第壱相 主人公達
その壱 鳥居耀蔵の正義
まずは主人公二人を差し置いてこの人物から。
主人公二人の忍者試験。原作では頭領の服部万蔵が万事取り仕切って、黒幕たる彼は姿を見せないのですが、漫画版ではのっけから姿を見せます。
この後も何かと仕置きの場面に顔を見せるのですが、板倉屋の女房となったお史の拷問シーンでは、裏切り者の空也にさお史がさらわれるのを平然と見送って、別に咎める様子もありません。奉行にとっては板倉屋を屈服させる事が主眼なので、女の方がどうなっても構わないのでしょう。
二人の褒美として与えられたお兆ですが、もっと白痴美的な造形を期待していたのですが、この辺は好みの問題でしょう。
その弐 童貞忍者・箒天四郎
原作での不満の一つが主人公のキャラの薄さ(と言うか実在である鳥居のキャラが立ち過ぎ)だったのですが、はせがー先生は天四郎に童貞という属性を与えました。この属性が単なる純粋さに留まらないのは、別の作品で登場する童貞独裁者を連想させるからです。あの漫画も、童貞様が死んだら失速するのでは危惧されましたが、未来の元帥達が変態ばかりで楽しませてくれます。
原作にない自前の忍法として糸を操る術を使います。天四郎はこれを用いて皮膚をものすごい早さで縫い上げたり、部屋中に張り巡らせて探知機能を持たせたりします。いずれも山風忍法帖の中に登場するモノですが、視覚的な効果もばっちりです。
原作では単に顔見知りの女に過ぎなかったお史も、漫画版では主人公二人の思い人となっています。淫術使いの空也はその変貌にも「あれが人間だ」と淡々としていますが、童貞忍者の天四郎は女性に対するトラウマを植え付けられて役立たずになってしまいます。
原作通りだと、この後にお兆との一戦が待ちかまえているのですが、彼は復活できるのでしょうか。
その参 淫術使い・塵ノ辻空也
片方が童貞純情派ならば、その対比として色惚け忍者というのは実に自然な配置です。しかしなんと言っても彼のキャラ立ちは、天四郎に殺られた辻斬りを見て、「悪いやつは居なくなった方が良い」と言いながらも、鳥居による世直しに対しては「役人が庶民の心ん中まで取り締まろうって魂胆が気に入らねぇ」と啖呵を切って姿をくらまします。原作に比べて、内容は同じでも非常に砕けた言い回しで好感が持てます。漫画は絵で見せるとは言っても、台詞回しは重要です。下手すると絵で説明できない部分を語ってしまう説明台詞に陥ってしまいますから。
さてそんな空也が用いるのは催淫効果のある息。処女には効かなかったけど、童貞には効果覿面。また、大量の尿による目くらまし。やたらと小便を掛けるシーンが多いのは師匠(原哲雄)譲りなのでしょうけど、それによるマーキングというのはナルトですね。
山風忍者らしい術が、「歓喜儡」。単に体を入れ替えるだけなら既出ですが、その相手を操ってしまうと言う部分が新しい。いや相手の体内に精を注ぐことで体を乗っ取ってしまう術というのもありましたから、複合技と言うべきでしょう。
原作では姿をくらました後、なかなか出番のなかった空也ですが、漫画版では書かれなかった部分の活躍が描かれていて楽しいです。この御用屋敷乗っ取りの一件から、彼の淫術が恋い慕う相手の幻覚を見せる術ではないかと見当が付けられます。(そこまで考えていないかも知れませんけどね)