人形佐七の事件年譜 後期
前期とは逆に、佐七はあまり現場に出てこない。聞き込みや調べモノは辰と豆六に任せ切り。
お源が年の所為か臥せりがち。
文政七年(甲申・閏八月)
一月六日立春
十二月十七日立春
文政八年(乙酉)
「銀の簪」 (直後と思われる「夢の浮橋」より)
春(一月) 幕府の改革が収まり、神崎が八丁堀に復帰。佐七も江戸へ舞い戻る。辰と豆六にも手紙を出すが、まだ戻らず。
主犯の一人お種は逐電し、再登場して佐七に復讐を試みる。(「化け物屋敷」・「万歳かぞえ唄」)
* 戦後のしきり直し第一作。悪夢のような三年とは戦争を暗示しているのだろう。
春より秋にかけて、連雨止む時なし。
三月七日、烈風。小伝馬町三丁目より出火。通油町・馬喰町等類焼。
「夢の浮橋」 (作中に明記)
三月 佐七復帰から二ヶ月。辰、江戸へ戻る。
「藁人形」 (辰の帰還から程なく)
陽春(三月) お粂の悋気が収まった後、大坂から戻ったばかりの豆六が辰と共にぼやきながら現れる。
「彫物師の娘」 (作中に明示)
五年前の文政三年、伊丹屋駆け落ちした娘お房の遺児お信乃を見るがその背に彫り物を見て引き取るのを止める。その後信乃の父彫り勝が無くなって信乃も行方知れず。
二月 伊丹屋のせがれ徳兵衛、お信乃を探すが二人現れる。伊丹屋の隠居の失明により本物の判定がつかず。
三月 辰と豆六が海老床で二人お信乃の話を聞きつけて調査開始。お信乃を養育していた彫り若(彫り勝の弟分)が死体となって発見される。
佐七、本物のお信乃を見事に探り当てる。
四月二十六日、申刻より江戸大雨、大雷。
「夜毎来る男」 (辰と豆六の会話から江戸帰還直後と思われる)
五月 昨年末に火事で死んだひるの久庵に関わる事件。
「蛇性の淫」 (梅雨明け後も連日の雨)
某月九日(雨天) お源、同じ小屋に出ているお甲を伴う。娘お勝が三日前の六日から行方知れず。辰と豆六に心当たりあり。
「怪談五色猫」
夏の盛り 辰と豆六、季節外れの凧揚げを見る。
『怪談五色猫』の作者篤助が切り殺される。
夏より秋に至り、刃を以て人を威す盗賊行。
「女易者」
秋の初め(七月?) 柳原堤の西の外れに女易者が現れる。
辰と豆六、いかり床に聞き込み。
八月 東南に彗星現る。
「きつねの宗丹」
秋 辰と豆六、牛込見附の神楽床長吉に聞き込み。佐七、宗丹の自演と見抜くが…。
渋川宗丹、殺される。(犯人の偽装に乗らず。殺人を防げなかったことも失態とは言えない。)
八月十二日より十四日、大雨。東海道諸河川洪水、往来上る。
同二十日、巳刻江戸地震あり。同夜子刻より大雨雷鳴、大嵐となり、東海道・東山道の諸河川洪水、往来止まること数日。
「かんざし籤」 (天候から)
秋の長雨 辰と豆六 身投げ女を救う。二人掛かりでやっと止める大力女・鈴本座の女大力小万。
大川端ちかく柳橋の第六天稲荷の境内で若い男の絞殺死体。
かんざし籤を摘発。
「八つ目鰻」
八月下旬 茂平次が解決した池の端中町の隠居殺しについて神崎から再調査を指示される。
以前助けた夜鷹そばの卯兵衛より有力情報を得る。
「お玉が池」
秋 お玉が池近くに俳諧の師匠青蛙が住まう。佐七一家これに師事して俳諧にはまる。
