スポーツ国際戦略私論 13 ソチ五輪観戦記

§1 ”金”は金なり

 ソチ五輪を見て率直な感想は、見もふたも無い話ではあるがやはり冬の競技は金が無いと勝てないと言うこと。

 冬の競技は特に金が掛かる。その上に、競技そのもので金が得られるわけではない。その数少ない競技がフィギュアスケートで、アイスショーなどで充分なリターンが得られる。そうした自給自足体制があるが故に日本のフィギュアスケートは強い。

 女子アイスホッケーは、今回奇跡的に出場を果たしたが、プロリーグの無い現状ではオリンピックでの
定職・固定給の無い状況では、試合のたびに収入が減り、勝てば勝つほど困窮してしまうと言うジレンマ。競技を職業に出来るのは一番良いのだが、あらゆる競技が国内でプロ化できるわけではない。

 利益を追求する企業チーム頼みでは景気の変動に左右されて計画的な育成強化は望めない。東京五輪を6年後に控えるこの状況で、国による支援政策の策定が求められる。

§2 スポーツ庁と特区

 やはりスポーツ行政は一元化する必要がある。

 常識的には文部科学省の下におくのが無難なのだろうけど、社会人の選手の支援と言う点からみれば厚生労働省の管轄。また裾野を広げる為の運動施設を受け持つのは国土交通省。上手くやらないと利権の奪い合いになってしまうのが目に見えている。

 口を出すならそれ以上に金を出す。金を出さないなら口を出さない。のが原則。今大会でメダルが増えたと言っても、半分は個人の力で取ったもので、国としての育成が実ったわけではない。この結果を上手く生かさないと、後に残るものが無い。

 一案としてスポーツ特区を各地に設けること。例えば、カーリングが常呂町と言う小さな町で盛り上がってきたように、地方自治体単位で特定のスポーツを集中的に行わせると言うのはどうだろうか。何かと批判の多いハコモノ行政もこう言うやり方なら理解が得られやすいだろう。

§3 マスコミ対策

 前々から気になっていたのだが、大きな国際大会の前になると特集番組が組まれて、代表選手の分析をしたり如何にすれば勝てるかなんて戦術論が語られる。視聴者の興味を引きたいのだろうけど、敵に見られたら不利にならないだろうか。どうも日本はこの手の情報戦術が稚拙すぎる。

 更に今回はメダル確実と見られた選手の大失敗があったが、これなども過熱報道が余計なプレッシャーを与えた結果では無いか。こう言う馬鹿なマスコミから選手を守ることも必要だと思う。

 大本命がこけた裏でノーマーク選手が相次いでメダルを取ったのは、なんとも皮肉。

§4 復活と快挙

 ノルディック複合での20年ぶりのメダルがあった。日本が勝つとルールが変わると揶揄されたが、ジャンプでリードしてクロスカントリーで逃げ切る。と言う得意手段が通じなくなったゆえの低迷からどちらでも戦える、世界標準に近い選手をようやく育成できたと言うことだろう。このクロスカントリーの強化が単にノルディックだけでなく、他の競技(通常のスキークロスカントリーやバイアスロン)にも援用されないと意味が無い。

 ジャンプ競技でレジェンド葛西の史上最年長41歳での銀メダルがあった、かと思えばスノーボード・ハーフパイプでは十最年少の十五歳の銀メダリストも生まれた。スノーボードパラレル大回転ではアルペン史上初の女性メダリストが生まれた。アルペン競技全体でも二個目と言うまさに快挙。

§5 後方支援

 八個のメダル(長野の十個に次ぐ、国外大会としては史上最高)の内、七個までが雪上競技と言う、全体として雪上競技の大健闘が光る大会だったといえる。なのだけど、半分は公的支援ナシに鍛えてきたいわば自弁のメダルであって、育成強化策の勝利でないことを自覚すべき。

 氷上競技の不振に橋本聖子団長が「責任を感じている」らしいのだけど、団長の古巣でもあるスピードスケートではとにかくオランダが強すぎた。ショートトラックはとにかく力不足。そしてフィギュアは、男子に関しては史上最強で言うことなし。女子はプレッシャーを掛けすぎた。

 単に遠征の纏め役に過ぎない選手団長が責任を感じてしまうこと自体が余計な話だと思う。そんなことより、選手がエコノミーで移動し、役員がビジネスに乗ると言うこの金の掛け方の間違いを是正すべき。はっきり言って役員なんか最小限でいい。自分の面倒を見れない選手は本番で勝てない。

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