人形佐七の事件年譜 前期
前期の特徴として佐七の浮気性、あるいはお粂の悋気。辰と豆六が頼りないせいもあってか、佐七自ら動く事件が多い。(と思われる)
青字は武江年表で確認した史実。
文化四年(丁卯)
八月十五日 深川八幡祭り。永代橋墜落し死者千五百人あまり。(「鳥追い人形」・「夢の浮橋」)
文化十年(癸酉)
十二月十五日立春
文化十一年(甲戌)
「影法師」 (佐七独身)
夏の土用 越前屋の黒江御殿での事件を解決するも犯人を捕縛せず。
十月より浅草寺奥山へ謎坊主という者出る。(「謎坊主」)
十二月二十六日立春
文化十二年(乙亥)
去十月六日より雪度々降。正月朔日・二日江戸大雪。積むこと二尺。(二月四日まで二十八度に及ぶ)
「羽子板娘」
正月 お玉が池の紅屋のお組を救う。
予め犯人に目星を付けており、売り出しのきっかけとなった。
「謎坊主」 (辰の登場前・発表順では二番目)
春二月 鶉の介十郎の縄張りで起きた事件に助力。謎坊主春雪について。
「孟宗竹」 (辰の登場前)
初午の日(二月の最初の午の日) 僧侶の死体消失。
「開かずの間」
ひな祭りの夜 高輪での大捕物で手柄を立てる。
これを聞きつけてやってきた幼なじみの辰五郎が持ち込んだ品川・福島屋の女郎服毒死事件を解決。
辰、船頭を辞めて佐七の元へ転がり込む。
「嘆きの遊女」
春 飛鳥山の花見でお粂と出会う。
お粂の素性に関わる事件を解決。夫婦となる。
「山雀供養」 (お粂との結婚後の初仕事)
弥生十五日 紫頭巾の女よりの予告状。近江喬四郎の妻数江殺される。
「通り魔」 (豆六登場せず)
五月(これは初稿の発表月) 神出鬼没の通り魔事件。
「山形屋騒動」 (辰と豆六は登場せず)
梅雨時 謎の予告状で呼び出されるも待ちぼうけ。帰り道に永代橋で葛籠の中から女を見つける。橋番の証言で娘の素性が知れるが、家では父親の方が殺されていた。
行方不明の総領息子が捕らえられ、犯行を自供するが…。
「三本の矢」 (辰のみ登場・作中では文化九年、全集漏れゆえの未修正だろう)
両国の川開き(五月二十八日) 神学者・柳川主膳、三人の弟子に弓比べをさせて娘深雪の婿を選ぶ。優劣を判定する前に何者かが矢を持ち去ってしまう。それを追った弟子の一人が自分の矢で刺し殺される。
「犬娘」 (辰のみ登場・作中では文化八年、全集漏れゆえの…)
九月 長雨。柳橋の万八で百物語。長崎屋の手代清七、殺人があると辰に訴える。佐七の到着前に何者かに殺害される。
翌十三日 長崎屋重兵衛の厄落としの生前葬に参加。落雷により大混乱。柩の中から重兵衛の娘お君の死体。
十一月二十八日夜五ッ時ごろ 木挽町より出火、六・七丁目を焼く。
「幽霊山伏」 (辰は出番無し)
霜月から師走 槍突き(辻斬りの槍版)が続発。解決は年明け後。
文化十三年(丙子・閏八月)
一月八日立春
「花見の仮面」 (二年目・お粂との出会いの翌年)
飛鳥山の花見 王子の穀物問屋越後屋治右衛門、盛り殺される。
お粂、潜入捜査の初陣。
初夏から閏八月まで江戸疫癘流行。
「音羽の猫」 (豆六登場以前・母お仙の没後と思われる)
初夏 辰が切った猫の爪の裏側に金が。
偽金作りの一味を捕縛。お銀の妹お勝、逃れる。(「離魂病」に再登場)
