緑ヶ丘の事件簿(第三版)

 「毒の矢」および「黒い翼」は金田一が緑ヶ丘の恩人と呼ばれ、当地へ移り住むきっかけとなった事件、だった。しかしその後の改稿等でこの移転時期は繰り上げとなり、作中での記述には一部矛盾が残っている。その辺りの経緯は別稿にて示してある。

 此処では先に挙げたの二件の他、緑ヶ丘署が絡む「スペードの女王」と「女の決闘」を取り上げる。なお「スペードの女王」については緑が丘所轄の状況を中心に記述。

 緑ヶ丘署管内、と言うか金田一のアパート、から始まった「悪魔の降誕祭」を追加。

 

 前田浜子(「スペードの女王」) 的場奈津子(「毒の矢」) 藤田蓉子(「黒い翼」)

 河崎泰子(「女の決闘」) 関口たまき(キヨ子)(「悪魔の降誕祭」)

大正末

 両親に伴われて八歳で渡米。

昭和2年

4月1日 小田原急行鉄道小田原線、全線同時開業。

 郊外電車(小田急小田原線と推定)がついて緑ヶ丘の町がひらけ始める。豪奢な家が建ち並ぶ高額納税者部落として知られた。

 彫亀、十八違いの若い妻を迎える。

昭和6年

 誕生。姉豊子とは四歳違い。

昭和13年

 玉川電気鉄道が東京横浜電鉄(現・東京急行電鉄)に合併される。

昭和15年

 私生児を生み、さる日本人家庭に里子に出す。

昭和16年頃

 二十歳過ぎ、的場譲治と結婚。的場の作ったサーカス団のスターとなる。

昭和18年頃

 楽士田口健吉と同棲。

昭和19年

秋 田口が詐欺容疑で捕まり獄中死。

昭和20年

3月9日 東京大空襲。両親を失う。

 私生児を出産。その行方は不明。 

戦後 東亜映画のニューフェースに採用。

 終戦を景気に緑ヶ丘の住民の多くが没落し、新たな住人が流入し始める。

昭和21年

春 女学校を卒業。某出版社へ勤め始め、編集長の服部徹也と関係を持つ。彼に妻子があることを知った後も離別を拒む。

昭和22年

 神崎八百子、極東キネマの第一期ニューフェースに合格するも秋には退社。

昭和23年

 服部が調達した資金を元に銀座裏でバーを始める。このときからたまきと名乗る。G・Iの口ずさむジャズを覚える。

昭和25年

春 スポンサーがついて渡米。

秋 帰国。ジャズの女王と呼ばれる。東京に戻った徹也の妻子のために住宅を建てる。

 緑ヶ丘に地所を買い、故郷愛知より妹貞子を呼び寄せる。

昭和27年

秋 ヘロイン密輸の総元締め陳隆芳死去。一時ヘロインの密輸量が激減する。

昭和28年

春 姉豊子の支援で大学を卒業。ペンギン書房へ就職する。その後、オンリーとしての生活に見切りをつけた姉豊子が同居する。豊子、東邦商事へ就職。

秋 陳の愛人スペードの女王が活動を再開。ヘロインの密輸量も跳ね上がる。

この年 文壇の寵児藤本哲也と結婚し緑ヶ丘へ移り住む。(金田一が泰子を知らなかったことから彼の移住以前と推測される。)

この年 彫亀夫妻、養女秀子に婿を取る。(時期や名前は短編版に準拠。)

昭和29年

1月下旬 金田一、緑ヶ丘荘へ移る。

 アメリカ時代の旧友ジャック安永と再開。

春 東邦商事の解散により姉豊子が失職。

春 日東キネマの試写室で金田一に挨拶をする。

3月3日 姉の刺青を見る。

3月20日 彫亀こと坂口亀三郎、車に跳ねられて死亡。一応事故として処理されたが…。

5月 岩永久藏、極楽寺に別荘を手に入れる。

7月24日 片瀬沖に首無し女の死体が上がる。左内股にスペードの女王の刺青が…。

翌25日朝 ペンギン書房に掛かった謎の電話による示唆で「東京日報」を読み、金田一に電話するが不在。そのまま休みをもらって片瀬へ赴く。

 金田一、緑が丘へ帰宅。掘亀の未亡人坂口キクの訪問を受ける。

午後1時頃 新宿駅待合室で金田一に手紙を書く。

 K・K病院で死体を見たいと希望するが断られ、極楽寺の岩永の別荘へ向かう。

 金田一、等々力警部とともにKK病院に来る。

 ナイトクラブX・Y・Zの二階で岩永の死体が発見される。ここから大疑獄事件が明らかになる。

 岩永の秘書が運転していた車のトランクから死体となって発見される。

 午後十時頃 金田一、緑が丘荘へ電話する。(それより以前、八時頃に彼の名を騙った電話あり)

