忍法魔界転生・換装 巻の壱

 前回と異なり章題は漫画版に準じます。

§1 地獄篇第一歌

 武蔵を訪ねて島原へ来た由比正雪が宗意軒の魔界転生を見てそちらへ鞍替えする次第。

 島原の惨状はやはり絵の方が迫力が出ます。連載当時は戦争体験者がたくさんいて、戦場跡の悲惨さは描かなくても通じたでしょうけど。武蔵(「剣鬼喇嘛仏」)や知恵伊豆(「Y十M」)など、以前の作品で登場した人物造形をそのまま踏襲するなど、相変わらずのこだわりを感じます。

 原作では必死に売り込む正雪を無視して木刀を削っている武蔵。そこに弟子の少年が「森宗意軒を見た」と言って駆け込んできます。が漫画版はここをバッサリとカット。正雪が案内されるのは宗意軒を探している最中の武蔵。

 島原で転生を遂げるのは原作では荒木又右衛門と天草四郎なのですが、漫画版では史実準拠(又右衛門は天草の乱の時点ではまだ存命)で天草四郎のみ。追手の大部分はこの甦った又右衛門が切り捨てるので、漫画版では攻撃者は正雪を案内していた二名の足軽のみ。これを退けるのは宗意軒本人と相成りました。

 実は原作で疑問だったのが武蔵が又右衛門を認知できたこと。荒木又右衛門は鍵屋の辻で有名になりましたけど、果たして武蔵との面識があったかどうか。(可能性があるとすれば「寛永御前試合」のときでしょうけど)

 武蔵は黙して動かず、正雪は喜々として宗意軒への弟子入りを志願します。原作では正雪がどのように宗意軒に売り込みを掛けたかは語られませんが、漫画版では原作における武蔵への口上をそのまま転用しています。この辺は両方を見比べると面白さが倍増かも。

§2 地獄篇第二歌

 田宮坊太郎の転生次第。

 第一話で引きとして登場した坊太郎。原作では坊太郎が一人で柳生如雲斎と会っているところに正雪がお類を連れて現れるのですが、漫画版ではテンポを重んじてか門前で出会って三名まとめての会見に変更されています。

 この入れ替えにより事情説明が坊太郎本人から正雪に変更。内容は全く同じなのに胡散臭さが前面に出ています。そこで正雪を切り捨てようとする如雲斎とそれを阻止する坊太郎という原作に無い絵になるシーンが展開されます。

 絵になると言えば、坊太郎が忍体(この名称はまだ漫画版には登場しませんが)に入る場面。お類の変化の様子が見事に表現されています。

§3 地獄篇第三歌

 武蔵、魔界に入る。

 前回と同様、熊本へ向かう宗意軒が引きとして描かれ、逆に正雪が如雲斎を熊本へ誘う場面がこちらへ回されています。原作は新聞小説だったので、こうした時系列を前後する描写はし難かったでしょう。

 武蔵に会おうとする如雲斎の前に立ちはだかるのは漫画版では出損ねた伊太郎。そしてこれを退けた如雲斎の前に現れた黒幕宗意軒。第一話で伊太郎が登場しなかったために、伊太郎から聞かされたという島原での遭遇話はカット。この辺りの気配りは細かいですね。

 如雲斎が天草四郎の名を聞くのは武蔵の儀式が済んだ後。あわや一触即発というところで引き。

§4 地獄篇第四歌

 徐々に原作と漫画版のボリュームが合わなくなってきます。

 如雲斎に対して髪切丸を仕掛けようとする四郎ですが、これは宗意軒に制止されます。四郎のキャラが原作と較べて稚気が多めに造られているようです。

 江戸へ向かう宝蔵院胤舜。原作にあった尾張柳生をを訪ねる場面は省略。

 胤舜にちょっかいを出す四郎と漫画版初登場の荒木又右衛門。原作では笠を取らず素顔を晒さないのですが、漫画版では第一話に出損ねた事もあっての初お披露目。そして胤舜対四郎の戦い、の直前で次回へ。

 この分だと地獄変は第五歌では収まらなくなりそうですが、さてどうするのでしょうか。主人公はまだ第二話で後姿、しかもト書きで見切れるという扱いの悪さ。まあ原作どおりの展開なのですが、良く我慢していますねえ。

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