五月三日申刻、吉原京町壱丁目より出火、一廓全焼す。
閏八月三日・四日、大雨風。人足寄場脇に停泊中の廻船二艘、碇綱切れて永代橋に衝突、橋をこわす。
「名月一夜狂言」 (豆六弟子入り前)
八月十五日中秋の名月 元勘定方結城閑斎邸で月見。尾上新助殺害。
九月、梅・桜、返り咲多し。
「座頭の鈴」 (豆六登場前)
師走の始め ゲテ物趣味の会。伊丹屋藤兵衛、殺された座頭の鈴を披露。その帰り道に座頭の霊を見て寝込む。
藤兵衛の息子与吉、鈴を持って佐七に相談。
十二月二十日立春
文化十四年(丁丑)
正月十二日暁八ッ時雨中、新乗物町南側より出火。両座芝居焼亡。
「からくり屋敷」 (豆六登場せず)
春 佐七と辰、砂村けんけん松付近の河童堀釣り。流れる葛籠から女の死体と調伏絵馬。
谷中報恩閣にまつわる事件。
五月より七月に至り、江戸併せて諸国大旱。
「螢屋敷」
五月 豆六二十歳。このしろの吉兵衛の紹介で佐七に弟子入り。
螢の季節 和泉屋の隠居所で再び殺人が起きる。隠居殺しの真犯人が判明する。
「猫姫様」
ミンミンゼミの鳴く頃 突然の雷雨。辰、雷嫌いの弱点を豆六に知られる。
柳の下で雷に焼かれた男の死体を見つける。
三年前の偽金・紅梅小判の一味が捕らえられる。
「ほおずき大尽」 (雨の少ない夏)
7月10日 浅草観音のご結縁。海老屋の手代久七に相談を持ちかけられる。
20日過ぎ 甲州路へ逃亡した下手人を追跡、富士講に向かう吉兵衛の助力を受ける。
「離魂病」 (「紅梅屋敷」にて言及・豆六登場後)
お盆の十三日 お粂 ひさご屋で佐七の幽霊(偽物)を見る。
お勝(「音羽の猫」に登場)、佐七にうり二つのお役者紋三と組んで佐七を陥れる。
「蛇を使う女」 (蛇を巡って辰と豆六の諍い・前期)
八月の初め(まだ残暑が厳しい) 内藤新宿にて旗本結城家の用人より調査の依頼。
「鳥追い人形」
八月十五日 深川八幡祭り。人形の中から死体が出る。
「稚児地蔵」 (豆六、この春から…)
九月 辰、海老床で重さんから巣鴨の裏向き地蔵について聞く。(豆六は草双紙に夢中)
佐七、内藤伊賀守のお部屋様から謎解きを求められる。
「狸の長兵衛」 (佐七、首無し死体は初めて)
薬研堀に年の市の幡がはためいている朝 目貫彫りたぬきの長兵衛の首無し死体見つかる。
子狸と名乗る押し掛け女中紅葉。(実は西国のとある大名の家臣の娘)
十二月二十九日立春
文化十五年/文政元年(戊寅)
正月四日八ッ時前後、深川森下町辺出火。
「恩愛の凧」 (豆六が初めて見る江戸の春)
正月いっぱい 島を抜けた権現の吉五郎の探索。
「紅梅屋敷」(三年前はまだ部屋住み・豆六登場済み)
三年前の紅梅屋敷の事件を再調査。悋気を起こしたお粂、裏で謎に触れる。
「巡礼塚由来」(豆六登場の翌年)
春三月 紅屋の娘お通が長命寺の桜で雷に打たれ死亡。(事件後に塚が作られる)
辰、(まだ江戸の花見を知らない)豆六を案内して向島へ来る。
「鬼の面」 (辰と豆六、履物をめぐって口論)
春 辰と豆六、女の死体を乗せた駕籠と行き会う。
三河屋のお家騒動解決。
「春色眉かくし」 (お粂の悋気)
抜荷買いの調査中、謎の万引き女をかばって辰と豆六の疑惑を招く。二人がこれをお粂にとくとくと語るモノだから…。
四月七日申の刻より江戸大雷雨。
