自由と平等の相克

2 「民主主義」と言う名の平等思想の欠陥

 さて「民主主義」とは何でしょうか。決して多数決で決めること、では有りません。多数決の正しさを保証する物こそが民主主義の理念です。何故、多数決が正しいのか考えたことが有りますか。私は昔から多数決が嫌いでした。特に自分が少数派に属しているとき、「僕の方が正しいのに」と常に反発を覚えた物です。恐らく多くの官僚達が心に抱いているのもその思いなのでしょう。「優秀な人間は常に少数派であり、多数決と正しさは相関しないと」

 では何故、多数決の原理が有効なのでしょうか。多数決を保証するのは絶対者の存在です。これは西洋ではキリスト教の神に相当します。つまり絶対者である神の前では人はすべて平等である、と言うのが民主主義の根幹にあります。日本にこの民主主義を持ち込むとき明治の元勲達は天皇をその代理に据えました。天皇は絶対者であるが故に厳正中立でなければ成らず、政治の決定に意見を差し挟んではいけないのです。

 此処までは人の受け売りです。平成の世の混乱とは絶対者の不在に理由があるのでは無いでしょうか。戦後、昭和天皇は人間宣言により絶対者の位置から退きましたが、それでも一種の裁定者そしての役割を担っていたように思います。しかし初めから人として即位した今上天皇はその役割を十分に果たし得ていないように思えるのです。

 実は戦前と戦後で、天皇の位置付けは何も変わっていません。違いは軍事力の放棄により大元帥としての統帥権を失ったこと位でしょう。天皇によるコントロールが効かない今の自衛隊をコントロールのは我々国民でなければ成らないのですが、いわゆる九条問題に踏み込むと厄介なのでこれ以上は触れません。

此処まで、「民主主義」なる言葉を何となく乱発してしまいましたが、これは明らかな用語ミスです。「民主主義」なる思想は本来存在せず、democracyの訳語としては「民主制度」と言うのが正しいのです。しかし日本におい「民主主義」なる言葉が氾濫しているため、democracyが思想として一人歩きしている様に思えます。

 「民主主義」とは、制度ではなく文字通り思想の問題です。その原則は多数の暴力を認めず、少数意見をすくい上げること。それが出来ないときはいつでも政権交代が可能な状態であることです。その意味で、江戸時代は民主主義の理念が(偶然にも)存在しました。徳川幕府は(何故か)外様大名と言う野党を温存したため、幕末期に至って徳川家が自浄能力を失って崩壊したとき、薩長野党連合は見事に政権を奪取しました。

 さて、「多数決」の是非と共にかなり以前から抱いていた疑念に「平等」という理想(妄想?)があります。「自由と平等は両立しない」などと以前からしたり顔でぼやいていた私でしたが、その蒙を開いてくれる書として中川八洋著「正統の哲学と異端の思想」 徳間書店を参考として話を展開します。引用は必ずしも正確ではありませんので、文責は総て私にあることを予めお断りしておきます。

 氏は私の疑念を一歩進めて、「平等思想が広まると自由原理が失われる」と断じて居られます。この本の論旨は表題にも有るように、西洋の近代の流れが大きく二分される事を示す事になると思われます。すなわち”自由を尊重する正しい自由主義(真正自由主義)”と”自由を否定する狂ったデモクラシー(民主主義)”の二つの潮流です。そして一般には同列に並べられるアメリカの独立戦争とフランス革命がこの双方を代表する異質なもので有ると指摘しています。

 フランス革命とは、ロシア革命に先行する物で、後者がマルクス・レーニン主義の実現であった様に、ルソー・ロベスピエール主義(氏の造語でしょう)の発露であったと述べています。つまり教祖ルソーの立ち上げた”「啓蒙哲学」教”がロベスピエールらによって実践されたのがフランス革命の実情であったと言うことです。そして、5年で頓挫したこの”革命”が再び再現したのがロシア革命であった、となります。P.19の表1−1に掲げられた両革命の比較図はあまりに似すぎていて怖いほどです。マルクス・レーニン主義は崩壊しましたが、その根元であるルソー・ロベスピエール主義は今だ健在であり、これを正しく評価しないと再生する恐れがあると説いています。

 近代政治思想を大胆に単純化し、@真正自由主義(保守主義)A左翼的自由主義(リベラリズム)そしてB全体主義とに分類しています。米英ではBは排除するコンセンサスがあるので、@Aの対立が鮮明(米では共和党民主党、英では保守党労働党)ですが、日本では@の系統が弱い為、@とAが混在してBと対立する欧州大陸型と言えます。(詳しくは先程あげた本を読んでください)二大政党制を実現するならば、日本に欠けているこの@の勢力を結集・強化せねばならないでしょう。自民党は今までは概ねAに属しましたが、ならば野党第一党である民主党は@を目指さねば成らない筈ですが、その成立過程からしてAに属する事が明白です。で有る以上自民党との政策の違いが出ないのも無理はないですね。

 この3つの流れに対応する経済学が、@ハイエクAケインズBマルクスと成るそうです。今度はこちらの方についても勉強してみたいと思います。

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