九月 玉池庵青蛙、斬られる。覚えのない連句を頼りに事件を解決する。
「河童の捕り物」 (秋の長雨)
秋 雨が多いため芝居はお休み。
お源の来訪。山口屋の娘お糸に河童が忍ぶと言う…。
秋より冬に至り、疱瘡流行。
「出世競べ三人旅」
師走十四日 木場の大尽伊豆屋市兵衛、明日生前葬を計画。三人で聞きつける。
翌日、伊豆屋本当に殺される。
十二月二十六日、江戸近郊大雪。
十二月二十八日立春
文政九年(丙戌)
「日食御殿」 (内容的に前期ではありえないので、後期の出来るだけ早い時期)
正月元日 お粂手縫いの着物で神崎甚五郎宅への年始。
日食の最中に千代田城へと送り込まれる。将軍家斉の御下命で喪われた密書を探す。期限は七日間。
(日食の時期を調べたけど参考にならず)
* この一件で旗本衆との交際も多くなっただろう。
「新春笑い薬」 (神崎の招待を先の「日食御殿」の一件への慰労と推定する)
小正月 木場の材木屋・槌屋の万兵衛の厄落とし(昨年42才)の快気祝いの席上、招かれていた芸者のお千代が服毒死。
神崎から新年の招待を受けていた佐七駆けつける。
春度々地震。
「凧のゆくえ」
春 辰と豆六、木挽町釆女が原で凧揚げを見物。三日月のお仙の弟千代松、初鹿野家の仲間筆助に殴打される。
その翌日、初鹿野家の若殿亀之助失踪。
二月大雪、二度降。一度目は五日にして積もること壱尺余。二度目は九日なり。
二月十八日申刻、小石川伝通院極楽水辺にて出火。大南風にて、松平播磨守邸、その他武家屋敷・町屋多数焼失す。
「雛の呪い」 (ひな祭りの時期で空いている最も早い年代)
三月二日 辰と豆六、尾張屋の姪お鶴と出会う。
三月三日 尾張屋の主人と姪のお鶴お亀が毒を飲む。行方不明の総領娘お町の亡霊?
三日後、お亀が美濃屋の息子清十郎と駆け落ち心中。佐七の計らいで内済にする。
佐七、真犯人を挙げ、亡霊の謎も解く。
「艶説遠眼鏡」 (二月に大雪)
某月(「二月からこっち」とあるから翌月以降) 伊勢屋の息子清十郎、遠眼鏡で殺人を目撃し失踪。
「当たり矢」
四月終わり 木場の材木問屋白木屋の茂左衛門の還暦祝い。一つ屋根に佐七も居ながら殺人が起こる。
初七日 一同を集めて犯人を暴く。
「遠眼鏡の殿様」 (五年前の心中事件を辰と豆六が記憶)
五月 佐七たち、元勘定方赤松竹斎に招かれる。昨晩、竹斎が戯れに放った一矢が死体の胸に刺さっているのが見つかる。
「化け者屋敷」 (前年は夏が雨がち、亀八の一件を豆が知っていたことからも帰還直後ではないだろう)
夏 伊丹屋利兵衛、左七を訪問して夫婦喧嘩に遭遇。
お種(「銀の簪」)の復讐。共犯の三人は捕らえられるが、お種はまたしても逃げ延びる。
生人形つくりの亀八、先年公方の似顔人形を作って遠島。
「百物語の夜」 (「お玉が池」の後)
夏の終わり 隠居の旗本・篠崎鵬斎の催す百物語に神崎と共に佐七一家も招かれる。
佐七「お玉が池」の物語を披露。席上でお化け師匠喜三治が殺される。
六月二十九日、申刻より酉刻にかけて江戸大雷。
七月九日暮時、神田松田町より出火、南風にて東神田町々類焼す。
「狐の裁判」
七月十日 歌川歌十郎の後妻お縫が相談にくる。