「佐七の青春」(豆六登場後。母お仙は既に没)
初夏(四月) お粂と喧嘩して家を追い出される。行き会ったお絹に盛りつぶされて十手捕縄一式を取られる。
淡路屋の抜け荷買いを暴く。
四月二十二日 文政改元
五月一日夜酉の刻頃より江戸大雷雨。本所・深川大雹降る。
「戯作地獄」 (初体験の予告状に振り回される)
五月四日 佐七、初めての殺人予告。
二十日後 二通目。川開きで二件目の殺人。
豆六の取り出した草双紙が解決の糸口に。
「比丘尼宿」 (「離魂病」に言及)
長梅雨 柳橋で御用聞き仲間の顔つなぎ。比丘尼宿でお姫という比丘尼に相談を持ちかけられる。
六月三日申の刻より江戸雷雨。
「ふたり後家」 (珍しく佐七の方が悋気)
夏 お粂の出入りの女髪結いのお竹から黒門町の後家ふたりの諍いについて聞く。
翌日、甲州屋のお栄が殺害される。
「振袖幻之丞」 (豆六登場後。作中では文化十年。全集漏れゆえの…)
夏 三囲土提で心中未遂。男の格好をした女は死に、振袖姿の男は生存。男は口も利けず。
十日後 早耳の三次が心中の一件を書いた読売をお玉が池で売る。
佐七、幻之丞が贋物だと見破る。
「幽霊の見せ物」 (佐七推理ミス=前期・消去法)
七月 品川六間掘銭屋五兵衛の寮で幽霊を演じていた五兵衛の娘お露が殺害される。
銭屋の冤罪を晴らし、贋金作りの一味を捕縛。
八月 朱引(寺社奉行管轄)と黒引(町奉行管轄)を定める。
八月七日、申中刻より酉中刻まで江戸大雷雨。
「本所七不思議」 (作中では十三年だが、それだと豆六がまだいないので一年繰り下げ)
夏から秋の半ばにかけての長雨
辰と豆六、海老床で金棒引きの源さんから本所七不思議について聞く。お粂が御用で呼びに来るが、事件の現場が今聞いた七不思議の一つ。
七不思議の謎を解き、寛政元年に処刑された盗賊神道徳次郎の隠し財産を見つけ、当時捕まらなかった副頭領の紫紐丹佐衛門を捕らえる。
七不思議の真相については公にされず語り草として残される。
九月四日、江戸大嵐。卯下刻、雷今戸に落ち、往来の人死亡す。
「唐草権太」 (茂平次四十才、佐七との年齢差を勘案して。)
九月半ば 吉原の幇間・霧の五郎兵衛の隠退記念の書画会に三人で出向く。
三日後、堀の小稲が殺される。
十月十七日、西北大風、夕八ッ半時過、浅草随身門前曼荼羅堂より出火、花川戸町へ出。…。
十一月八日、暮方より夜半にかけ、江戸及び近国に大雪降る。
十二月二十二日、夜子刻、小川町蜷川相模守屋敷より出火、西北風烈しく、付近の武家屋敷類焼す。
「お高祖頭巾の女」 (三年前、まだ豆六はおらず)
十二月中旬 浅草年の市。小間物屋梅村で万引き女による刺殺事件。
文政二年(己卯・閏四月)
「女刺青師」
元旦 深川の小雪、惨死。
正月 姫始め後の三日。辰と豆六、出先で小雪の事件についての情報を聞きつける。が捜査はそこまで。
(この間に「小倉百人一首」が挟まる)
十六日の朝 上野の池の端の出会い茶屋で若い女の死体が見つかる。
事件解決後、飛鳥山で花見。お源も参加しており、「呪いの畳針」で言及された「お源の三味線で踊り疲れた辰と豆六が反吐を吐いた」とされる花見と思われる。
一月十日立春
「小倉百人一首」 (辰と豆六が色気づいて若い。「女刺青師」の幕間にちょうど挟まる)
