スポーツ国際戦略私論 11 ロンドンオリンピック観戦雑感あるいは祝メダル獲得数最多

 

§1 メダルの数と色

 参加することに意義がある。とは言われますが、やはりメダルの獲得はその国のスポーツレベルを指し示す一つの指針であることも確か。 

 日本のメダル数38個と過去最多だった八年前のアテネ(37個)を超えました。とは言え内訳を見るとアテネでは金が16個なのに対しロンドンでは7個と半減。その分、銀や銅が増えての最多という結果はどのように評価すべきか。

 序盤の柔道の不振がまず大きい。階級別に分かれていて日本としてはメダルを量産しやすい種目なのだが、男子はついにメダルなし。さて加納治五郎先生はこれを見てなんと言うか。日本柔道の衰退を嘆くかそれとも柔道の国際化を寿ぐか。

 逆に大成功だったのが競泳陣。特に評価すべきなのは男女のリレー種目でのメダル。女子メドレーが銅、そして前回銅だった男子メドレーは一つ上がって銀。メドレーは各国の競泳の水準を最も端的に表すモノですからこの種目でのメダルは競泳日本を強烈にアピールしたでしょう。更には若手の台頭。三連覇を目指した北島選手が個人種目で敗れたことを併せても、世代交代が着実に進んでいると言えるでしょう。これに失敗してメダルから遠ざかってしまった種目も多いですから。

 サッカーは金メダルを目指した女子が残念ながら決勝で宿敵アメリカに敗れて銀。しかしW杯優勝が奇跡でもフロックでもなかったことは証明できたでしょう。一方誰も期待していなかった男子が緒戦でメキシコを破っての大躍進ながらメダルに届かずに四位。準決勝で負けた相手がかつて銅を取ったときに破った相手メキシコと言うのが因縁めいています。そのメキシコは決勝でブラジルを破って初の金メダル。ブラジルはまたしてもオリンピックの金を取り逃しました。まあ次はブラジル開催なので、そこで狙ってください。

§2 復活の…

 今大会は過去の栄光を取り戻した種目が多かった。かつて日本のお家芸だったと言うレスリング。今やレスリングと言えば女子のイメージが強いですが、ソウル以来の金メダルがもたらされました。女子については二階級での三連覇、そして階級が無くて今まで出られなかった悲劇の世界王者の最初で最後の金メダル。残念ながら最重量級では初めてメダルを取り逃しましたが、どの種目でも重量級は課題として残るでしょう。七個の金メダルの内4つがレスリングと言うのはもの凄いことです。

 その重量級でメダルを取ったのがボクシングのミドル級。あるいはこのあたりが日本人が戦える上限なのかもしれません。

 そして復活と言えば東洋の魔女。かつては常に金メダル候補だった女子バレーもメダルから遠ざかって久しく、その称号もいまや中国にさらわれた感がありました。しかし今大会はその中国を破り、さらにライバル韓国をも破っての銅メダル。これが東洋の魔女復活となるかどうかは今後の期待。

§3 個人と団体

 日本人はやはり団体競技向きなのか、個人競技でも団体での戦いに高い結果を残しています。個人では全く及ばないスプリント種目でも、リレーと成れば男子400mでは四大会連続の決勝進出。今回は準決勝で順位での通過という大活躍でした。前回が銅と言うことで世代交代がどうなるかが注目されただけに今後が期待されます。

 同じく個人ではメダルに届かなかった卓球も女子が団体で銀メダル。また日本ではマイナーなフェンシングやアーチェリーでもメダルの獲得がありました。特にフェンシング太田選手の準決勝での粘り。「これが個人種目なら負けていた」と言う発言が日本の団体競技の強さを象徴したものでしょう。

§4 国籍問題

 今に始まったことではないのだろうけど、今大会は国籍を替えて臨んだ選手に目が向いた。日本からカンボジアに国籍を替えてマラソン出場を目指したお笑いタレントが居た所為だろう。

 国籍を替えてまでオリンピックに出たいのか、と言う疑問はあるだろうが、これは話が逆で国籍がオリンピックの為の単なる枠でしかなくなってきていると考えればある意味喜ばしいことである。

 卓球では多くの選手が元中国人を代表に加えていると言う異常事態。これは卓球個人戦の枠が三人から二人に減らされたことに原因があるのだろう。中国によるメダル独占が不可能となり、他国にもメダル獲得のチャンスが巡ってきた。一方で国内の代表先行はより厳しくなる。この国籍変更が単なる傭兵に留まっては意味が無く、その国の卓球のレベル向上に繋がるような環境整備が求められるだろう。それを怠って毎回傭兵を招聘しているようならたとえメダルが取れてたとしてもその国の卓球は衰退するだろう。

 これは卓球に限ったことではない。サッカーでも中東諸国がオイルマネーで人材をかき集めたりしている。人口の少ない国では窮余の策かもしれないが、果たしてこれで国内の競技レベルが上がるものやら。これは今後も続く重要な課題だろう。

§5 判定問題と無気力試合

 さて様々な種目で問題となったのが審判の判定。特に柔道ではジュリーと呼ばれる審判委員の判断で旗判定が覆ると言う異常事態が起こりました。あれ以降、各選手が畳の上の審判ではなくてジュリーの方を見て試合をしている感が否めません。「柔道は格闘技じゃなくて採点競技になった」と言う誰かの発言になるほどと思いましたが、それでも相手が居るということで単純に比較は出来ないでしょう。実際に試合中に怪我をさせられて負けると言うケースも起こりますし。

 これと比較してレスリングのシステムは良く出来ているなあという印象でした。判定に不服がある場合にコーチ陣からビデオ判定を要求するチャレンジ。これは選手本人が同意して初めて行われる訳ですが、判定の根拠となるビデオを場内にも流すと言うオープンさ。柔道は判定が覆っても場内に全く説明しませんからね。チャレンジ以外にも同点の場合後からの得点を優先すると言うシステムも、戦いを最後まで盛りあえる上で取り入れる価値があるでしょう。柔道でも技で並んだら後で決まったほうを勝ちにすれば良い。

 もう一つの問題点がバドミントンに見られた無気力試合だろう。予選通過が決まっていて、順位によってトーナメントの有利不利があるためにわざと負けようとした選手が失格となった。その余得もあって日本人選手がメダルを獲得することになったのだが、後味は確かに悪い。

 しかし失格になった国が、サッカーのなでしこの引き分け狙いはどうなんだ、と矛先をこちらに向けてきたこと。サッカーとバドミントンでのルールの違いもあるのだけど、自分がルール違反を指摘されたからといって、あいつもやっているじゃないかと言う開き直りは一番格好が悪いと思う。

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