翌日 お縫の実子梅丸が刺し殺される。先着した茂平次、歌十郎の長男千代太郎にやり込められる。
大黒屋喜兵衛による偽金造りが暴かれる。
「鶴の千番」 (続編の「お俊ざんげ」との兼ね合いも含めて)
浜松屋幸兵衛、富くじを買う。ひいきのお蔦の取り巻き四人と山分けの相談。
八月十五日 富くじが当たり、五人組が次々と殺害される。
おかみのお近、佐七に相談する。
秋、地震数度に及ぶ。
「敵討ち走馬灯」
九月八日 勘定方・賀川大橘の七年前の因縁話を聞きつける。その帰路、駕篭を間違えた遠州屋が賀川の代わりに殺される。
「番太郎殺し」
秋もたけて王子滝の川の紅葉も見頃 お源、番太郎殺しの疑惑を持ち込む。
九月二十八日 番太郎小屋の杢兵衛死亡。娘お照のお高祖頭巾の女による毒殺を主張。
「くらげ大尽」 (消去法)
十月六日 佐七、くらげ大尽を見かける
半月後 お源の情報を元に大尽が滞在する柊屋の寮を見張る。大尽殺害。(双子の一方が他方を殺害)
三七日 残る片割れも殺害される。
「清姫の帯」 (「日食御殿」で旗本衆との交際が増えた結果か?)
霜月半ば 佐七一家、空振り出動の帰り道に青山主膳邸の事件に遭遇。佐七、翌日に改めて(かねてよりじっこんの)主膳を訪ねて事件の概要を聞く。
十二月十五日、江戸大雪、積もること七、八寸。
「雪女郎」 (師走なかばの雪のはげしく降る晩)
馬喰町の髪結い碇床の弥七変死。
犯人捕縛されるが、情状酌量により、翌年二月初午の日に出牢。そのまま姿を消す。
文政十年(丁亥・閏十月)
正月三日、夜九ッ過、葺屋町より出火、…。
正月六日、江戸および関東筋大雪。積雪、平地にて一尺四、五寸、所により二、三尺におよぶ。
一月九日立春
「梅若水揚帳」 (十年前 堀田家のお家騒動時、豆六はまだ上方、昨年二月も雪)
去年 二月十九日 梅若の死体が雪達磨の中から出る。(この時は左七にほかに忙しい御用があって掛かりあいにならず)
七草の日 辰と豆六、緑町の伯母さん(お源)よりおひねりをもらい酒屋で一杯。雪だるまの中から昨年の梅若事件の容疑者の一人玉虫お蝶の死体を見つける。
十三日 お粂、事件解決の糸口となる情報を聞きつけてくる。
桃の節句 肥前岩槻藩に公儀の手が入り、程なくお取り潰しとなる。
正月二十九日、江戸及び近国大雨。東南風烈しく吹て大嵐。遠雷鳴る。
「神隠しばやり」
正月二十七日 お源の遅い年始。花嫁失踪事件について聞く。
二月はじめ 神隠しにあった大和屋のお町舞い戻る。中ほどに読売に書かれる。
「お化小姓」
春 小猿吉之助(以前佐七にこっぴどくやられた経験あり)、佐七を訪ねてお化け小姓についての情報を提供する。
佐七、銀杏茶屋のお園を使ったおとり捜査によりお化け小姓を捕まえる。
「お俊さんげ」 (「鶴の千番」の続編・内容的に後期)
春 御用が暇で上野に花見。すり騒ぎに遭遇する。
三月十二日夜、子中刻、四谷に火事あり。…。
「睡り鈴之助」 (三年前の心中事件を佐七一家が誰も知らないのは一家が江戸不在だった)
三月 非人業平鈴之助、喧嘩の末頭を殴られて記憶を取り戻す。
佐七、車善七よりお小夜鈴之助の事情を聞き、二人を嵌めた犯人を探り出す。