正月十日、辰と豆六歌留多取りの練習中。
嵐菊之助の来訪で手紙探し。
菊之助は殺され、手紙は無事に処分される。
十五日、歌留多大会。辰と豆六、恥をかいて帰宅。
正月二十一日大雪、同二十四日江戸および近国で大雪。積雪一尺二、三寸。
二月八日(初午也)、飯倉町六丁目より出火、二町余焼亡。…。
二月二十九日夜九時、本町壱丁目より失火。…。
「春宵とんとんとん」 (佐七が現場に出張っているから前期・雪の降る春・消去法)
雪の日 まむしの丹三、殺される。
「人面瘡若衆」 (この年佐七一家で花見せず)
春 此処一月あまり事件なし。
お粂が前日に見た女達磨・滝夜叉お滝、殺害される。このしろ吉兵衛、先着。吉兵衛と亡父伝次が余地逃がした女海賊のなれの果てと知る。
黒船忠太の隠し財宝、盆の施米の原資となる。
「まぼろし小町」 (夫婦げんか・先代への言及があることから初期と思われる)
春雨 夫婦げんかが収まった後、謎の投げ文。
まぼろし小町の正体をにまつわる事件。事件が長期化し、神崎からも催促が来るほど。
夏より罹病行る。死亡のもの多し(此節の病を俗にコロリと云。以下略)。
「熊の見せ物」 (「巾着の辰」と呼ばれるので前期、雰囲気から夏)
深川大栄楼で岡っ引き仲間の寄合い。隅田川を流れてくる鈴の音がする檻に丹波の太郎坊の札。中から熊使い月の輪お小夜。
お小夜の楽屋から上総屋常五郎の服毒死体。徳利に洗ったあと。
「嵐の修験者」 (己卯の年)
七月の大雷雨。横山町の大問屋藤屋の八郎右衛門殺害。一ヶ月後、下手人が捕まる。
「生きている自来也」 (七年前はまだ部屋住み)
八月 自来也、七年ぶりに現れる。
辰と豆六から報告を受けた佐七は神崎と相談。
自来也の正体を見破るが、事件の真相については一部読み違いも…。
「捕物三つ巴」 (お粂の悋気事件)
秋入梅の頃 家を飛び出したお粂が行き違った男の背負う葛籠の中から女の死体を見つける。喧嘩はうやむや。
三日後 神崎からお呼びが掛かり、長崎通詞鵜飼高麗十郎と推理勝負することになる。
「たぬき汁」 (帝銀事件より130年ほど前の文政年間。ちょうど130年前だと文政元年になるが)
九月十四日(後の月の翌日) 旗本榊原伊織屋敷にて大量毒殺事件。
十日後の二十五日 榊原家のお部屋様お銀が服毒死。翌日、神崎の依頼で調査を開始する。佐七、とりかぶとの毒を知る。
「団十郎びいき」 (団十郎の年齢から)
十一月 市川団十郎と中村歌七のひいき衆の対立にまつわる事件。
「敵討ち人形噺」 (「団十郎びいき」と同じ辰と豆六の江戸大坂自慢くらべ)
師走十五日 辰と豆六、義太夫について江戸大坂のお国自慢。
加賀屋の今様鏡山騒動。事件後に一家離散。
「からかさ榎」 (辰と豆六が佐七を無視して先走る)
節分(十二月二十三日) 印籠屋万右衛門失踪。
四十九日 印籠屋の娘お雪と藤太郎の婚礼。辰と豆六、神崎を動かして捕物を仕掛け、佐七に止められる。
十二月二十二日立春
十二月二十五日、乾烈風。未中刻、三味線堀佐竹侯御屋敷より出火、…。
文政三年(庚辰)
正月元日、南風吹きて温暖なること、季、春の如し。同三日、辰刻より江戸及び近国大雪降、積もること尺余り。
「三河万歳」 (消去法)
