スポーツ国際戦略私論 10 サッカー女子ワールドカップドイツ大会観戦記あるいは祝なでしこ世界一

 

§1 祝・世界一

 サッカー女子代表、通称なでしこジャパンが女子ワールドカップ・ドイツ大会にて開催国ドイツそして世界最強のアメリカを破って優勝した。世界ランキング4位で臨んだ大会で、当然にメダルも期待できる実力は備えていたのだが、出発前はそれほど盛り上がっていなかった。まあ男子に比べれば女子サッカーはまだまだマイナー、むしろマスコミがこぞって盛り上がっているのがいささか虫がいいなあと感じる。

 このなでしこの躍進を見ていると、北京五輪でのソフトボールチームを思い出す。彼女たちも決して恵まれたプレー環境ではなかったが、むしろそれをハングリー精神に変えて頂点をつかんだ。途中、リーグ戦で一度負けていること、そしてそこから這い上がって決勝で当時世界最強の米国を破った点も類似している。しかしソフトボールは北京を最後に五輪競技から外されて、復活の見込みも無いのに対して、なでしこには次がある。まずはロンドン五輪のアジア予選だが、さらに次のワールドカップでは前回王者として追われる立場を経験することになる。なでしこたちの今後の成長に注目したい。

§2 育成計画 栄光と挫折

 日本女子サッカーの歴史は30年だと言う。誕生から30年で世界一と言うのが早いのか遅いのかは分からないが、日本サッカー界の成功であることは確かである。やはり「一番を目指すこと」は必要だ。「二番じゃ駄目ですか」なんていっている馬鹿な女は早いところ消えてもらわないといけない。今後、なでしこを目指そうと言う女子サッカー選手の増加が見込まれる。サッカー協会は女子選手の育成強化計画を検討して欲しい。まずはサッカー選手が仕事として成立する環境を整えることだろう。

 なでしこのパスサッカーは世界の女子サッカー界にあっては明らかに異質で、それは素人である自分から見てもすぐに分かる。あのパスの速さと正確さは現時点では間違いなくトップクラスだが、今後各国がこのスタイルを習得してくれば、今の地位は簡単に失ってしまうだろう。それはかつて東洋の魔女と恐れられた女子バレーが、その得意スタイルが世界に広まった結果凋落したように。しかし、なでしこのパスサッカーもまだ完成途上である。更なる高みを目指してより一層の精進を期待したい。

§3 澤穂希

 得点王にMVP。今大会はまさに澤穂希選手の大会であったと言えるだろう。澤選手は(女性の年に言及するのは失礼かもしれないが)32歳。日本女子サッカーとほぼ同年齢で、まさになでしこの象徴のような存在だ。

 世界で勝つためにはこうしたチームを象徴する選手と言うのが必要になる。WBCにおけるイチロー選手のような。しかしながらこういった選手はなかなか狙って作れるものではない。今のなでしこの中には澤選手にあこがれてサッカーを始めた選手も居る。伝統と言うのはこうして作られていくのだろう。

 澤選手本人にはまだ現役を退く意思は無いだろうし、今後の更なる活躍を期待したいが、その一方で澤選手の居なくなった後のなでしこについても考えておく必要がある。

§4 男子と女子

 なでしこのパスサッカーは女子サッカー界では最先端だが、男子サッカーではさほど珍しいものではない。女子スポーツが大きく発展するに際して、男子のプレーを取り入れると言うことは良くある。技術において男子が先行するのは、単純に身体能力の優劣と言うわけではなく歴史の違いだろう。ほとんどのスポーツでは始めるのは男子で、女子は後から参入する。そして後発の利点と言うのも確かにある。芸術系の競技では女子先行というものも無いではないが、それは男子によるスポーツの歴史の延長線上に存在する。

 女子スポーツの不利な点は、妊娠による中断期間が避けられないことだ。優れたアスリートがその子孫を残せないことは大いなる損失であるが、女子選手の妊娠期間が活動休止状態になってしまうことはその構造上避けられない。それでも、以前は結婚妊娠イコール引退となっていた現状を思えば、出産後の復活が盛んになっている事は改善ではあるのだが。

 戻る