阿武松緑之助・稲妻雷五郎、横綱免許。
四月二十三日午未刻、江戸大雷。
「かくし念仏」
春 お源情報を辰が仲介。半月ほど前から毎日のように両国の広小路に駕籠。
辰と豆六一日おいて両国へ出向くが駕籠は現れず。床屋清吉から聞き込み。
「日本左衛門」
五月 佐七、日本左衛門よりの挑戦状を受け取る。
月照院様御進物、予告どおり盗み去られる。
一ヵ月後、第二の予告状。千歳太夫の身請け金消失。
漢学者・八木鉄山より日本左衛門の素性を聞く。
六月一日、丑上刻、音羽町九丁目より出火。同所残らず焼失。
「二枚短冊」
六月八日 両国の川開き(五月二十八日)から十日ほど。 佐七の家の二階に入った泥棒、左手を残して遁走。裏手の浪人立花靱負の土産と判明。
腕は佐七の留守中に取り返される。
腕の持ち主は判明したが、事件は一月ばかり停滞。
粂寺左仲から連判状を奪い返す。
「笛を吹く浪人」
初秋(七月) 鵜飼弦次郎の許婚奈津女、白癩を発症して変死。弦次郎、たまたま出会った佐七(神崎の役宅で懇意)に相談をもちかける。
「坊主斬り貞宗」 (三月に甲府身延山参り・事件は七月)
三月下旬 辰・豆六を伴って身延山参り。その帰途に甲府勤番帰りの永瀬隼人と同道。
七月中旬 永瀬の妻お縫が訪ねてくる。
永瀬家の騒動と貞宗の謎を一手に解く。
八月十五日、大風雨。
「かんざし籤」
秋の長雨 辰と豆六、身投げ女を救う。二人掛かりでやっと止める大力女・鈴本座の女大力小万。
大川端ちかく柳橋の第六天稲荷の境内で若い男の絞殺死体。
かんざし籤を摘発。
「蝙蝠屋敷」 (七月別件で関与せず「坊主斬り貞宗」の一件と推定)
八月中旬(中秋の名月を過ぎ、お彼岸間近) 佐七、昌平坂で鍬形屋のお露と出会う。蝙蝠屋敷の事件について再調査を始める。
せむし男からの投げ文。鍬形屋へ駆けつけるが、お露襲われる一命は取り留めるが放心状態に。
九月 お露の叔父新兵衛、身延参りに出立。下手人、佐七の仕掛けた罠に嵌る。
「どもり和尚」
十月 お源、寒松寺の了泰和尚のどもりを報告する。
先月の茨木屋幸兵衛の娘殺害事件を解決。
「浮世絵師」 (後期)
下谷車坂の御用聞き車坂の長吉22才。父長兵衛が亡くなって跡を継いだだばかり。
十月二十日 浮世絵師・猫々亭独眼斎、上野山下の見世物小屋に現れ、市川鶴代にモデルを依頼。
佐七一家、独眼斎が立ち去った後に入れ替わりで登場。
翌二十一日 寿恵次、鶴代の身代わりで独眼斎を訪れる。翌日死体となって発見。
捨松殺しで長吉から呼ばれる。一連の事件が読売で江戸中に知れ渡る。
十一月十五日 佐七、上野へ足を伸ばす。一座の玉枝失踪。大雪。
十一月二十日 法印の日道、佐七を訪ね重要な情報を提供する。
十一月二十五日、水戸藩小石川邸焼失。『大日本史』の稿本、この火事の災に罹る。
十一月二十六日、下谷山崎町に火事あり。
十二月三日、江戸及び関東筋大雪。積雪尺余り。
十二月六日、戌刻、堀江町二丁目より出火。…。
十二月十二日、小石川富坂出火。類焼あり。
十二月十九日、江戸大雪。
十二月二十日立春
「雪達磨の怪」 (師走に雪の多い年)
師走 雪が降り続く。
辰、海老床でお神楽紋次の話を聞く。茂平次、現れて紋次を捕縛する。
