冷戦構造による平和が実現するかも知れません。

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