魔法世界の食文化

 食文化の発生

§1 食糧確保 採取から栽培へ

 かつて人類は他の生物と同様に食糧確保に汲々とした日々を過ごしていた。だが人類と言う地上に降りた(追いやられた?)猿は二本足で立ち遠くを見つめて過ごすことで脳を発達させてきた。彼らは生き残るため様々な適応能力を発揮してきたのである。

 肉を火で炙ると美味しくなると言うのは恐らく偶然の発見なのであろう。人類はやがてその正しい方法を試行錯誤の末に身につける。人類が最初に発見した魔法も恐らく火を扱ったモノであろう。

 一方、採取生活の過程で人類は食物に関する知識(食べられるか食べられないか)を増やしていく。そしてそれまで誰にも利用されていなかったイネ科の植物類に着目した。だがイネやムギは棘のある種皮を取り除かなければ食用にならない。人類はを用いることでその問題を解決する。これが食文化の始まりである。そして調理方法の確立が無計画な採取から栽培による安定的な食糧確保への道筋を付ける。

 人類は水辺に定住する傾向があるが、中でも河川地域に住んだ人類は河川の氾濫によって生じる岸辺の植物群から栽培種を発見したと思われる。対して氾濫を起こさないオアシスや湖を中心とした居住地域では栽培化への移行が生じにくい。

 オアシスと河川では、治水が必要ない分だけ前者の方が安定した生活が可能となるが、食料生産の観点からは発展性に乏しい。乾燥を好むムギはオアシス地域から発達したようであるが、大量生産へ移行するに際しては河川地域への移動が必要であった。古代文明が全て大河川の辺で成立しているのもその証である。

 恐らくムギは最も栽培化しやすい植物であったのであろう。そして一度農耕技術が確立すれば、それを他の植物に応用する事も容易い。河川地域にあったイネ(熱帯性で湿気を好む)もやがてインド地域で栽培が始まる。

§2 食品の加工と保存

 ムギの効率的な利用法として粉にするという方法がある。製粉技術の発達が食文化の第一段階であった。先ずは粉を水で煮て粥に、次いで水で練って焼くクッキー状の加工が施される。粉にして利用すると保存性が向上し、またクッキー状に加工することで携帯食としても利用が可能になる。これに発酵技術が加わるとパンの誕生となる。

 さて保存としては種皮付きのまま乾燥保存するのが最適なのであるが、戦時には大量に製粉する必要に迫られる。これを解決するのが製粉技術の進歩と合わせて家畜の利用である。この段階に至って人類は食料調達に関する時間が大幅に短縮され、ゆとりがうまれてくる。

 さて家畜の利用については別の側面がある。牧畜は人が利用出来ない植物を家畜に与えて乳や肉を新たに獲得すると言う、自然を利用した食品加工の一種とも考えられる。

 この様な自然を利用した食品加工の一種として醸造がある。これは糖を分解してアルコールを精製する技術であり、かなり古くから原理は解らないままに利用されていたらしい。特殊な知識と経験が必要なため食品加工としては最も早くに専門化した分野である。

 穀物に比べて保存が難しいのが肉類である。乾燥させるのが最良なのであるが、よほどの高乾燥地帯でもない限り、腐敗と自己消化の速度に追いつかない。そこで火を用いた乾燥法が取られる。

 火を用いた調理法には直火・燠火・蒸し焼き等があり、これは食器や調理器具が無くても行える方法として今でも利用されている。さて直火を利用した保存法の一種として燻製法が生まれた。そしてこの副産物として動物性の油脂が採取出来る。後にこの食用油を利用した調理法が開発されることになる。

 最後に保存法の重要な手法として塩蔵法を取り上げる。ナトリウムの摂取は植物に含まれるカリウムを体外に排出するために必要とされるので、肉食動物は塩を必要としない。雑食性の人類は野生動物と同様に岩塩を利用していたが、海岸部では海水から抽出する製塩法を発達させてきた。そしてこの塩の流通が交易路の発達の重要な要素であった。

 魔法世界の食文化に戻る