左七、真犯人を指摘。面目を失った茂平次、頭を丸める。
文政十一年(戊子)
正月六日、神田豊島町より出火。…。
「拝領の茶釜」 (雪の多い冬の年明け)
暮れから三日と明けず降り続き、江戸の至る所に雪だるまが作られる。
正月 佐七一家 浅草での捕物で泊りの朝帰りに雪だるまを壊して回る男とそれをつける謎の浪人と遭遇。
帰宅すると宝屋の番頭からの相談。質草の茶釜を泥棒に盗まれ、質草の主が難題をふっかけてくる。
盗まれた茶釜は雪達磨に隠されていた。
「福笑いの夜」
正月八日 大雪 福笑いの最中に殺人。首だけが見つかり、胴体が行方不明。
正月十七日、江戸大雪。
下旬(事件から二十日ほどすぎて) 風邪で寝込んでいたお源の遅い年始来訪。妙椿の離魂病の話を聞く。
翌日 善祥寺を探索し、二体の死体(一つは生首とついになる首無しのもの)を発見する。
二月五日、暮六時、神田多町弐丁目湯屋より失火…。焼死百余名に及ぶといふ。
二月二十一日夜、子刻より南大風。雷鳴大雨。
「お時計献上」 (お粂の様子から後期)
二月 からくり甚内殺害される。
「鼓狂言」 (「日食御殿」の後」)
二月末 神崎を通じて再度将軍からのお召し。大奥の事件を解決する。
「すっぽん政談」 (「雪達磨の怪」の後日談)
月形屋と花形屋の元祖争い。
春 すっぽんに指を食いちぎられた娘の話を読売で知る。
調べに出ると茂平次とかち合う。
四月二十三日、申刻より江戸雷鳴。夜に入りて大雨。
「怪談閨の鴛鴦」 (巳年生まれが今年二十)
骨が折れた事件が解決した翌日。辰と豆六、金棒引きの源さんから草双紙「怪談閨の鴛鴦」にまつわる話を聞きつけて佐七に報告。佐七は本を売るための宣伝だろうと取り合わなかったが…。
夏霜枯れ 花鳥人形の殺人起こる。
七年前牢死した抜け荷買いむかで組の張本人・駿河屋清蔵の娘お百の復讐。
「緋牡丹狂女」 (「坊主斬り貞宗」の後日)
六月八日 布袋屋四郎兵衛、謎の和尚(随念)に連れ去られる。佐七、呼ばれる。
六月九日、戌刻より江戸雷鳴。同十日、未刻より申中刻まで江戸大雨。所々落雷。さらに十一日、申下刻より戌刻まで江戸また雷鳴、大雨。
六月三十日 四郎兵衛救出。しかし一味の行方は不明。
七月二日、江戸大雨、雷鳴。隅田川出水して両国橋破損す。同十八日、江戸昼夜大南風。大雨雷鳴。近郊洪水。
七月二十八日 第二の事件。
晦日 一味の下っ端金太・銀造を捕らえる。日当を出して随念の行方を探らせる。
八月二日、隅田川出水。新大橋破損。
八月三日 金太・銀造、随念の尻尾を掴む。
お粂も担ぎ出しておとり捜査を展開。
「地獄の花嫁」
八月十日 瓦版に事件を予見させる記事。
八月十五日の舟遊びでの事故。
翌日 佐七の横やりで性急な捕縛を思い留まる。
「からくり駕籠」
秋の初め 駕篭かきの権三と助十。乗せた客がお武家から小娘に変わる。
翌日 相談ついでに忘れ物の般若の面を佐七に届け出る。
翌朝(九月八日) 観世家の元内弟子の新八が殺害。
佐七、犯人を見逃す。
「三日月おせん」
秋 佐七 茶の湯に招かれる。帰り道、三日月おせんの殺害に出くわす。
おせんの実父が先代の首斬り赤右衛門(=山田浅右衛門)と判明する。
