スポーツ国際戦略私論 特別編 スポーツの社会貢献

 

§1 野球界とサッカー界

 まずは3月11日に起きた東日本大震災(これを書いている本日にこれが正式名称となりました)への日本プロ野球界とJリーグの対照的な対応について。

 既に開幕していたJリーグは翌日に予定されていた第二節を取りやめて、再開は四月末に成る模様。その間に予定されていた代表選も、対戦相手が来日を取りやめたこともあってJリーグ選抜とのチャリティマッチと成りました。リーグ戦の最中に代表選手の招集を受け入れてくれたヨーロッパ諸国には感謝してもし足りません。

 一方のプロ野球はと言えば、被災地にチームを抱えていたパリーグが早々に開幕を延期したのに対して、セリーグは当初一カード分だけの延期に止め、ナイターの自粛要請にも応じませんでした。サッカー界が観客の足を気遣って再開を大幅に遅らせたのとは対照的です。

 両者の違いは、Jリーグがトップダウン式の組織であるのに対して、プロ野球が各球団の自立性が高いことが大きいでしょう。つまりはJリーグのチェアマンが最高責任者であるのに対して、日本野球協会のコミッショナーは単なるお飾りであると言うこと。野球界のプロアマの対立と共に、長く問題視されながらも一向に改善されないのは、球団のオーナーの中に本来ならこういった問題に苦言を呈すべきマスコミが入っていると言うこと。

 サッカー界はこれを他山の石としてプロ化に際しては球団が企業の下部組織にならないように対策を講じていました。球界の盟主と同じ母胎から派生したサッカー界の名門は、現在では二部に低迷していますねえ。野球界も、球団名に都市名を関するなど多少の改善を試みていますが、今のオーナー制が覆らない限り前途は暗いでしょう。

 日本サッカー界がFIFAという外部の上位組織を持って常に外向きであるのに対し、日本野球機構はアメリカの野球界を模倣するが故に一国主義に陥っています。今回の開幕騒動は野球界の経済第一主義がこういった非常事態において露骨に現れた結果と言えましょう。

§2 個人献金

 個人の年収を較べれば、Jリーガーよりもプロ野球選手の方が高給取りだと思われます。その所為もあってか、個人での義捐金は野球界の方が盛んであったように思われます。と言っても、目立ったのはイチロー選手のような海外組。まあメジャーリーガーの方が高年俸であるし、海外にいる為に金銭以外の支援が難しいと言う事情もあるでしょう。(イチロー選手に関しては神戸での経験が大きくものを言っているのでしょう)

 さて高額寄付と言えば、ゴルフの石川遼選手の”今年度の獲得賞金全額”には驚くと言うよりも胡散臭さを覚えました。まず第一印象が、全額寄付して生活費はどうするのか、いや税金はどうやって払うのか。まあ過去の貯金を取り崩せば済むのでしょうけど、よくよく考えると、賞金の全額は彼の年収のすべてではないのです。おそらくは別に高額な広告出演料が残されているはずです。もちろんそれらも全部はき出せと言っている訳ではありません。単にこういう寄付行為が自己宣伝になっているのではないかと言う疑念が浮かんでくるのです。

 プロスポーツ選手は、自身のプレーによって社会に貢献すればいいのであって、身の丈を超えた過剰な金銭供出に走るのは筋が違うのではないかと思います。

§3 自粛ヒステリー

 この震災で様々なイベントが中止になりました。その最たるモノがフィギュアスケートの世界大会です。これなどは実際問題として電力事情の悪い東京で行うことが不可能なことは明らかです。電発トラブルから放射性物質が流出している状況では国内の別の場所で開くのも難しいでしょう。

 これについては会場をモスクワに替えて開かれるようです。準備期間の無い中での開催は大変でしょうが、ロシア政府はソチオリンピックの予行演習と捉えて前向きの様子です。男女ともにメダルが狙える情勢で、国内開催が流れたのは残念ですが、代表選手達は気持ちを切り替えて頑張って欲しいモノです。

 典型的な自粛ヒステリーを感じたのは、自分のブログでも触れた「高校野球を中継するな」と言う某ブログの意見でした。これについてはブログの該当記事を参照して下さい、と言うに留めます。

 節電と関係のない西日本の方々に特にお願いしたいのは、過剰な自粛は日本経済を停滞させ、むしろ復興の妨げとなります。くれぐれも平常心を失わぬようお願いします。

 最後に相撲界について。次の五月場所を東京で開けるかどうかは正直微妙です。いっそのこと、五月場所を大阪で開いて、その収益を復興支援に提供すると言う辺りが落としどころではないでしょうか。あるいは、その頃には原発トラブルもある程度終息しているでしょうから東北での巡業公演から出直しというのも有りかも知れません。

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