青春探偵団

 山田風太郎ミステリー傑作選6天国荘奇譚に収録。

究の壱 天国荘と青雲寮

 短編作品を漫画化するというコンセプトなのでなにも忍法帖と限っていない訳だが、それにしてもこの選択は驚いた。それしても、何故「青春探偵団」なのか。さらに6話あるうちでこの「砂の城」を選んできたのは何故か。それ以上に、この作品は版元の講談社からは出ていないはずなのに、編集はよく許したなあ。

 というような諸々はさておき、この作品を語る上ではそのアダルト版というべき「天国荘奇譚」についても少し触れておく必要がありそうです。「天国荘」はおそらくは作者の青春時代をベースに構築されており、男子生徒しか登場しません。まあ作者の若い頃にはこれが普通だったのでしょう。対して「青春探偵団」では戦後という時代設定もあって共学となっています。

 但し、青雲寮の秋山小太郎の部屋の屋根裏には隠し部屋(これを天国荘と称する)があるという設定は踏襲され、時代が変わっても少年の行動はあまり変わらないということでしょうか。発表順を見ると、この天国荘を巡る攻防が最初と最後を飾っていて、作者の思い入れが感じられます。

 改めて原作を読み返してみて、砂の城が選ばれた理由がいくつか見えてきました。一言で言えば、この話だけが学園の外を舞台にしていること。個人的には天国荘を巡る攻防がミステリー小説的で好きなんですが、多分絵的にはまり難いでしょう。

 男子生徒は元の四人(作者とその悪友がモデル)から一人へって三人。知性派(秋山小太郎)・肉体派(大久保大八)・ムードメーカー(穴沢早助)というバランスの取れた配置となっています。さてこの配置だと三人目がどうしても影が薄くなりがちなのですが、漫画版はうまく三名を動かしています。三名それぞれに見せ場が作れるという点も話が選ばれた要因だと思われます。

究の弐 孔雀寮奇譚

 「天国荘」になかった要素がこの女生徒たち。男子三名に対応するように三名を配していますが、組み合わせが知性派同士・肉体派同士という具合に割りとオーソドックスです。

 知性派の美少女織部京子はヒロインポジション。漫画版だと髪型が三つ編みなのがレトロで良いです。そして肉体派の竹ノ内半子。原作だと十六貫三百というおデブちゃんなのだが、漫画版はそこまで太めには書かれていません。まあせがわ氏は柳生忍法帖でもやはり太目のお鳥を(丸いなりに)可愛く書いた実績が有りますから。悪漢を投げ飛ばして逃げる時に涙目なのが特に良いです。三人目の伊賀小笹は何処のくの一?という名前ですが一番地味。アクション大目なので女性陣にまですべて見せ場を割り振るのは流石に無理か。

 さて三人とも水着はワンピースタイプ。セパレートタイプ、いわゆる”ビキニ”の発表は昭和21年なのですがまだ日本では一般的ではないのか。(山風作品にはビキニ環礁での水爆実験で被曝した第五福竜丸にまつわる短編もありますけど)

究の参 原作と漫画版と

 さて、本題の原作と漫画の比較ですが。まず視点を高校生側に集中したために、冒頭の犯罪描写がありません。そのために原作を未読の読者にはなにが起きているのかわからずにハラハラ感が増しているはずです。

 原作ではいきなり海水浴に来ていますが、単発モノなので学園でのエピソードを追加して、さらに高城千鳥を新聞で紹介して伏線にしています。原作では何処に泊まっているとか言う説明は一切無しですが、漫画版では早助の実家に押しかけたという設定を付加しています。

 原作では女装した小太郎がうまく逃げ出して警察をつれてくるのですが、漫画では颯爽と駆けつけて悪漢たちをぶちのめしています。その際に早助が陽動を仕掛けてその奇襲を助けています。警察を呼んでくる役目も、地元ゆえ地理に明るいであろう早助に振られます。

 警察が駆けつけて事情聴取の末に端折られていた事件の全容が明らかになります。大八の悪戯で悪漢が喚いた謎の悲鳴の意味もここで解明されます。死体の上に寝そべっていたことに気付いて青くなる大八がオチ。原作だとそのまま気絶してしまうんですけどね。ラストの三組のカップルの仲むつまじい様子は別の話から持ってきたもの。この辺の切り張りもうまいですね。

 海岸で露天映画祭というのもこの時代ならではでしょう。今なら多少の田舎でも映画館ぐらいありますからねえ。それ以前に映画くらいではもはやそんなに人が集まらないか。砂場をめぐる攻防で「リショーバンみたいなこと」というのはカットされています。まさか政治問題を回避したというわけでは無く、単純に今の読者には意味が通じないからでしょう。

 それにしても吉江先生直伝の美容体操というのがどんなものなのか興味がありますね。

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