「妙法丸」
十二月(浅草の年の市三日目) 松下庵久斎惨殺され、井戸の中で見つかる。辰と豆六が行き会わせ、神崎の計らいで尋問に立ち会う。
文政十二年(己丑)
一月一日立春
「万歳かぞえ唄」 (昨年暮に雪無し。お粂が思い出すのに時間が掛かった)
左七一行、昨年暮に舟で向島からくだる途中斬られて落ちた若者を拾い、本所緑町のお源に預ける。
辰と豆六、男の記憶に残るかぞえ唄を江戸中で流すおとり万歳を繰り広げる。
正月十八日、大雪。
一月二十九日 吉五郎お種捕縛。
二月十七日、大風、音羽より出火。…。
「女虚無僧」 (お源の病・後期から消去法)
春 お粂、お源の見舞いの帰りに寄り道して、油町喜久屋の娘お菊と出会う。彼女の身代わりを買って出て捕らわれる。
「殿様乞食」
春 辰と豆六、柳原堤にある空家の化物屋敷から飛び出してきた女を目撃。屋敷の中で死体を発見。
駆けつけた佐七、殿様乞食と見抜く。辰の活躍により事件解決。
三月二十一日、大火。翌二十二日朝鎮火す。(文政の大火)
「浄玻璃の鏡」 (佐七が別行動・後期)
去年の秋 井筒屋のおかみ 浄玻璃の鏡の密告で首をくくる。
浄玻璃の鏡の騒動に付いて、佐七は初耳だが辰と豆六は耳にしていたらしい。
佐七、浅草でお徳(三味線堀の杵屋於菟久)と出会い相談を受ける。
この春、お徳亭主の新之助が大患いをして、元旦那との関係が浄玻璃の鏡に密告される。
「猫屋敷」 (状況的に後期・消去法)
七月十一日 神崎の紹介で仙石十太夫の妹萩江の夫緒方伊織の異変を調査する。
伊織、妻を切って失踪。
「嵐の宿」 (岡部が居るので後期)
秋 辰、雷に怯えながらの使い。雨宿りに入った先で留守を頼まれて死体を見つける。佐七と豆六を呼んで戻ってみると死体は無く、事件そのものが無かったことにされた。
翌朝 辰が見た死体が隅田川の川口で見つかる。
八月二日、江戸大雨、大雷。…。
「風流六歌仙」
八月八日 茨木屋鵬斎、ひいきの六歌仙の似顔絵をハトに付けて飛ばす。
翌日 六歌仙の一人幇間桜川鳶平殺害され似顔絵が置かれる。
更に翌日 俳諧師葛野蝶雨、画工宮川采女殺害。
八月十五日 懸賞の期限、佐七犯人を暴く。
最後の一人狂言作家桜田晴助
「女祈祷師」 「猫と女行者」 (類似の「女祈祷師」との兼ね合いで後期)
秋の彼岸過ぎ 京からきた女祈祷師立花采女殺される。
八月下旬、大川通出水。
「丑の時参り」 (消去法・展開から見て後期)
秋の長雨 辰と豆六、海老床で丑の時参りの女の話を聞く。
「たぬき女郎」 (女がらみでお粂が噛み付かないから後期か)
残暑のきびしい秋 新宿巴屋の女郎お咲にたぬきが憑く。
六月晦日に二百両を持ち逃げした四谷の米問屋豊島屋の番頭才三郎の死体が発見される。
当時、佐七に他の事件が入ってうやむやになっていた。(「猫屋敷」の一件と想定)
十月(才三郎殺害から三ヶ月あまり後) 豊島屋の番頭利兵衛、才三郎の遺族の証言から死体の別人疑惑をもたらす。
「ろくろ首の女」 (「神隠しにあった女」の後)
十月二十日の晩 芝明神の門前中町の刀屋伊丹屋の番頭利助の訪問。
四年前の押し込み強盗による強請り。豆六、同行していた妾のお亀に見覚え有り。