正月七草粥の翌日 浪人宮部源之丞殺害。
妹お国(実はいとこで情婦)、逃亡寸前に捕縛。
正月十九日暁、下谷車坂より出火、類焼あり。
二月二十一日、巳中刻、江戸大雷雨。
「ふたり市子」 (消去法・春先の雷)
春先 辰と豆六、根岸お行の松で雨宿り。辰が雷に怯える中、人殺しが起こる。謎の市子が走り去る。
佐七、市子の口寄せを利用して犯人を罠にかける。
「血屋敷」 (お銀が21、2歳とあるので、幼なじみの辰もほぼ同年齢と思われる。最適は文化十五年だが…)
ひな節句の前日 公方様のお鷹狩りで両国界隈の見せ物小屋が休みになる。
お源が持ち込んだ菱川流家元の事件を解決。辰は事件後一ヶ月ほど笑顔を見せず。
* この年、忙しくて花見をせず(「呪いの畳針」)とあるのは辰の心情に配慮したのかも知れない。
「人面瘡若衆」 (このしろ吉兵衛が登場)
春 お粂、近所のお義理で向島へお花見に出る。その帰りに柳橋の万八の因果くらべを見る。
滝夜叉のお滝殺される。このしろ吉兵衛出馬し、佐七に昔語り。
黒船忠太の財宝が見つかり、盆に貧民への大施米が行われる。
「蝶合戦」 (辰と豆六の失態から見て前期・消去法)
晩春(桜も散って向島も季節外れになるじぶん) 豆六の提案で向島の蝶合戦を見に行く。豆六、狂女に絡まれる。帰り道に尾行され、辰と豆六に二十尾行を命じるがそのまま帰途せず。
贋金作りの一味を捕らえ、(尾行の末、うっかり蔵に閉じ込められた)辰と豆六も救い出す。
「括り猿の秘密」 (三人揃っての行動・前期)
春四月 三人揃って浅草観音へ。かっぱらいから取り戻した荷物から本物の生首。ひさご屋の妹娘と分かる。
ひさご屋と釜屋の因縁。佐七、犯人に罠をかける。
「五つめの鍾馗」
四月二十八日 夫婦げんかの最中、来客により休戦。
緒方十右衛門、神崎の紹介で鍾馗探しを依頼。(神崎本人は甲府へ出張中)
「影右衛門」 (神崎からの叱咤を受けるなど佐七の若さが見える。前期・消去法)
夏 謎の怪盗影右衛門。神崎から叱咤をうけた帰り、謎の女に盛りつぶされる。
六月六日、大雷所々へ堕る。
「風流女相撲」 (茂平次の「駆けだし」発言から)
(この暑さで…とあるので夏) 女大関藤の花殺害。
「緋鹿の子娘」 (佐七の推理が不完全なので前期)
八月半ば。秋入梅 豆六、橋から飛び込んだ女を助けようとして逆に助けられる。
翌日 男女二人の斬殺死体が挙がる。
「狼侍」 (佐七が自ら動いていることから前期)
九月十三日(後の月の夕方) おおかみ侍に絡まれる。彼の殺人予告を受けて追った先で、金座役人藤間丹波が飼い犬に噛まれて死亡。自殺をほのめかす遺書を残すが。
「七人比丘尼」
秋の彼岸。一家で吉兵衛を訪問。帰り道で若い娘とそれを追う比丘尼と遭遇。
比丘尼の連続殺人が起こる。
「冠婚葬祭」 (茂平次の「駆けだし」発言から)
秋も深まって
茂平次の縄張りの近く、浅草馬道の紙問屋扇屋の嫁が五月屋の後家の死体とすり替わる。
十月十六日、江戸大風雨。品川で舟覆り、人死ぬ。
「双葉将棋」
十月半ば 将棋家元・大橋家を巡る騒動を解く。
「山吹薬師」 (茂平次の態度「後進を指導するのも…」から)
師走間近の二の酉 佐七と茂平次に殺人の予告状。
十二月六日、江戸及び近郊大雪。積もること一尺余り。
