忍法系譜 その拾捌 くノ一術総覧
これまで敢えて避けてきた一般向けでない忍法についてまとめてみる。
その壱 妊法
お阿佐*1の「虫壷の術」は男の精液を胎内で保持し十ヶ月以内ならいつでも妊娠出来ると言うモノである。これは一種の貞操帯の役目を持っており、夫の出張中に妻が浮気した場合、胎内の精液が逆流して男の精液を夫のモノへと変化させてしまう。少し趣が違うが、甲賀大八*2が見せた「はぐれ雁」は男根に精液を保管し、これを女性の体内へ入れることで懐胎すると言う術である。これは保存のために「女の手でしっかり握りしめて、そのぬくみで護って」運ぶ必要があると言う。どちらの術も男女の協力が不可欠である。
真田のくノ一陽炎*3が見せた「背孕みの法」はこれとは少し違う。女性が男性に化けて寵愛を受けて妊娠する術である。これを使うと謙信に「女陰往生」が使えると言う考察を以前している。
信濃のお眉*4は「やどかり」を使って胎児を別の女性の胎内に移した。彼女の子供は実に働き者で、母の「天女貝」から皮一枚で逃げようとした敵のモノを掴んで道連れにした。この忍法は正式には名前が付いていないが、章題から「羅生門」と呼ばれる。
本多正信配下の伊賀忍者阿波谷図書*5は肉頭巾を被って女性に陣痛を起こさせる。これは「女性は見ては成らぬ」と言っている様に基本は淫術なのだろう。
梟無左衛門*6の「袋返し」は胎児への整形を施すモノだが、その為には一度外へ引き出す必要がある。これは「肉太鼓」を生み出した六波羅十蔵*7の様な先人のたゆまぬ研究の成果であろう。
その弐 閨房術数
房術というのは男女間の交わりを前提とする忍法であるが、此処で取り上げるのは行為そのものに作用する忍法である。これは大きく淫術(相手をその気にさせる手法)と交接術(実際の交接に際して用いられる技法)とに分けられる。前者についてはこれまでにも随所に取り上げているので、此処では主に後者のついて列記する。
国友村に潜入した服部組のお眉*8が用いた「穴よろけ」は男性を消耗させるモノであったが、服部組雪ノ外記の弟子のお唐*9が用いた「空印籠」は腎虚に至らしめる強化版、信濃のお遙*4の「筒涸らし」は血液まで吸い取ってしまうより強力なモノであった。
入れたモノを抜けなくしてしまうのが服部伊賀組の椿*10の「天女貝」であるが、これは服部組に置ける房術の指南役である雪ノ外記*9が一枚噛んでいると思われる。同名の術は信濃にも伝わっている。ほぼ同時期の使用なのでどちらかが元祖というのではなく恐らく同一起源なのだろう。能登くノ一お桐*11の「魔羅蝋」は血管ごと癒着してしまうモノで苦痛より快楽が強い。
他にも同系の術として服部伊賀組の牡丹*10の用いた「袈裟御前」がある。これは男根を愛液で塞いでしまい、行き場を失った精が逆流して死に至ると言う恐ろしい術であった。逆に男の方にも卍谷帰りの八犬士犬飼現八*10が用いた「蔭武者」(皮一枚残して逃れ、しかし形はそのままで遠隔操作できる)や、伊賀鍔隠れ谷七斗捨兵衛の「肉鞘」(「人鳥黐」と呼ばれる高い粘性のある精液を乾かして身代わりとする)が有る。
家康の六男松平上総介の元へ送り込まれたくノ一の内、お麦の「風こだま」だけがやや毛色が違って交わった相手の本音を話させる尋問術であった。外記が最後の切り札として妻のお貞に授けた「倒蓮華」は男性に女性の性感を体験させるもので、上総介は女ごころの持つ無害な存在となる。甲賀出身の陰間絵太夫右近*12が神子上背鬼に仕掛けたのもこの応用であろう。
その肆 淫術
そもそも忍法は菊水党*13の「色の道」への飽くなき探求(それだけではないですけど)が下敷きになっている。よって忍法の基本は淫術であると言っても良い。主だったところは各稿にて挙げたと思うが、漏れたモノについてまとめておく。
本能寺を巡る四家の諜報戦*5に置いて、明智配下の甲賀くノ一お霧は男に精を漏らさせ、毛利のくノ一お刑は肉体の突起部分を硬直させた。
能登のお杉*11は男を誘い込む『食虫花』と化し男の精神を胎児へと引き戻す。これに捕らわれた男は女の陰部へと頭を埋め陶酔する。甲賀三天狗の一人車川天童と対峙したお染*14は「太陰体」によってこれと似た様な変化を見せたが、こちらは逆に女性への恐怖を植え付ける効果を与えた。
逆”淫術”という点では同じく甲賀三天狗の一人籠坂新五郎と対峙した朱美の用いた「卵液逆流れ」は交合中に愛液を逆流させ老化した姿を見せる。箒天四郎による「邯鄲」の術の元はこうした忍法の延長として生まれたのであろう。なお、精卵を用いた過去知については宗意軒が弟子のベアトリス*15に行わせた「精卵逆のぼり」がある。
相馬大作こと下斗米秀之進の師として何度か登場している平山行蔵*16であるが、実は伊賀同心として忍法までも使えた。彼の「女精陽転」は交合によって女から精を吸い性器を女陰に変える。無骨な彼が絶世の美女に見えるのだから幻術も込みだろう。そして彼と交わった者は副作用として時に互いが絶世の美女に見えて吸い付けられてしまう。それにしても、こんな忍法を会得していたのでは生涯妻帯しなかったのも当然であろう。
*1 虫の忍法帖
*2 捧げつつ試合
*3 くノ一紅騎兵
*4 くノ一忍法帖
*5 叛の忍法帖
*6 忍者梟無左衛門
*7 忍法肉太鼓
*8 忍法関ヶ原
*9 倒の忍法帖
*10 忍法八犬伝
*11 忍法忠臣蔵
*12 逆櫓試合
*13 忍法創世記
*14 くノ一地獄変
*15 彦左衛門忍法盥
*16 大いなる伊賀者