伊丹屋重兵衛、妾とともに殺害される。
十二月十五日夜戌刻、江戸地震。子中刻、雷鳴大雨。
文政十三年/天保元年(庚寅)
「相撲の仇討ち」 (消去法)
正月 人気力士白藤長吉、場所を前に失踪。疑念をかけられた横綱仁王権太夫の妻お蔦、佐七に相談する。
一月十一日立春
二月四日、昼方より暮方にかけ、江戸及び近郊大雪。
「いなり娘」 (消去法)
三月半ば過ぎ 佐七一家、雑司ヶ谷の薬草園に出張。道に迷って謎の少女と若衆と出会う。
鬼子母神境内のいなり寿司屋の看板娘お紺が殺害される。
昨年春、秋葉の芳蔵が御金蔵から奪った四千両を取り返す。元北町吟味与力魚崎兵庫之介、謎の一団に連れ去られる。
閏三月晦日、霰降。
「人魚の彫物」
春から夏 お源からの情報。本所横網の金物屋甲賀屋に行方知れずの息子角太郎が現れて、甲賀屋に嫁ぐはずだったお雪は祝言をすっぽかす。
翌日 角太郎が殺される。瓢庵先生が診察。
五月二十八日、未刻より申中刻、江戸大雷雨。数十ヶ所に落雷。
「妖犬伝」 (季節データなし おそらく夏ごろ)
辰と豆六、さくら湯で屋権の怪我を聞きつける。それを問い質す謎の二人連れ浪人。
翌日 根岸お行の松のほとりで年かさの浪人が殺される。
七月朔日、酉刻より丑刻、江戸雷鳴大雨。
「蛇使い浪人」 (消去法・この年は雷が多いので辰が神経質になっている?)
七月十日 辰と豆六、浅草四万六千日の参拝で雷よけのお守りを買う。蛇使いの浪人と遭遇し、鰻のおごりをやり過ごす。
浪人を慕う白痴娘おきんが殺害される。
洗い髪のお葉、佐七を訪れて布袋屋の若旦那綾二郎殺しを告白。
良庵先生、綾二郎を診察しその嘘を見抜いて佐七に告げる。
七月二十八日、午刻より未刻、江戸大雨雷鳴。
「船幽霊」 (大枡屋、五年前の大火で財をなす。江戸は毎年のように火災に見舞われているので…)
八月(中秋名月) 佐七一家屋形船に便乗。大枡屋の寮で月見。巴屋のおえんの死体が池で見つかる。
九月二十一日、丑刻より西南風烈しく大雨雷鳴。
「松竹梅三人娘」 (第一回を文政五年と推定し九年目)
蓬莱屋の企画「当世お江戸小町」9年目、一人に絞れず、松竹梅の三人が選ばれる。
三人が順にさらわれる事件により企画は終わりとなる。
「いろは巷談」
十一月 佐七宛の謎の手紙を元に桐座顔見世狂言に向かう。
いろは七人組の連続殺人。
十二月十六日 天保改元。
十二月二十二日立春
天保二年(辛卯)
正月二十三日、夜半より翌日にかけて江戸大雪。
「江戸名所図会」 (最終作の一つ)
春の夜 辰と豆六、本所法恩寺へ使いの帰りにお源のところへよってご馳走になる。ほろ酔いの二人、両国橋のたもとで身投げを見つける。
六月二十日、午中刻より申刻まで江戸大雪大雨。落雷で死者十余人。
七月十六日、大雨。隅田川出水し、両国橋芥留杭小損。
「漂流奇譚」 (初期連載時における佐七最後の事件。高橋作左衛門の死が一昨年)
緒方周斎、油屋七兵衛の体験をまとめた「海外漂流奇譚」を出版。(十三年前)
十一月に大雪。
七日 神田講武所の付近で捕り物。その帰り道、謎の影が落とした葛籠より女の死体。
十二月二日夜戌刻より江戸大雪。