「若衆かつら」 (雪の日付け。佐七が自ら動いている)
師走五日雪 佐七一行、根津新道で襲われている老女を救う。老女の家で女主人が死亡。血まみれの猫がいるのに外傷無し。良庵先生の見立て。
その晩、死体消失。
「猫と女行者」 (類似の「女祈祷師」との兼ね合いで前期)
秋頃 佐七、八丁堀の旦那の指示で女行者・立花左京に探りを入れる。
師走十七日 左京惨殺。
十二月二十九日、元白銀町より出火、本町辺焼亡。
大晦日の前日、犯人を捕縛。
文政四年(辛巳)
一月二日立春
「春姿七福神」 (茂平次の「駆けだし」発言から早い時期の事件と推定)
雪も降らねば風も吹かず。
初春 歌川国富の「春姿七福神」のモデルが次々に殺害される。
* 化政度に活躍した横綱は居ない。これは改作による異同と思われるが、名前からして三代の丸山権太左衛門がモデルと思われる。
正月十七日、相州鎌倉八幡宮焼亡。同日、品川宿残らず焼亡。(一書に、この火災は正月十日申刻、品川本宿より出火、全宿焼亡せしものとす)
同月十八日、芝新網町より出火、大火と成。同日石町より本町三丁目迄焼る。同夜、小石川伝通院前五丁余焼亡。全て正月、火災多し。
二月中旬より風邪流行。
「まぼろし役者」 (佐七の「生まれて二十八年」発言・史実の風邪流行)
佐七大患い、一時は春を越せまいとまで言われた。(この年にポカが多いのは病み上がりの所為?)
三年前に姿を消した中村粂之丞の謎。
「呪いの畳針」 (「花見の仇討ち」の直前)
三月 花見の話題中、お源が来客を伴う。回向院前の錦屋の旦那、昨年花見の時分に倒れた義兄(ろうそく屋・銭屋勘右衛門)の死について疑惑を吐露する。
「花見の仇討ち」
飛鳥山で花見。昨年初版の「八笑人」を模した殺人事件が起こる。
三月二十八日、浅草花川戸より出火、西南風烈しく、近傍の武家・町屋多く焼亡す。
「水晶の珠数」
四月 浅草の乞食殺し。
「非人の仇討ち」 (辰と豆六の朝帰り・前期)
初鰹の頃(旧暦四月頃) 朝帰りの辰と豆六に意見しようと待ち構える佐七とお粂。酒を飲みながら待っていたら逆に意見される。湯島・宮川左近一座の女形金子雪之丞が来訪し、説教はうやむやに。
辰と豆六、雪之丞を送っていく。宮川左近、舞台中に殺害される。
事件解決後、改めて辰と豆六に説教。
「色八卦」 (佐七の推理ミス・お粂のフォロー)
四月十八日 湯島の富くじを買う。(疲労気味の佐七に湯治をさせようと考えた)
三日後、女易者・妙見堂梅枝殺害。
佐七の読みが外れて事件が混乱したときにお粂の一言が突破口を開く。
「白羽の矢」 (佐七の推理半分はずれ)
春の半ばより江戸の町屋に白羽の矢が立つ。
盛夏(両国の川開きもとっくにすんで) 辰と豆六、吉原からの朝帰り。下谷広徳寺前の仏具屋に白羽の矢を見る。
佐七、やまねこ源太に目星をつける。その推理は半ば当たり、半ば外れていた。
「水芸三姉妹」
夏 博多屋三姉妹の殺人事件を説く。
春より夏にいたって大旱。…正月より七月に至、二十一度雨降し迄也。
「二人亀之助」
佐七、春の大患い(「まぼろし役者」)が残暑でぶり返し床に伏せる。
武蔵屋に現れた二人の亀之助の真偽を付ける。
「狸ばやし」
秋 佐七、辰と豆六を伴って武蔵野の狸ばやしの評判にわざわざ出向き殺人に遭遇。