26日午前1時頃 金田一帰宅。偽電話の話を聞き、緑が丘署へ警戒を依頼する。(注・時空のねじれ

 島田警部補の手配で郵便局への襲撃を阻止。前田浜子の手紙を確保して金田一に届ける。

 等々力警部、緑が丘荘へ駆けつける。

 午後:金田一姿を消して極秘捜査にはいる。

8月5日 金田一の調査により犯人が判明。抵抗の末に射殺される。

20年代末頃

 的場譲治死亡。的場の従弟に当たる八木牧師の世話で帰国。その際に実子星子を養子として引き取る。緑ヶ丘に居を構える。

 金田一、佐伯欽造の友人に当たる芸術家を事件の渦中から救う。(書かれざる事件?)

 恭子(旧姓不明)、師匠の三芳欽造・兼子夫妻の媒酌で声楽家の佐伯達人と結婚するも、上手く行かず別居。

 三芳夫人兼子が交通事故死。佐伯恭子、三芳家へ手伝いに通う。

 恭子と欽造との間に師弟関係以上の愛が芽生え、三者合意の上佐伯と離婚し、欽造と再婚する。

昭和30年

春頃 八木神父に結婚したいと相談。

 緑ヶ丘で黄金の矢の悪戯が始まる。警察に届けられたモノは五,六件。離婚が数件、緑ヶ丘学園を去った生徒数名教師一名。

 緑ヶ丘在住の男優の三原達郎、黄金の矢のターゲットにされる。

4月5日 誕生日祝いのカクテルパーティで急死。享年三十才。彼女が飲んだヒ素は自分で入手したモノと判明し自殺として処理されたのだが…。

 蓉子の同期原緋紗子、その代役をきっかけに大スターとなる。

 黒い翼と呼ばれる幸福の手紙の変種が世間を騒がせる。

昭和31年

 藤本哲也と離婚し、緑ヶ丘を離れ大森のアパートへ移る。哲也は上島多美子と再婚。

春 徹也の妻可奈子の乱行が激しくなる。徹也の娘由紀子を手元に引き取る。徹也と可奈子の離婚話が本格化する中、加奈子が服毒死する。 

3月 金田一、三芳欽造宅で黄金の矢からの脅迫状を見せられ、調査を依頼される。

 金田一、緑ヶ丘署を訪ねる。橘署長や島田警部補と初対面。(短編版には島田警部補は登場せず。改稿時に続編である「黒い翼」に登場した警部補が追加された)

 15日 脅迫者を暴き出そうとして殺される。三芳家を訪問していた金田一、現場に駆けつけて事件の謎を解く。

 緋紗子、蓉子の住んでいた家を買い取り移り住む。

4月5日 蓉子の一周忌のイベントとして”黒い翼”の葬式を行う。

 その夜、二重毒殺事件発生。居合わせた金田一の推理で事件は解決する。

晩夏 ロビンソン夫妻の離日パーティに参加。招待客の一人藤本多美子が毒を飲むが、居合わせた金田一の処置もあって一命を取り留める。

一週間後 ロビンソン夫妻離日。見送りの一党に混じり、木戸未亡人の再度の懇請を受けて翌日その離れに引っ越す。

12月24日 クリスマスを兼ねたジャック安永の渡米パーティに参加。帰り道で同道していた藤本哲也が服毒死。ショックで入院する。

 26日 ジャック予定通り離日。金田一、これを見送った後に緑ヶ丘署を訪問。

 29日 退院。

昭和32年

1月の終わり ロビンソン夫人からの返信により事件が解決する。

 椙本元少佐と再婚。

春 可奈子の一周忌を待って徹也と入籍。(おそらくは同時に由紀子を養女としたと思われる)

12月20日 金田一のアパートで秘書の志賀葉子が服毒死。

 25日 クリスマスパーティで徹也が刺殺される。自分が指したと供述するが、他の関係者からの証言からそれが虚偽であることが知れる。

昭和33年

1月末 道明寺修二と婚約披露。犯行を暴かれた真犯人が自殺。

年譜→昭和29年