魔獣進化論 番外2 アンデッドの体系
1 アンデッドの定義
アンデッドというのは単純に言うと既に生きていないモノである。従って進化論というテーマからは外れてしまうのだが、魔法的な非在生物という点で魔獣との共通点を有する。
既に生きていないモノを生物と呼ぶのは奇妙ではあるが、初めから生きていないモノとはやはり区別すべきであろう。魔獣等を正の魔法生物とすれば、アンデッドは負の魔法生物。そして魔法によって作られた疑似生命体はどちらにも属さない零の魔法生物と考えられる。
多くのゲームでアンデッドはそれと判別される。これは彼らが帯びる負の生命オーラが感知されるからであろう。一方、魔獣と普通の生物との区別は一般人には出来ないし、その必要も無いだろう。零の魔法生物に関しては生命体特有のオーラを持たないモノとする。某有名マンガで人造人間達が気によって感知されなかったように。
2 アンデッドの体系
某元祖RPGではアンデッドは厳密にランク付けされているが、これはあくまでもルール上の都合でしかない。例えば骨だけのスケルトンの方が肉のあるゾンビよりも魔法的に高度に思える。また多くのアンデッドは思考能力を持たないが、ヴァンパイアのような高度な知性を有するアンデッドも存在する。こう言った連中をリニアーに並べるのはやや無理があるように思える。
と言う訳で、以下にアンデッドを順不同で大別する。
以下にアンデッドを二つの要素で大別する。一つは肉体の有無。つまり生前の肉体が維持されているか否か。もう一つが自力でアンデッド化したか他者によってアンデッドにされたか、である。
2−1 肉体有り・他力型
この分野の主なモノはゾンビーあるいはリビングデッドと呼ばれるモノである。
俗に言うアンデッドのイメージに最も近いのがこれだろう。しかし、本来の(と言うモノおかしいが)ゾンビーは”生ける死体”ではない。ゾンビーとはカリブ海周辺で信仰されるブードゥー教に起原を持ち、特殊な毒(これがゾンビー・パウダーと呼ばれる)により意志を奪われた罪人である。こうして作られたゾンビー達はもはや回復は不可能であり、終身懲役囚として農場などで使役される。
本来の性質を魔法社会に反映させるならば、ゾンビーは特定の条件によって作られた自動的に発生せず、また感染性も持たない。また自身の意志を持たず、作成者の命令(条件付けにより命令権を委譲することは可能)に従って動く。
ゾンビーと並んでこの分野に属するのがスケルトンである。ゲーム的には、ゾンビーの肉がそげたモノがスケルトンとされることもあるようだが、生前の筋肉をそのまま利用出来るゾンビーと異なり、スケルトンが動く為にはより強力な魔法が必要に成るだろう。
スケルトンと似て非なるモノにボーンゴーレムがある。両者の違いは、魔法文化的には負のオーラを纏っているのがアンデッドであるゾンビーであり、零の(あるいは非生命)オーラを纏うのがボーンゴーレムである。素人目には両者は区別出来ないが、霊感のあるモノであれば見分けられるだろう。アンデッドである前者は一人の骨のみで構成されるべきなのに対し、後者は寄せ集めで構わない。よってスケルトンはゾンビーと同様に修復は不可だが、ゴーレムなら別な素材を用いることで組み直すことが可能だろう。
2−2 肉体有り・自力型
この例として考えられるのがグールとヴァンパイアである。この両者は食餌によって自らの肉体を維持することが出来る。この特異性からゲームによってはアンデッドとして扱われないモノもある。両者の違いが突き詰めていけば嗜好の違いと言うことが出来る。どちらも土葬文化圏でのみ発生し得るのでゲーム的な親和性は高く、ヴァンパイアをモチーフとした某RPGではグールはヴァンパイアの臣下として扱われていたりする。
グールというのはアラブ圏に起原を持つ悪魔であり、死体を食する事から食屍鬼と訳される。またグールの女性体であるグーラは美しい容姿を持ち、これはアンデッドと言うよりもサキュバスに近い。これがアンデッドとされたのはやはり某RPG由来なのだろう。
ヴァンパイアはヨーロッパ、キリスト教圏に広く伝承され、そのイメージも多様である。生きた人間の血を常食とし、また意図的に伝染性を発揮する為にグールよりも脅威度が高い。結果的に各個体の強さが求められる事になる。
この系統の特殊例としてマミー(あるいはミイラ男)がいる。本来は長期保存処理を施された死体であり主に乾燥環境で見られる。(これとは逆に湿潤環境で腐敗を免れた死体に屍蝋がある)
ゲーム的にはエジプトのミイラをイメージする外観、つまり包帯に包まれて登場し、アンデッドとしてのミイラもそのイメージが色濃く投影される。いずれにしても、ミイラは通常の土葬とは異なる文化を形成し、上記の他のアンデッドと並んで現れる事は有り得ないし、ランク付けはしない。
なお、中華系の殭屍鬼(キョンシー)は特定の条件下において発生する、ゾンビーとグールの中間的な存在と考えられる。また、仙人もかなり特殊なアンデッドと考えられるが、これについてはアンデッドの魔法的原理を考察する際に検証したい。
2−3 肉体無し
肉体を持たないアンデッドは、ゲーム上では様々な名称で呼ばれ、それぞれに異なる強さと能力を与えられる。これを意図的に作成しうるかと言う点については検証の余地があるが、その用途となると難しい。考えられるのはその知識を利用することだが、それだけならアンデッド化する必要性も無い。ゲーム的に死霊術師を意味するネクロマンサーの元となったネクロマンシーというのは死者の霊を利用した占いであり、その意味でも死霊術師が肉体を持たないアンデッドを作成すると言う状況は考えにくい。
これは死体が原型を留めない火葬圏でも存在しうるアンデッドである。
関連稿 魔法世界の資本論 §4 奴隷制に関する歴史的検証