勘定方浅香伝八郎、偽金作りを摘発。
「幽霊姉妹」 (佐七、単身乗り込んで落とし穴に嵌るミス)
お盆の十六日 さくら湯で噂話を聞き、山宇の供養流しを見張る。
山宇のお家騒動を解決し、旧主柏屋伝右衛門との和解もなる。
「好色いもり酒」 (いい若いものが…)
九月 肩や腰にコリを感じた佐七、通りかかったあんま徳の市に揉んでもらう。
笹井夫妻からいもりの黒焼きを頼まれた話をする。その翌日に笹井夫妻が別々場所で毒を盛られる。
九月七日、申刻より、江戸俄に大雷雨。
「三人色若衆」 (「たぬき汁」より後、佐七の幼馴染巳之介の存在から前期と推定)
秋のお彼岸から十日ほど後 辰と豆六、佐七の幼友達・植木屋職人巳之介と会う。巳之介、義兄の負傷で加賀屋で缶詰仕事。
秋のお彼岸から21日目 佐七、巳之介の義兄友造を見舞う。
大日坊とりかぶとで毒殺される。佐七、女人奉加帳を発見する。
九月二十八日 銀弥の死体発見。茂平次、密告状により先着。
十月八日 生きている銀弥を発見。
巳之介、島送りになる。
十月十九日、未刻、江戸大雨、大雹降る。
「黒蝶呪縛」 (風羅坊三郎、五・六年前に佐七の”世話”になる)
十月 佐七、草双紙にはまる。
服部十太夫より花嫁紛失事件について相談を受ける。
「うかれ坊主」 (佐七自ら聞き込みに参加しているのでおそらく前期)
十一月始め お源の来訪。うかれ坊主、ふぐにあたって死亡するが焼き場へ運ぶ途中で死体がすり替わる。
十二月十八日、夜四ッ半時、日本橋瀬戸物町より出火、室町焼る。
「万引き娘」
紅屋の恩人萩原の娘於兎女、持ち込まれた縁談を忌避するために万引きを働く。
十二月十八日 佐七、浅草の歳末警戒に当たる。於兎女に化けた春之助、万引きを咎められて刃傷沙汰。翌年二月に獄門。
翌年三月 於兎女剃髪を思いとどまる。
文政五年(壬午・閏一月)
正月元日 雪尺に満つ。同七日、江戸大雪。積もること尺余り。
一月十三日立春
「屠蘇機嫌女夫捕物」
正月八日 夫婦げんかで家を飛び出し、辰と豆が追う。事件にぶち当たって引き返し喧嘩はうやむや。
「悪魔の富籤」
春(章題より) 湯島の富籤突きで一等を当てた五人の一人中村扇之丞が殺される。
二月二十六日夜、戌中刻、呉服橋松本丹波守上屋敷焼失。子刻、芝神明町・宇田川町・三島町辺大火。寅中刻に至りて鎮火。
三月三日、未刻頃より江戸大いに雷鳴し、大雨大雹降り、諸所に落雷あり。
「神隠しにあった女」 (佐七が十年まえの宝屋の一件を知らないのでデビューから十年以内)
ひな祭りの晩 宝屋のお福神隠しに遭う。
十日 お福から姉のお蝶への手紙。
十三日(失踪から十日後) 小松屋の手代宗七、お福と遭う。
「吉様まいる」
三月半ば 紅殻屋のお七の遺児の父親探し。三人の候補にそれぞれ辰・豆六・お粂を配置。
「女難剣難」 (佐七珍しく誤認逮捕・前期・消去法)
桜も散って若葉の頃 女役者の座長・嵐染八が裸の死体で発見される。良庵の見立てに寄れば着物は持ち去られた模様。
懇意の占い師白雲堂を捕縛。(持ち去られた着物を所持)
お蝶の証言により真犯人が上がる。
五月三日、木挽町芝居より出火。
「武者人形の首」 (佐七が自ら動いているので前期・消去法)
五月三日 人形店山形屋の店頭での諍い。
