テーマ21 二次創作時代小説
前々回の本歌取りと被るのですが、今回は誰でも知っている有名なキャラクターを用いた時代小説を扱います。重要なのはここで言う”キャラクター”が史実そのままでは無く、先行作品で確立した半ば創作された人物像であるということ。
と前置きした上で取り上げる人物は一休さん。元々説話で知られた人物ですが、多くの国民からはアニメの主人公として認識されているでしょう。
ミステリーの探偵として
取り上げるのは、鯨統一郎の「とんち探偵一休さん」(祥伝社文庫)です。
歴史上の人物を探偵役にするというのは良くあるが、ここで登場する一休さんは完全に創作上のキャラである。そもそも”一休”という名前は二十歳過ぎから用いた道号なので、小坊主の一休というのは歴史上からはありえない。ちなみに小坊主の時代は周建という。
次に一休さんの相棒。探偵小説のお約束であるワトソン役を勤めるのが蜷川新右衛門。これもアニメからの流用。新右衛門さんも実在のモデルがいるのですが、史実での関わりは晩年のこと。生年は不明だが、息子親元の年を考えると一休宗純よりも若いかも。
但し作者のオリジナル要素もあって、それは一休が関西弁でしゃべること。作者は会話文だけを連ねて文章を構成する癖があるので、言葉だけで誰の言葉か判るように差別化を狙ったのであろう。
伝奇小説の主人公として
一休をオカルトアクションの主人公に抜擢したのが朝松健。アクション要素として明式杖術の使い手という設定を加えています。そのためにどこかで見たようなキャラ(朝松作品に良く出てくる格等系僧侶)になっていますが。
反骨精神たくましく、無理やり引っ張られた先で頼みごとをされて「だが断る」とまるで荒木飛呂彦作品のような展開も。こういうのは受けないと話が進まないものなのですが。ただ、皇子という設定を特に都合よく使いすぎな感もあります。というか行く先々で知られすぎ。当時としては極秘事項なのでは?
短編から始まって時系列にこだわらずに作品を書き連ねていているので、年譜マニアとしては時系列ソートをしたくてうずうずします。
トピずれ・中世神話について
さて朝松一休でバックボーンとなっている中世神話について。天照大神が島を創造しようとした時(もはやここから古代神話と違っています)に第六天魔王が邪魔したので、仏法は広めさせないと約束して追い返した。と「魔仏行」で紹介しています。その前の「虚月行」では第六天魔王=イスラムの悪魔イブリースとして、日本はイブリースの封土とまで言い切っています。
さて実際の中世神話というのは本地垂迹説に基づく、つまりは日本の神道と仏教とをうまく融合させた神話体系なのであって大魔王云々は傍系の話。実態は伊勢神宮には僧侶は近づけませんという程度のお話ですね。
同じような設定をたなかかなこが「秀吉でごザル!!」で使っていましたけど。信長の守護神(「憑き鬼神」)が天魔すなわちサタンで、アマテラスとの契約で朝廷を庇護しているという話でした。