翌日、買った武者人形を盗られたお霜が佐七の元に相談に来る。
六月より霖雨。戸田川出水。
「狸御殿」 (史実上の霖雨から推定)
梅雨(五月雨)の日 辰と豆六、矢部駿河守の下屋敷で狸の姉弟に化かされる。
一月後(まだ梅雨が続く) 佐七、海老床でたぬき御殿の話を聞き、自ら調査に赴く。
「半分鶴之助」
七月半ば 佐七一行、浅草の茶屋で鶴之助と二人の母を目撃。16年前の取り違え事件。
鶴之助の失踪からその素性が大身旗本佐川伊織之助の落胤と判明する。
「石見銀山」
秋 宮地しばいの女役者13人、石見銀山のねずみ取りを飲まされる。
翌日、八王子より戻り駆けつける。寺社同心寺尾玄蔵。日頃から佐七を買い、出馬を懇望する。
良庵先生。石見銀山(砒素)を検出する。
「恋の通し矢」
佐七の懐に投げ文。お粂の爆発を寸前でかわす。
翌日(秋彼岸の中日=秋分の日) 通し矢の子弟対決。師匠一夢斎毒を飲んで死亡。
寺社同心(名前不明)、佐七に事件を任せる。
八月二十二日、大風雨。夕方津波、深川木場辺、三尺、陸へ上る。
「どくろ祝言」 (辰と豆の朝帰り・等々)
五・六年前、棚倉藩五島山城守取り潰し(=小笠原家が棚倉から唐津へ移封・文化十四年)
九月 辰と豆六、朝帰りでお灸を据えられる。元棚倉藩士萩原作之進の娘深雪が奇形児を産んだ話をする。(三ヶ月前の六月)
半月後、萩原家のお家騒動を解決。
「くらやみ婿」 (佐七二十九歳)
十月 呉服屋・甲州屋の番頭喜兵衛からお松様の腹のこの父親を探して欲しいと頼まれる。
「夜歩き娘」 (辰と豆六が弁天お蝶を知らない・茂平次との兼ね合い)
十月二十日前後(誓文払いの安売り) 既知の弁天お蝶(一昔前の巾着きり)から柏屋の一件の再調査を頼まれる。
「仮面の若殿」 (佐七の浮気性が出ていることから前期)
十一月半ば小春日和 佐七、すり騒動を見る。翌日外泊帰りの辰と豆六、佐七と同じ光景を別の場所で目撃し自分の手柄にして話す。
騒動の当事者を探るうち、二人がふぐに当たって死亡。現場を縄張りとする黒門町の弥吉に一報。
神崎より土岐家の若殿の捜索を依頼される。若殿付きの家来がすり騒動の関係者と知って困惑。
十二月五日、江戸大雪。積もること二尺余。近来稀なる大雪。
「白痴娘」 (雪達磨が作れるくらい積雪有り)
師走15日 音羽のこのしろ吉兵衛を久しぶりに訪問。その帰り道、雪達磨の中から女の死体。
十二月二十四日立春
文政六年(癸未)
「角兵衛獅子」 (お粂の悋気の様子が若い)
一年前の正月十一日 柳家で百両紛失。
元日早々、雪が一尺も降って。
七草 雉子町の家主七兵衛、角兵衛獅子の幽霊?を見る。
十一日 左七、一人で神田蝋燭町のこんぴら様の夕参り。七兵衛に相談をもちかけられる。
「身代わり千之丞」
二年前(文政四年)一月 むささび半次、島送りになる。
二月 半次島抜けしそのまま行方知れず。
茂平次、中村千之丞の正体がむささび半次であるという情報を得て捕縛に向かうも逃げられる。
佐七、事件の真相を知り、手を引く。事件終結は端午の節句。
四月・五月、旱天。五月より霖雨。
幕府の上層部の改革で神崎甚五郎が失脚。佐七も江戸を離れ、辰は奥州二本松(「夢の浮橋」)に豆六は郷里大阪へ帰る。(「銀の簪」・「夢の浮橋」より)